第19話 海藻も立派な海の幸です、ハイ。

前回のあらすじ:上等なお肉を手に入れた。



「よし、これだけ引き離せば大丈夫だろう。」


 そう言って、速度を落とす。念のため気配探知を使って確認したけど、後ろから追いかけてくる気配はなかった。マーブルの方でも確認していたようで、もう大丈夫そうだった。


 流石に街道沿いを進んでいたので、薬草などは見つからなかったものの、ハーブとなる草は結構生えていたので採取しながら道中を進んだ。


 しばらく進むと、磯臭い匂いがしてきた。ようやく海をこの目で拝むことができる。マーブル達はいままでかいだことのない匂いに少し戸惑っているようだった。


「アイスさん、この匂いは何なのか知ってるですか?」


「うん、これはね、海の匂いなんだよ。しかもね、この匂いは栄養分が豊富な海である証しなんだよ。」


「栄養分が豊富、ですか? 栄養分とは一体何ですか?」


「そうだね。森って魔素が強いと魔物が強い分、美味しい魔物が多いでしょ?」


「はいです。・・・っということは。」


「そう、栄養分が豊富な海ということは、美味しい海の幸が沢山ということ!」


「!!」


「おいしいたべものー!!」


 ジェミニだけでなく、マーブルとライムも理解したようだ。私も強い磯の香りに豊富な海産物を期待してしまう。マーブル達は早く行こう、と言わんばかりに私を急かしてきた。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。」


 何をやっても可愛らしい我が猫(こ)達にほっこりとしながら街道を進んだ。


 しばらく街道を進んでいくと、海が見えてきた。それと同時に、かなりみすぼらしい漁村があった。なるほど、あそこがハンバークね。確かにケントさんやレープさんが言うだけのことはある。けど、これだけ栄養分豊富な海を擁していて、ここまで寂れているのは不思議だ。以前いた世界の横浜と同じように都市を造ってしまうと大化けする可能性を秘めているが、聞かれなければ放っておきますか。それよりも海産物だ海産物。


「ミャア!!」


「これが、海ですか!!」


「おみずがいっぱいー!!」


「そうです! あれが海です!! ようやく見つけましたよ、海! さあ、あそこが恐らくハンバークの村でしょう。それでは行きましょう!!」


「ミャア!」「キュウ!」「ピー!」


 可愛い返事を聞きつつしばらく進んで、ついに、ついに到着しましたよ、港町、いや漁村だね。早速入るとしましょうか。


「こんにちはー!」


「ミャア!」「キュウ!」「ピー!」


 元気よく村の入り口にいた兵士? らしき人に声をかけたが、返ってきたのは生気が感じられない返事であった。


「・・・お前さん達、来る場所を間違ってないか? ここはハンバーク。見ての通り貧しいだけの何もない村だ。」


「いえ、ここはハンバークですよね? ここで間違いないです。」


「こんな村を目的に来るなんて珍しい、、、。ところで何を目的に来たんだ?」


「もちろん、ここで獲れる海産物が目的ですよ!」


「・・・何を期待しているかわからんが、ここでは精々役に立たない海藻を採っては、それを食べて生活しているだけに過ぎん。魚はここでは獲れんぞ。」


「海藻!? おお、海藻がここで手に入るんですか!? 是非とも欲しいです!」


「お前さん、正気か? ・・・まあ、欲しいってんなら譲ってもいいぞ。案内してやるよ。」


「ありがとう、お言葉に甘えますね。」


 兵士? の後を着いていくと、1軒のこれまたみすぼらしい建物の所に案内された。


「おーい、トメばーさん、いるか?」


「おや、珍しいの、ゴンタが来るとは、、、。」


「おう、ここにいる人が、海藻が欲しいってよ。」


「お前さん、海藻が欲しいのかい? 頭大丈夫かい? ワシらはしょうがなくこれを食っておるが、こんなもん、欲しいなんてもん今まで見たことないよ。」


「とりあえず、それはこっちで見て判断しますから、お譲りできそうなものだけで結構ですので、見せて頂けますかね?」


「まあ、見たいってんなら、好きなだけ見て行きなよ。」


 見せてもらったけど、やはり来た甲斐があったというものだ。控えめに言っても宝の山と言っても過言じゃなかった。昆布にワカメ、海苔にひじきまである!!


「トメさんといいましたか? 凄い、凄いよ、こりゃ、お宝だよ!!」


「・・お前さん、頭大丈夫かい? まあ、譲って欲しいなら譲ってやるよ。」


「ありがとう! 金貨1枚分欲しいんだけど、どのくらい譲ってくれる?」


「ハァ? 金貨1枚!? 在庫全部吐き出しても、銀貨2枚がいいところだよ、こんなもん。」


「銀貨2枚分か、、、。今手持ちって、これしかないからなぁ、、、。」


「ところでお前さん、これらを欲しいって言うけど、一体何に使うんだい?」


「私は魔の森で食堂を営んでいるんですよ。これらを使うと味に深みが出ますので、どうしても欲しいんですよね。」


「・・・なるほどね。じゃあ、迷惑じゃなかったら、これらを使って何か作ってみてくれよ。気に入ったら今回はタダにしてやるよ。次回来てくれたらお金はもらうけどね。」


「本当にいいんですか!? よし、張り切って作りますか!!」


 調理場に案内してもらう。さてと、何を作りましょうかね。マーブル達も私が何を作るのか期待して見ている。一通り見回してみると、結構調味料が揃っている。それになんだこれ? 壺に入っているのは、まさか、味噌か? 調味料も醤油があるな。魚醤だけど。


「トメさん、この壺にあるもの使ってもいいですかね?」


「ああ、好きなだけ使うと良いよ。」


 よし、では味噌汁は確定だな。ワカメもあるし。ヒジキは魚醤を使うか。少し匂いが気になるけど、何とかなるな。大麦はあったかな、、、。よし、あるな。折角だから先程狩ったワイバーンの肉も使おう。食堂に出すメニューではないから、途中の過程は省略。


「さあ、完成だ!」


「ミャア!!」「キュウ!!」「ピー!!」


 おお、マーブル達が喜んでいる。これだけでも作る価値があったね。さてと、トメさんとゴンタさんはどうかな? ありゃ、2人とも唖然としてるよ。あれま、匂いに釣られたのか他の人達も来たよ、、、。こりゃ追加で作らないとならないかな。ごめんね、マーブル、ジェミニ、ライム、君達の分は後回しになりそうだけど、我慢してね、、、。そんな視線をマーブル達に向けると、3人は察したのか頷いてくれた。本当にゴメンね。でも、後で気合入れて作るから!


 トメさんやゴンタさんだけでなく、他の人達も他に目を向けることなく食べるのに夢中になっていた。さてと、その間にマーブル達の分も作らないとね。


 マーブル達の分も作り終え、私もどんな感じになったのか気になったので、少し分けてもらって食べた。・・・美味い!! 昆布もワカメも以前いた世界のものと比べても格段に美味かった。もちろん、昆布で出汁をとった味噌汁も段違いで美味く、今まで食べていたものは何だったのか!? と言わんばかりの出来であった。急遽用意した押し麦ご飯だったけど、ギリギリ何とかなる感じでホッとした。ヒジキの煮物も魚醤を使ったので匂いが気になった上に、甘味はメイプルシロップを煮詰めたものだったので、味のバランスもどうかと思ったけど、問題なかった。


 ひとしきり食べ終わった村民のみんなは、こっちを見ていた。何か顔が赤っぽいなぁ。何か興奮している感じだ。


「・・・本当に、この海藻を使った料理なのかい? いや、作るところを見てたから間違いないんだけど、何か信じられなくてねぇ、、、。」


「だな。俺らが仕方なく食べていた海藻が、こんなにも美味くできるとは、、、。」


「気に入ってくれて何よりです。」


「アイスさんといったね? 気に入ったよ! 今回はタダにしてやるから、好きなだけ持っていきな!!」


「トメさん、ありがとう! お言葉に甘えますね。次に来たときも用意してくれるとありがたいです。今度はしっかりと銀貨も用意しておきますので。」


「頼むよ。流石に毎回タダでくれてやるわけにはいかないからねぇ。・・・ところで、これらの作り方とか教えちゃくれないかね?」


「もちろん、構いませんよ。食べ物は美味しく食べるのが一番ですからね。よかったら、この村の宿でもこれらの料理を提供してはどうですかね? しばらくは人は来ませんが、口コミで必ず人が来ると思いますよ。」


 料理を気に入ってくれた村民達といろいろ話をした。マーブル達も村民達と仲良くなりひたすら撫でられていた。おっと、魚について聞かないとね。


「話は変わりますけど、ここでは魚は捕れないんですか?」


 魚の話題になると、村民達の顔色が変わった。


「魚か、、、。数年前までは獲れてたんだけどね、、、。」


「・・・数年前に何かあったんですか?」


「ああ、数年前にな、ここにクラーケンが現れたんだよ、、、。」


「クラーケンですか?」


「ああ、今でも港でウロウロしておるよ。奴らのおかげで漁に出られないんだ。幸か不幸か、奴らは海藻類には手を出してないから、何とか食いつなげていたけど。」


「なるほど。ということは、クラーケンを仕留めてしまえば、再び漁に出ることができるということですね?」


「簡単に言うが、クラーケンだぞ!! 国軍で対処しないと倒せないほどの魔物だぞ! しかも、1体だけではない、数体いるんだ、、、。」


「多分大丈夫ですよ。ねぇ、マーブル、ジェミニ、ライム?」


「ミャア!」「キュウ!」「ピー!」


「アイスさん、気持ちは嬉しいが、どう見ても無理だろ!?」


「多分大丈夫ですよ。ちなみに、皆さんが食べた肉って何だかわかりますか?」


「へ? さっき食べた肉? 何かもの凄く美味かったが、、、。」


「あの肉ですが、先程遭遇したワイバーンですよ。」


「「「はぁ!?」」」


「そういや、さっきギルドから連絡があって、ワイバーンが現れたから外に出るなって言われたが、、、。」


「そういうことで、皆さんは普通に見学するなりで構いませんので、私達に任せてくれませんか? ひょっとしたら新しい美味いものに出会えるかもしれませんよ? 仮に私達がやられても、皆さんを恨んだりしません。」


「そこまで言うのなら、お任せするけど、頼むから命を無駄にしないでくれな。」


「任されました。では、新しい食材に期待しててくださいね。」


 ということで、クラーケン討伐をすることにした。マーブル達もやる気になっている。強い魔物は基本的には美味いのだ。そこまで恐れられる強さの魔物である。どれだけ美味いのか期待してしまう自分たちがいた。

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