第24話 ドサクサに紛れて、2柱の神を祀ってもらいます、ハイ。

前回のあらすじ:タコさんもイカさんも良かったけど、カニさん最高!!



 村からのまさかの申し出に私が悩んでいると、マーブル達と遊んでいたジェミニが話しかけてきた。


「アイスさん、もし何でしたら、ここにアマデウス様とトリトン陛下を祀る場所を作ってもらっては? ここなら港ですから、トリトン陛下も嬉しいでしょう。アマデウス様も豊富な海の幸を頂けて嬉しいのでは?」


 なるほど。食堂に作ろうと思っていたけど、あそこよりもここの方が良いかもしれないな。それに、いい加減作っておかないと、アマさんはともかく、あの陛下だから下手すると連日私に早く作れって文句を言ってくるかもしれないな。またオッサンに戻ってしまったからそれは避けないと。


「では、もしよければ、空き家を1軒頂けませんか?」


「空き家を? もしかして、アイスさん、ここに住むのかい? もちろん大歓迎だが。」


「いえ、その空き家に2体の神像を起きたくて。」


「教会でも作るつもりか? 残念だが、新たな教会を作ってしまうと、神教会の連中に目を付けられてしまう、、、。その前に、その神さまは一体どんな神さまなんだ? 我が国では、神教会の神しか認められておらんが。」


「いえ、教会にするつもりはありませんよ。あくまで像を置かせてもらうくらいです。ちなみに、その神さまですが、1体は食の神であるアマデウス神で、もう1体は海の神であるトリトン神です。この2柱の神さまは非常に仲がいいので、揃っておいても問題ないですから。それで、たまにで構いませんので、少し海の幸を供えて頂けると助かります。」


「まあ、他ならぬアイスさんの頼みであればその話許可しよう。というより許可する以外に恩を返せないだろうからな。」


「いえいえ、みなさんは場所を提供した程度の認識で結構ですよ。それに、食の神様と海の神様と仲良くなっておくのは皆さんにとってもいいことだと思うのですが。」


「・・・確かにそうだな。ところで、アイスさん、なんでアンタがその2柱の神さまのことをそこまで知っているんだ?」


「ああ、それは単純な話で、マーブル達にはそれぞれアマデウス神とトリトン神の加護がありますので。」


 そう、マーブル達が、である。私も含めての話だけど、マーブル達という言葉の仲に私も含めてあるという点で嘘は言っていない。まあ、私は隠蔽してるから神本人であれば別だけど、基本的に鑑定かけられてもバレないから問題なし。


「おお、なるほど。それならあの強さも納得できるな、ウン。」


 タゴサクさん、ゴメン。あの2柱の加護ってこっちに転生したときにもらったみたいだから、加護なくてもあの程度の魔物なら問題ないんだ。言わないけど。


 というわけで、譲ってくれるという空き家に案内してもらう。場所的には港に近い感じかな。というか、こんな良い場所が空き家!? ここってどれだけ寂れた場所なんだよ、、、。


「こんなぼろ家で申し訳ない。ここはクラーケンが出始める前から誰も住んでいない家なんだ。ここなら仮に出て行った住民が戻ってきても文句は出ない、というか言わせないから安心してくれ。そんなわけだから、アイスさん達の好きなように作り直してくれて構わない。けど、神教会に目を付けられたくないから、教会のような派手な装いは勘弁してくれよ、ハハハッ!」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きますね。」


「ん? すぐにも着手するつもりか? 迷惑じゃなければ、このまま見ていても問題ないか?」


「かまいませんよ。それほど大それたものは作るつもりもないので。」


 確か、食堂を建てたときに余った木材とか残っていたよな。とりあえず出してみて足りるか確認しますかね。


「お、おい、アイスさん、あんた収納持ちだとは知っていたけど、どれだけ容量あるんだ?」


「さあ? どれだけかは分かりませんけど、結構大きいと自負はしていますね。」


 本当は無制限だけどね。タゴサクさんが驚いているのを余所に準備を始めていると、片付けが終わった村民達が次々とギャラリーに加わっていく。みんな、そこまで暇なのか、、、。まあ、今のこの村の状況だと致し方ないかな。


「ジェミニ、木材これだけしかないけど、作れる?」


「アイスさん、私達はここには住まないんですよね?」


「うん。ここはあの2柱の像を置くだけだからね。まあ、ここに来たら挨拶には来るけどね。」


「それなら大丈夫です! ワタシ達にお任せあれ!!」


「ミャア!!」「ピー!!」


 3人が揃って敬礼した。うん、やはり可愛い。村のみんなも3人の可愛さに目尻が下がりまくっていた。


「では、任務を説明します。まずはマーブル隊員は、この家を風魔法で切り刻んで下さい。切り刻んだ木材は、この村のみなさんに燃料として進呈しますので、それを意識した大きさにして下さい。」


「ミャア!!」


「次に、ジェミニ隊員ですが、アマさんの像と陛下の像をそれぞれ作ってください。姿形は本人と分かればいいので、表情についてはお任せします。」


「了解です! 当人達そっくりに作り上げるです!!」


「ライム隊員ですが、マーブルが切った木材の塩抜きをお願いしますね。表面だけで十分そうです。」


「ピー!」


「で、各自の作業が終わったら、小屋の作成にかかりましょう。私が手伝えることはありませんので、せめて応援させてください。では、開始!!」


 まずはマーブルが家を風魔法で切り刻んでいく。木の部分は綺麗にマキに適した大きさと形に整えられてライムが待機している場所に飛んでいった。届いた木材はライムが木を体に取り込んでは吐き出していた。


 解体された木の家は、木の部分だけは丸裸にされた状態だったけど、土壁とかも結構残っていたのを見て、ジェミニがこう言い出した。


「アイスさん、あの土壁を使ってもいいですかね? あれなら良い状態のものが作れそうです!」


「もちろん、使えるものは使いましょう。で、小屋には土壁使わないの?」


「使わないです。用意した木材に、マーブル殿が何か付与をする予定らしいので、それを中心に作っていくです。」


「なるほど。基本的にはみんなにお任せだから、そこは好きにして良いよ。」


「了解です!」


 私の許可を得たジェミニが土壁を土魔法で完全に崩したが、残念ながら水分が足りないみたいで、こっちを見てきたので、水術で水分を元土壁に補給すると、しっかりと粘土みたいな感じに復活した。それを確認したジェミニが像の加工をし始めた。


 加工は進み、次第にアマさんとトリトン陛下の姿形になっていく。実は2人は結構似ているところがあって、ロン毛の髭もじゃという部分では全く同じである。アマさんは穏やか、陛下はガサツと性格通りの表情であるが、色が付いてない状態でキリッとした表情にしてしまうと区別が付けづらかったりする。あんた達本当は兄弟なんじゃないか? と以前聞いたことがあるけど、気のせいだと否定されてしまった。両方にだ。本当はそれ隠しているんじゃないの? とか軽く追求したけど、似ているのは事実だけど、血縁とかの関係は皆無だそうだ。アマさんに、他人のそら似という言葉がお主の以前いた国にあったのではないか? と言われ、確かにその通りだと納得したことを思い出した。


 そんなことを思い出しているうちにも像は完成した。うん、やはりソックリにできている。流石はジェミニだ。表情についても、アマさんは穏やかに微笑んでいる姿の像で、陛下は美味いものを食べたときによく見せる、大笑いの表情の姿の像だった。どちらも嬉しそうな様子が見て取れた。


「アイスさん! 完成しましたが、どうですか?」


「うん、いい出来だね。これなら2人とも喜んでくれるよ。ありがとうね、ジェミニ。」


 マーブル達も見事な出来映えと思ったのだろう、お見事と言わんばかりにジェミニの周りを走り回っていた。ジェミニは照れていた。やはり控えめに言っても可愛すぎるぜ。と、喜んでいる私達をよそに、村の皆さんは驚きながらも聞いて来た。


「アイスさん、アマデウス神とトリトン神とは、あのようなお姿なのか?」


「みたいですね。マーブル達はあの2柱を見たことがあるそうです。あの喜び方を見ればソックリだということがわかりますね。」


「なるほど。確かにそうだな。」


 像は完成したので、あとは焼き上げである。


「では次の作業ですが、ジェミニは切り出しを、ライムは組み立てをお願いしますね。マーブルはあの2柱の像を焼き上げてください。」


「ミャア!」「了解です!」「ピー!」


 3人は敬礼した後、作業に戻った。ジェミニが土魔法で小屋の居住スペースを作り上げてから、木材を切り始めた。すでにどのような形にするのか決まっていたのだろう、もの凄い速さで小屋が完成していく。私も驚いたけど、村のみんなはさらに驚いているようだ。


 そんな驚きをよそに、小屋が完成したと同時に、アマさんと陛下の像の焼き上げが完了し、風魔法での冷却も完了したようだ。流石に水術で強引に冷まそうとすれば、折角作った像が壊れてしまうので、私の出番は無しだ。


 完成した像を持って、完成したばかりの小屋に入る。もちろんマーブル達は付いてきている。本当は作った本人達から入って欲しいけど、私が入らないと入ろうとしないんだよね。居住スペースに像を置く場所が2つ、お供え物を置く場所が1つそれぞれ作られていたので、左側にアマさんの像を、右側に陛下の像をそれぞれ置いた。なんでその配置にしたかというと、単純に右側の方が海に近かったからだ。


 像を設置して、道中で狩ったワイバーンの肉と、先程狩ったばかりのタコさんとイカさん、カニさんをそれぞれ調理したものをお供え物を置く場所に供えると、像が光り出して、視界が暗転する。あ、これは呼び出しだね。


 暗転が終わると、周りには白い大理石のようなもので囲まれた通路だった。いつものアマさんのいる場所である。今回はマーブル達も一緒にいる。先を進むと、白い大理石の部屋には似つかわしくない、畳の敷物の上にマット、その上にこたつが置かれている場所に到着。そのコタツには2人のロン毛の髭もじゃがいた。言うまでも無くアマさんとトリトン陛下である。


「おう、アイス達、久しぶりじゃのう。」


「おう、アイス達、来たか!!」


「アマさん、陛下、お久しぶりです。」


「おいおい、俺はこの世界では皇帝じゃないんだぜ、その呼び方はどうなんだ?」


「そうでしたら、トリトン神様、とでもお呼びすれば?」


「だぁーーっ! 悪かった! ダメだ! 凄ぇ違和感がある、、、。今まで通りでいいや。その方が楽だ、、、。」


「ではお言葉に甘えますね。」


「いきなりここに連れてきて済まんかったのう。とりあえず、ほれ、コタツに入るが良いぞ。もちろん、マーブル達も一緒にのう。」


 慣れているとはいえ、ここは私達の住んでいる世界ではないので、許可が下りてからコタツに入ったりするのが礼儀である。どれだけ目をかけてもらっても、こういった一線は越えてはいけないと思っている。


「アイスよ、ようやく欲しいものが手に入ったようじゃのぅ。」


「おかげさまで。これでまた美味いものが作れますよ。」


「ホッホッ、そいつは楽しみじゃのう。」


「アイスよ、お前さん達、いや、正確にはジェミニか。作ってもらって感じたが、もの凄ぇソックリに作ってあるじゃねぇか! しかも、美味いものをもらったときに大笑いする姿にするとは、やるじゃねぇか!! 凄ぇ嬉しいぜ、ありがとよ!!」


「そうじゃな、ワシからもお礼を言わせてもらおう、済まぬのう。」


「いえ、お二方が喜んで頂けて何よりです!」


 そんな感じでしばらくアマさん達とのんびり会話をした。特にトリトン陛下は海の近い場所に像を建ててくれたのが嬉しかったらしく、何かとお礼を言ってくれてた。

よほど嬉しかったのか、ハンバークの村にトリトン陛下が加護をくださるようだった。これで村民は海の魔物に襲われることなく漁に励むことができるそうだ。ちなみに、誰に加護を授けるかは私に一任するとのこと。神官じゃないんだから、、、。


 また、あの2柱を祀っている小屋については、不壊の付与が付くらしい。これもあのお2人らしいといえばらしいのかな。相変わらず、供え物は欲しいけど、欲しいのは量ではなく回数だそうだ。できれば、愚痴でも構わないから、その日の出来事とかを話してくれると嬉しいとか言ってたな。


 ちなみに、タコさんもイカさんもカニさんも2人は美味い美味いと言って食べていたっけな。


 しばらく会話をした後、また暗転して2人の祀ってある小屋に戻ってきた。小屋から出ると、村の人達は驚いていたまましばらく動かなかった。ようやく気を取り直して話を聞いてみると、私達が小屋に入って少ししたら、小屋が光ったらしい。光ったのはそれほど長い時間ではないし、範囲も小屋だけだったので、村以外ではその光に気付くものはいないようだけど。


 私があの2柱に深く関わっていることはあまり言いたくないので、遠回しに、おかずの一品だけでもいいので、たまに供えてくれると喜んでくれるかも、という感じには話しておいた。もちろん、そのときに一緒にその日にあった出来事や愚痴などでもいいから話をしてくれると嬉しいんじゃないかな、ということも伝えるのは忘れなかった。


 それについて、ゴンタさんが、神さまに伝える言葉って何か難しい儀式みたいなものが必要ではないのか? と言ってきたので、自分が神さまなら、そんな面倒なことよりも、気持ちを込めて言葉を伝えた方が嬉しいんじゃないかな、ということを言うと納得してくれたよ。


 そんなこんなと1日でいろいろな事があった訳だけど、食堂の場所などを伝えて、たまに来てくれると嬉しいと言うことに加えて、1ヶ月に1度くらいは商品仕入れなどでハンバークの村に来ることも伝えた。一応私もハンバークの村所属の冒険者として登録してあるからねぇ。かなりお礼を言われて村を後にして、食堂に戻った。


 食堂に戻ってからは、いつもの仕込みやら新メニューを考えたりと、いろいろしながら風呂と洗濯を済ませて、マーブル達のモフプヨを堪能して眠りについた。









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