第17話 田舎もんには厳しいものですね、ハイ。

前回のあらすじ:ケンプファーの案内でクルンの街に到着した。



 冒険者ギルドを出て、マーブル達と軽く周辺を探索することにしたが、あまり遠くに行ってしまうと、彼らと合流するのが遅くなる、とはいうものの、どの位の時間がかかるかはわからないので、とりあえず近場を見て回ることにした。


 この辺りは大通りということもあり、いろいろ気を引くために様々な商品があるけれども、どれもぶっちゃけお高い。いわゆるボッタクリといわれる値段だろうか。用意してきた金貨2枚では、1つか2つ買えるかどうか、といったところ。生憎交渉ごとは苦手なので、値引き交渉なんてできるとは思えない。


 目に見えている商品だけでもとても手が届かない状況なのに、それを扱っているであろう建物の中なんてとても入れる状況じゃない。さてどうしようか、と思いつつ建物を観察していると、冒険者ギルドの向かいに何やら天秤の看板が大きく目立つ建物があった。そういえば、冒険者ギルドには、剣が交差している看板があったな、ということは、そこが商業ギルドなのだろうか。ちょっと入ってみようか。


 建物の中に入ると、やはり商業ギルドのようだ。冒険者ギルドとは違い、騒がしくなく、むしろ静寂な感じだった。とりあえず、収納してあるストレイトウルフの毛皮とか売れないか確認してみますか。私の他にも何人かおり、しばらく待っていると、ようやく順番がやってきた。


「商業ギルドへようこそ。お初にお目に掛かるようですが、ギルド証はお持ちですか?」


「一つお訪ねしたいのですが、ここで素材の買取はされているのでしょうか?」


「はい、こちらでお取り扱いしておりますが、ギルド証をお持ちでなければ、申し訳ありませんが、買い取り価格の1割を手数料として頂くことになっております。」


「なるほど。では、こちらの毛皮を買取に出すと、いくらくらいになりますか?」


 そう言って、ランサーの毛皮を相手に渡す。


「こちらでございますか。こちらはウルフの毛皮でございますね。残念ながら通常のウルフですと、数もだぶついているため、お値段は銅貨3枚といったところでしょうか。」


 口調こそ丁寧ではあるけど、かなりこちらを下に見ているな。それに鑑定した形跡もないし。恐らくこちらが何も知らないと思ってこういう行動に出ていると。


「なるほど。一目見てすぐに分かるとは、流石は商業ギルドですね。流石に銅貨3枚では売るわけにはいきませんので、これは回収しますね。あ、そうだ。これをギルドに出せと言われたのですが、も必要ないものですし、持っていても意味がないのでお渡ししておきますね。」


 そう言って、ケントさんから頂いた紹介状を今対応してくれた人に渡して、商業ギルドを出た。うーむ、どうも何も知らなそうなおっさんには冷たい世界なのかもしれないなぁ、、、。あるいは、一見さんお断り? だとすると、冒険者ギルドが成り立たないし、、、。まあ、そんなことはどうでもいいか。


 商業ギルドを出ると、ケンプファーの4人がいたので、合流しようと思ったら様子がおかしかった。一体どうしたんだろうか?


「お、4人とも用事が済んだのですね。何か慌てているようですがどうしました?」


「あ、アイスさん! よかったぁ、、、。」


「ん? 一体どうしたんです?」


「いや、それ、私達の台詞だからね!! 一体どこに行ってたの!?」


「ああ、冒険者ギルドでは登録を断られましたので、皆さんが用事を済ませている間に周辺を見て回ってたのですが、商業ギルドがあったので、買取をお願いしようとしたら、足下を見られたので売らずにそのまま出てきたところですよ。」


「はぁ、なるほど、、、。で、俺たちはその登録を断られた件で、アイスさん達を探していたんだ、、、。」


「ん? 何故、私達が登録を断られた件で、皆さんが私を探すことに? 先程も申しましたけど、別に冒険者になりたくて来たわけではありませんからねぇ。ところで、安く買えるお店わかりますかね? 大通りのお店ですと流石に高すぎて手が届かないんですよね。」


「確かに大通りの店は高いよね。ただ、私達も最低限の案内はできるしするつもりだけど、アイスさん達が欲しがるものをピンポイントとなると厳しいかなぁ。全部を把握出来ている訳ではないし、、、。それはそうと、アイスさん、ギルド長が先程の件について話があるから、私達と一緒に冒険者ギルドへと来てくれない?」


 うわぁ、これは面倒事な予感がビンビンに伝わるよ、、、。4人の顔に泥を塗る感じで申し訳ないけど、これは断らせてもらうか。


「うわ、かなり面倒な感じですね。申し訳ありませんが、お断りさせてもらいますよ。それに、この街は物が豊富にあるとはいえ、高くて手が出せない感じですし。」


「はぁ。そうか、そこまで嫌なら俺たちも強くは言えないな、、、。」


「すみませんね。ところで、私は海産物が欲しいのですが、近くに港町ってありますかね?」


「港町か、、、。一応あるにはあるが、あまり栄えていない寒村のような場所だけどいいか?」


「おお! 港町があるのですね!? かまいません!! 是非教えて下さい! どうも、私は都会は肌に合わない感じがしましてね、ハハハ。」


 まさか、ここまでの反応をするとは思ってもいなかったのだろう。ヤレヤレと行った表情で教えてくれた。海産物、、、。転生してから一度も見ることのなかった幻の食材、、、。ついに、ついに我が手に!! そりゃ、テンションも上がるってもんですよ!!


「この街を出て更に進むとハンバークという港町がある。」


「なるほど。では、そのハンバークという港町の途中にこのクルンの街があったんですね!」


「アイスさん、逆だからね! ハンバークがクルンの途中にあるっていうのがこの国の常識だからね!!」


「確かにそうかもしれませんが、私にとっては、海産物というのはそこまでのものなんですよ。これで、さらに美味しくできるんですから。」


「なるほど。確かにアイスさんからすれば、そうなるわな。ところで、アイスさん達がハンバークに行くとなると、これ以上俺たちは案内できなくなるけど、大丈夫か? って、大丈夫か、、、。」


「多分大丈夫だと思いますよ。私は方向音痴ですが、マーブル達が助けてくれますので。」


「そういえばそうね。ところで、アイスさん、また、アイスさんのお店へと行きたいんだけど、どうやって行けばいいかしら?」


「ありがとうございます。・・・そうですね、私達はハンバークに行ってから食堂に戻るつもりですので、このクルンの街とハンバークの港町の途中に目印をつけておきますので、その目印を辿ってみて下さい。」


「目印? どんな目印なんだ?」


「そうですね。うちの看板として使おうと思っている、マーブルとジェミニの右足とライムの姿を合わせた絵を目印としますよ。それほど大きくはしませんけど、みなさんなら見つけられると思います。目印を追ってくれれば、森の魔物には遭遇しないようにしておきますので。」


「なるほど! それは助かるわ!」


「助けてもらったお礼も碌にできずに申し訳ないが、、、。」


「いえいえ、こうして人のいる街へと案内していただけただけで十分ですよ。」


 そう言ってケンプファーの4人とは分かれた。この街はさっさと出てハンバークを目指すことにしますか! 海産物が待っているのだ!


 そんなことを思いながら、先程入った門へと移動すると、ケントさんがいた。


「アイスさんだっけ? もう帰るのか? 俺の紹介状は役に立ったかい?」


「ケントさんでしたっけ? これからハンバークへと向かう予定ですよ。海産物が欲しいので。」


「海産物? それならここでも手に入ると思うが。悪いが、ハンバークは寒村でな、あの村からも一応仕入れてはいるんだが、あまりいい物が手に入らないんだよ。ここならいろんな場所から物が集まるから、探すならここで集めた方がいいと思うぞ。」


「ありがとうございます。ただ、正直高くて手が届かないんですよね。」


「ここの物価が高いのは承知している。だから、魔物の素材の売り上げで仕入れてもらおうと紹介状を渡したんだが。」


「冒険者ギルドでは、登録を断られましたし、商業ギルドでは、ストレイトウルフを通常のウルフで買い叩かれそうになりましたね。」


 そう言うと、ケントさんの顔がみるみる赤くなっている。同じ門番の人達が慌てだした。


「ほう、俺の紹介状を渡したにもかかわらず、そうなったか、、、いい度胸だな。」


「あー、勘違いしないで下さいね。紹介状を渡したのは、断られたり、買い叩かれそうになった後ですから。まあ、渡した、というより置いていったと言う方が正しいのかな、この場合には。」


「はぁ? 紹介状って先に渡すもんだろうが!!」


 こっちに向かって切れた。私的にはどうでもよかったけど、それにマーブル達が反応して殺気をケントさんに向けた。ケントさんは今までに受けたことのない殺気を感じたのか、顔が青くなって震え出す。周りの門番達の中には気絶する者もいた。


「マーブル、ジェミニ、ライム。私は気にしてないから、怒らないで。」


 そう言うと、マーブル達の殺気は解除されたが、ケントさんは青い顔のままだ。


「面子をつぶされて怒るのもわかりますが、そもそも、紹介状を渡されないとまともに対応できない事の方が問題だと思いますよ。」


「い、いや、済まなかった。それでも、連中にはしっかりと伝えておく。正直、ケンプファーの連中が言っていたことは俺自身半信半疑だったんだ。でも、お前さん達の殺気を感じて本当だとわかったよ。あと、黙ってて済まなかったが、俺は一応ここの領主の息子の1人でね。」


「おお、ご領主のご子息でしたか。それは失礼しました。」


「いや、それは構わないし、俺自身気にしてない。ところで、アイスさん、お願いがあるんだが。」


「しがない食堂の親父にお願いですか?」


「ああ、街の者がアイスさん達に失礼をしてしまった訳だが、そのせいでこの街を嫌いになって欲しくないんだ。俺はこの街を良くして、更に発展させていきたいと思っているんだ。だから身近に街にいる民の声が聞こえる門番をやっているんだ。」


「なるほど、そのお考えは素晴らしいと思いますよ。単純に手が届かない、今欲しいものがここにはない、というだけの理由ですからね。」


「そうか、それを聞いて安心したよ。是非、またこの街に来て欲しい! それでは良き旅を!!」


「ありがとうございます。お金が貯まったら伺いますよ。」


「そうか! そのときには沢山この街にお金を落としてくれよ、ハッハッハッ!」


 とりあえず、今大都会で買い物するのは厳しいとわかったし、現時点で欲しいものはなかったので、これでいいのだろう。それでは、ハンバークへと向かいますか。


「では、マーブル、ジェミニ、ライム。次の町へと向かいます。」


「ミャア!」「キュー!」「ピー!」


 やはり3人の敬礼はとても可愛らしかった。

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