第25話 ニンニクといえばこいつですよね、ハイ。
前回のあらすじ:ハンバークの村に2柱の神を祀った。
ハンバークの村で大量の海の幸を手に入れ、ホクホク顔で食堂へと戻った私達は、次の日から早速新たな品を作り始めた、とはいっても、量こそ多いものの、種類はさほどでもないので、作れても1品か2品がいいところである。
ただ、あまり種類がないとはいえ、昆布、しかもかなり良質なものが手に入ったので、出汁や隠し味で思いっきり効果を発揮してくれることは間違いなく、マーブル、ジェミニ、ライムのミートパスタはもちろんのこと、一緒に付けて出すスープやサラダでも味の向上が期待できるのは大きい。実際、隠し味程度に少し加えて作ったこれらの品々だったが、メチャクチャ美味くなっており、マーブル達も大喜び。味とこの喜びの表情を見ることができて私は2度美味しい思いをしたのだった。
その後は特に街に繰り出すこともなく、森の中でマーブル達と一緒に畑やカエデの木を世話したり、魔物を狩ったりしてまったりと過ごしていた。
私達が森に籠もっている間には、ケンプファーの4人が依頼ついでに食事に来たり、その4人と一緒に別の冒険者が来たりしていた。もちろん来てくれたお客さん達にパワーアップしたボロネーゼを提供し、その味で驚かせたのは言うまでもないことだった。
そんな中、ハンバークの村からタゴサクさんとゴンタさんがやって来ていた、何やら大きな包みを用意して。
「おっ、タゴサクさんにゴンタさん、いらっしゃい。今日はどうしました? 何か急な用事でも?」
「おお、アイスさん、あんたの店がどんな感じか気になってな。挨拶も兼ねて来たんだ。まあ、他にも用事があるんだけどな、ははっ、、、。」
「用事ですか? また何か面倒事でも?」
「いや、それは今のところ起こってないから安心してくれ。」
「最近ではな、あれらがいなくなったおかげで、安心して漁に出られるようになった上に、獲れる魚介類の量も質も良くなっていてな、トメばぁさんの昆布やワカメも獲れすぎて捌ききれないと悲鳴を上げているくらいでな、、、。」
・・・それ、絶対トリトン陛下が一枚噛んでいるな。今度話を聞いてみますかね。
「おお、それはよかったですね。こちらも安心して仕入れに向かえるってもんですよ。とりあえず、お礼はあの2柱の神にしてくれれば喜んでくれると思いますよ。」
「もちろんそうさせてもらうよ。あと、それのおかげで、最近はうちの村にも商人が来るようになったんだ。」
「商人がですか? かなり足下見られてませんか?」
「いや、それは大丈夫だと思う。何故か知らないけど、あの村でふっかけたり足下を見たりした商人は、村を出た途端、魔物に襲われているんだよ。しかも、その魔物は不思議とそういった商人しか狙わないんだよなぁ。それもあって、今は真っ当な商人しか来てないんだ。」
ああ、これ間違いなくトリトン陛下の仕業だ。けど、これはいい事だと思う。やはりこちらでも感謝しないとな。
「そんな訳で、俺らもお世話になっている商人がいるんだけどよ、その商人が言うには、お願いされて引き取った商品があってな、その使い途がわからねぇんだと。それでこっちで何か使えたらな、と持ってきたんだけど、、、。」
「ふむ、その大きな袋がそうなんですね? どれどれ、、、。」
ゴンタさんが先程から持っていた大きめの袋を受け取り、中を確認してみる。ん? これは、、、。に、ニンニクじゃねえか!! しかもこんなに大量に!! しかも、これかなり身が詰まっている上に、香りもニンニクにしては控えめだ。かなり上質なやつだぞ!?
「こいつは皮を剥くのも面倒だし、食べても辛いだけで臭くてかなわないから、俺らでも困っているんだよ。」
「・・・ゴンタさん、タゴサクさん、今度、その商人が村に来ましたら、これを定期的に仕入れられるか聞いてください。これは、かなりの掘り出し物ですよ。」
「・・・まさか、アイスさん、これの使い方を知っているのか?」
「ええ、これはもの凄く使い途のあるもんですよ。折角ですので、試食ということで一品お出ししましょうか?」
「非常にありがたい話だが、俺らも一応客として来ているから、お金は払わせてもらうよ。」
「ありがとうございます。とりあえず、こいつを使った料理については今回はサービスということで。」
そういうことなら、ということで、ゴンタさんはマーブルミートパスタを、タゴサクさんはライムミートパスタを頼んだ。注文を受けたので、私達はそれぞれ配置に就いた。慣れたもので、注文の品を完成させ、今日用意した魚介のスープを添えて2人に出した。魚介のスープは昆布出汁をベースに塩で味付けしたもので、具は各種野菜はもちろんだが、先日手に入れたタコさんとイカさんもバッチリ入ったものだ。
先日に運ぶ用のカートを作り、簡単に運べるようになった。今回は他にお客さんもいないので、私が自分でカートを押す。マーブルとジェミニはそれぞれゴンタさんとタゴサクさんにパスタとスープを渡し、ライムはカトラリーを入れたものをそれぞれ2人に渡した。その姿は非常に可愛らしく、私だけでなく、ゴンタさんもタゴサクさんも目尻が下がっていた。
「う、うめぇ!! アイスさん達って、いつもこんなに美味いもんを食っているのか!?」
「いやぁ、このミートパスタもそうだが、このスープもかなり美味ぇな、って、これに入っているのは、まさか!?」
「ええ、そのまさかですよ。美味いでしょ?」
2人は頷くと、食没してしまったので、その間に試食品を作り上げてしまおうか。
作るものといえば、そう、ニンニクとパスタと言えば、アレである。みんな大好きペペロンチーノ!! とはいえ、唐辛子がないから、ニンニクとオリーブオイルのパスタになるから、ペペロンチーノとは言えないんだけどねぇ、、、。まあ、そこは試作ということで、、、。では、始めましょうか。
まずはニンニクだけど、ふむ、1つにつき8片あるか。1人2片として4片かな。4片を軽く潰して皮を取り去る。やはりいいニンニクだけあって、芯は大丈夫だな。取らずにそのまま使うか。今刃物は手元にないから、水術で作ってしまおう。2つは輪切りにして、残りの2つはみじん切りだな。
次はニンニクオイルパスタを茹でる用の鍋を用意、普段使っている茹で汁の一部をその鍋に移し換えて点火。というのも、今回作る予定のニンニクオイルパスタは、塩分を少し多くして茹でる必要があるからだ。沸いたら、いつもより少し多く塩を投入。大体割合にして1.5%くらいの濃度にしてある。もちろん味見も忘れない。ちなみに茹で汁を移し換えたのは、ある程度小麦粉が溶けた状態の茹で汁で茹でた方が美味しく仕上がるからだ。
お湯の準備が出来たら、今度はフライパンに輪切りにした方のニンニクを投入、そしてニンニクがヒタヒタになるくらいまでオリーブオイルを投入。弱めに点火する。若干ニンニクの色が変わってきたら、みじん切りにしたニンニクを投入、その後すぐに沸かしたお湯に麺を投入する。少ししたら、フライパンに先程入れたオリーブオイルより少し多めの茹で汁を投入、かき混ぜて少し乳化させる。
麺については、茹で上がる少し前にフライパンに投入する。茹で上がりの時間をソースと絡ませ終わったときにする必要があるためだ。しっかりと混ぜ合わせてソースの状態を確認、うん、良い感じにトロッと仕上がっているな。今回は皿を6つ用意する。作ったのは2人前だけど、試食なので私達4人とゴンタさんとタゴサクさん2人の合計6つだ。
皿に盛っているのだけど、マーブル達が待ちきれないといわんばかりに足下にスリスリ攻勢を仕掛けてきた。ここまでしてくるのは随分久しぶりな気がするなぁと、幸せと懐かしさをかみしめながら盛りつけをしていく。よく見ると、ゴンタさんとタゴサクさんまでこちらを凝視していた。
テーブルに2人の分を、カウンターに私達の分をそれぞれ置き、マーブル達はカウンターテーブルの上に乗った。
「お待たせしました。これが先程もらったものを使った料理です。この料理は材料が1種類足りないので実は未完成の品ですが、これだけでも十分美味いとは思います。取り敢えず食べてみてください。」
いただきますの挨拶をしてから食べ始める。・・・やはり唐辛子のアクセントがない分、味に締まりがないけど、正直、これはこれで非常に美味しかった。
「ミャア!!」
「アイスさん!! ミートパスタも美味しかったですが、これもかなり美味しいです!!」
「ピー!!」
マーブル達には好評だね。ってか、マーブルにしろ、ジェミニにしろニンニクは平気なんだね、今更だけど。こうして一緒に同じものが食べられるから嬉しさも楽しさも倍増である。
一方、ゴンタさんとタゴサクさんはというと。
「ア、アイスさん、、、。本当にさっきのやつを使った料理か? こんなに美味くなるなんて信じられん、、、。」
「これでも未完成の料理なのか!?」
「そうですね。材料はオリーブオイルと塩、あとは先程のニンニクだけですよ。あ、パスタと茹でる用の水も必要か、でも、それだけですよ。」
こんな感じでまだ未完成ではあるけど、ペペロンチーノならぬ、ニンニクオイルのパスタは好評であった。唐辛子が手に入ったら、早速メニューに入れようとは思っているけど、しばらくは賄い専用だね。折角なので、ハンバークの村で出せるように、ゴンタさん達に焼きニンニクを作って実際に食べてもらって好感触だったので、作り方を教えた。まあ、火加減だけ注意すれば問題ないからね。
しばらく会話を楽しんだ後、タゴサクさん達は村へと戻っていった。ニンニク臭くなっているけど大丈夫かなぁ? まあ、そこは私が心配することじゃないよね。
・・・ちなみに、ペペロンチーノってもう1種類あるんだけど、それは唐辛子が手に入ったときでいいな。それはそうと、後でアマさん達にもお裾分けしないとね。トリトン陛下が催促しに来ないうちにね。
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