第22話 久しぶりの海の幸に大満足です、ハイ。

前回のあらすじ:定番の種類とはいえ、海の幸を大量にゲットしたぜ!



 クラーケン8体(内訳:タコさん4体、イカさん4体)にヘルクラブという巨大カニを倒して、その素材を手に入れることが出来、釣果に大満足している私と、どんな料理が出てくるか楽しみで仕方ないマーブル達をよそに、タゴサクさんが恐る恐る聞いてきた。


「ア、アイスさん、あんな凶暴な魔物を何事もなく倒していたけど、あんた達、一体何者だい?」


「いや、何者? って聞かれても、お客さんのほとんど来ない、しがない食堂を経営しているタダの親父ですよ。」


「「「それはおかしい!!」」」


「いや、そう突っ込まれましてもねぇ、、、。あ、料理も少し自身ありますけど、うちの食堂の自慢はここにいるマーブル、ジェミニ、ライムという可愛い子達と触れ合えることですね!!」


 マーブル達は照れていたけど、本当のことだから仕方がない。そんな私の台詞をよそに、タゴサクさんだけでなく、ゴンタさん、トメさんも呆れた顔をしていた。


「あー、その、な、聞き方が悪かったかな、、、。アイスさん、今までどこかの国でかなりの活躍をしてたんじゃないかってね、、、。」


「いや、そんなことは全く無いですよ。現に、先程寄ったクルンの街では、冒険者登録を断られていますし、商業ギルドではかなり足下を見られる程度には舐められる存在でしたしね。いやぁ、ここで冒険者登録をしていただけたのは幸いでしたよ。」


「そ、そうか。そう言ってくれると助かるのだが、、、。本当にウチの登録で構わないんだな?」


「構うも構わないも、是非ともお願いしたいですよ。あ、図々しいお願いがあるのですが、いいですかね?」


「お願い? 俺でできることなら構わないが。」


「お願いというのはですね、討伐記録をなかったことにして欲しいんです。下手に目立つと何かと面倒なので。できれば登録したてですので、最低ランクのままでお願いしたいのです。」


「はぁ? あれだけの魔物をいともアッサリと倒したのに、ランクを上げるなだと!? しかしな、あのクラスの魔物を買取に出してしまうと、それは無理な相談になってしまうぞ?」


「え? 誰が買取に出すと言いましたか?」


「は? 買取には出さないのか?」


「はい、出しませんよ。でも、脅威は去ったのですから、普通に漁師の村としてこれから発展すると思いますので、これからのことは心配しなくても大丈夫かと。」


「あ、財政面で心配でしたら、行きがけに倒したワイバーンの素材を卸しておきますよ。今倒した海の幸は、素材としては卸せませんので。」


「な、何っ!? ワイバーンの素材を卸すだと!? い、いや、しかし、残念ながら、この村のギルドでは買取できるほど金はないぞ、、、。」


「でしたら、ギルドカードに預金として振り込んでおいてください。しばらくはここでの買い物がメインとなりますので。」


「そ、そうか。そうしてくれると助かる。で、だ、こちらも図々しいかもしれないがお願いをしたいのだが。」


「ランクを上げさせろとか、個人的には勘弁してもらいたいもの以外なら聞きますよ。」


「そうか、お願いというのはな、今後もクラーケンクラスの危険な魔物が出てきたら退治して欲しいんだ。そのときはしっかりと依頼料も支払わせてもらう。」


「ああ、それでしたら構いませんよ。ただ、食べられる魔物である時には、その素材はこちらが総取りでお願いします。食べられない魔物であれば、ここに卸しますので、それでいいですかね? もちろん食べられるやつは、こちらにもお裾分けしますのでご心配なく。」


「そうか、わかった。改めてお礼を言わせてもらおう、ありがとう!!」


 タゴサクさんのありがとうの言葉の後に、一緒にいた村民の皆さんもお礼を言ってくれた。下手に何かもらうよりも、こういった心のこもった感謝の声の方が嬉しいもんだね。マーブル達も嬉しかったのか、周りを走り回っていた。


 そんな光景にホッコリしていた私達であったが、ふと、大事な用を忘れていたことに気付いた。そう、調理と実食である!


「では、皆さん、堅苦しい話はここまでにして、折角なので、先程倒した海の幸をみんなで堪能しましょう!!」


「「「「おー!!!」」」」


 さて、何から作ろうかな。まあ、作ると言っても、材料が揃っているわけではないので、しっかりしたものは作れない。ここは村民のみんなも手軽に作れて美味しいものに限定しますか。


 まずは、タコさんかな。タコさんは、単純に塩ゆでにして、茹でダコの切り身がいいかな。生より茹でた方が個人的には甘みもあって好みだ。本当はたこ焼きも作りたいところだけど、小麦粉も天かすもない状況ではよろしくないので、これは後日にしよう。


 次にイカさんだけど、イカ刺しは外せないな、醤油もあるから問題なし。あとは、スルメイカもあるからスルメを作りましょうかね。塩辛もアリといえばアリだけど、これは一旦食堂に戻って作ろう。こっちで一旦試してみないとどうなるかわからないからね。あと、イカ焼きも外せないけど、生憎塩コショウはあっても、バターがないので今回は我慢かな。


 最後にカニさんだけど、これは、生、茹で、焼きと、一通り用意しましょうかね。イカさん、タコさん、と作っていけば、冷凍締めも完了する頃だと思うし、そのときに調理するとしますか。・・・まあ、これらが調理と言えるかどうかは微妙だけれども、美味いから仕方がない。


「ところでアイスさんや、ワシ達も何か手伝うことはないかぇ?」


「ありがとうございます、トメさん。そうですね、ちょっと大量に茹でたりしたいので、大きな鍋とかの入れ物を用意してくれるとありがたいです。今回作るものは非常に簡単ですので、皆さんにも是非覚えてもらおうと思っているので。それをここの特産にしてくれれば、更に発展が早くなると思いますので。」


「・・・ありがとうよ。本来なら断るところじゃろうが、ワシらもギリギリの生活を余儀なくされているからねぇ。ここはお言葉に甘えることにするよ。」


「ええ、是非そうしてください。この村が発展してくれれば、更に美味い海の幸を仕入れることが可能になるでしょうし、私もその方が助かるんですよ。」


 トメさんの鶴の一声で、村民達は鍋などを持ってきてくれた。もの凄く寂れているとはいえ、流石に漁村であった。持ってきてくれた鍋類は、今回作る予定のものに十分な大きさだった。


「では、始めますね。先に言っておきますと、今後漁をしたときに、クラーケンとはほど遠い大きさの同じような海の幸が獲れると思いますが、それらにも同じように調理できるものです。最初はタコさんからです。」


 私がタコさんタイプのクラーケンを取り出すと、村民達が「あれ、食えるんだ」とか言ってたのには少し笑えた。やはりこの世界でもあの姿の生き物は敬遠されるんだなと思った。


「このタコさんには、ヌメリがあるので、それを取り除きます。これを取り除かないと美味しくないので注意です。とはいえ、まず最初にするのは内臓を取り去る作業になります。こんな感じで結構簡単に取れますので。」


「確かに簡単に取れているな。で、ヌメリっていうのは、このヌルヌルした感触のやつだよな?」


「そうです。これは塩で落とすのが定番ですが、塩は貴重ですのでそんなに使えませんよね? そんなときは、海の水を汲んでくれば問題なしです!」


「海の水? 確かに塩と同じ味がするんだが、何か関係があるのか?」


「はい、塩は海の水からも作ることができますが、少し準備がかかるので、必要だったら後日お教えしますけど。」


「いや、塩は国が管理しているんだ。下手にこちらで何かあるとまずいからな。」


「なるほど、必要なとき言ってくださいね。では、続けます。タコさんをある程度細かくしてから、汲んでくれた塩水の中に入れます。」


 そう言うと、マーブルが風魔法でタコさんを良い感じに切り刻んでくれた。切り刻んだ状態だと、どれだけあるのかがわかりやすいな。・・・めっちゃ多いけど。


「入れましたら、ひたすらかき混ぜます。強さはこんな感じで十分です。ただ、この作業が一番大変且つ重要ですので、交代でやることをオススメします。かき混ぜる道具などについては、みなさんで相談して決めると良いと思います。今回は私がやりますので。」


 そういって、水術を発動させる。強さ的には洗濯で行う半分くらいの速さでかき混ぜる感じにしておいた。多分あれ以上強くすると水があふれてしまうし、何より村民のみんなができないだろう。


「これを30分くらい続けて行ってください。海の水はできれば冷たい状態の方が効果は高いです。」


 では、タコさんをかき混ぜている間に別の行程を行いますか。


「では、タコさんを混ぜている間に、次はイカさんを捌きましょうか。」


 そう言って、イカさんを空間収納から取り出す。


「イカさんですが、この口みたいな所を基準にして、内側から真っ直ぐ上に切ります。内側から切るのは、内臓を傷つけないようにするためです。内臓でも調理に使える部分がありますので。ただ、今回は調味料など材料が不足しているため、内臓をつかった料理は出せないのでご了承ください。」


 そう言って、外套膜を裂いて開く。出てきた内臓の部分でエラなどの除去する部分を説明しながら切り離していく。塩辛の材料となる肝の部分や、墨袋などはしっかりと空間収納にしまっておく。もちろん水術である程度冷やした状態でしまうのは忘れていない。


 内臓を取りだした後、薄皮などの部分も説明しながら剥がしていく。口の部分を取り外して、この部分も焼いて食べると美味いことも伝えて、ゲソでも切り離す部分をしっかりと説明してとりあえず下処理は完了した。


「これでイカさんの下処理は終わったので、これから調理を行います。このイカさんですが、半分は切り身にして生で、残り半分は別のものを作ります。これについては乾燥させて放置するだけなので、簡単ですが時間がかかることだけは伝えておきます。今回は少しインチキをしてすぐに完成させます。皆さんに、これがどれだけ美味いものになるかを実際に食べてみて確認して欲しいからです。」


「ほう、そんなに美味いものになるのか? 楽しみだな。」


「ええ、楽しみにしていてください。では、お手数ですが塩の水を汲んで来て下さい。」


 2、3人の村民が入れ物に水を汲んできてくれた。その間に、マーブルに頼んである程度の大きさに切り分けてもらった。


「では、これも海の水に入れます。で、入れたらしばらく放置です。」


 こんな感じで説明しながら調理していると、あちこちから声が聞こえた。


「海の水って塩辛くて飲めないから、こうやって使うとは思いもしなかった。」


「ああ、精々味付けで入れたりする程度だったよな。」


 等々。そして、恐る恐るゴンタさんが私に聞いて来た。


「アイスさんよ。ヘルクラブはどうやって食べるんだい?」


「ヘルクラブ? ああ、カニさんですか。あれは、タコさんとイカさんを食べている間に調理しますので、お楽しみに。」


 それを聞いて村民の皆さんだけでなく、マーブル達も期待に胸を膨らませているようだった。正直、どんな感じになるのか私も楽しみですよ。

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