22話 つらい記憶


ザシュッ!



「…ククククク、これで…全部…おし…ま…い…だぁ!!」


ーーーうわっ!なんだこいつ?!自分の胸に手を突き刺したぞ!?


《やっば!この人の魔力がどんどん膨らんでるよ!!今、手を刺したところに何か核みたいなのが見える!!》


ーーーまじかよ!うわぁ…こいつ、だんだん体が紫に染まっていってるよ…体もヒビが入って…このままだとどうなるんだ?!リーナ!


《…おそらく、あの核みたいなのが竜王の体の一部だね!この人、それを取り込んでこんなに強くなったんだ!!その核に、無理やり魔力を流し込んで、暴発させる気だよ!!》


ーーーもぉ〜なんだよ!!最後の最後まで!!絶体絶命のピンチって奴か…だけどリーナ、何か手はあるよな?!


《…手というか…タケシの吸引魔法で吸い取る以外、僕らってやれることはないんだよねぇ…ハハハ》


ーーーそっ…そうか、ならさっさとやってしまおうか。…でもこれ、吸い取って大丈夫なの?めっちゃ紫だけど…体に悪くないかな…


《…それは大丈夫だと思う。それよりも、もっと重要な事があって…》


ーーーもっと重要なこと…?なんだよ、それ?どうしたんだ…リーナ?


《うんとね…単純計算でいくと、今のこの人の魔力を全部吸い取ったら…タケシの魔臓器の許容量を大幅に超えちゃうんだ…》


ーーーうぇ…大きく超えるって、なんか嫌な予感がするな。一応聞くけど、超えたらどうなるの?


《超えたら…おそらく、タケシの魔臓器が壊れちゃう。そうなると魔法は使えなくなるし、下手するとタケシ自体が消えちゃうかもしれない…魔臓器って魂と繋がってるものだから…》


ーーーそっ…そうか…嫌な予感的中か。しかし、消えちまうってのはなぁ…


《ごめんね、タケシ。僕がもっとしっかり考えていれば…こんなこと事にはならなかったのに…》


ーーーいやいや、なんでお前が謝るんだ?これはリーナのせいじゃないぞ!!そもそも、リーナがよく考えて作戦立ててくれたから、ワイド達を救えたんだ!俺が遊んでたのが悪いんだ…力にかまけて、あいつを追い詰めたから、こんなことになっちまった…リーナは絶対に悪くない!!


《タケシ…ゔぅ…ひっく…ごめんよぉ》


ーーー何にせよ、俺がやる事は決まってるよ。ここでこいつをどうにかしないと、ワイドたちまで死んじまう…そんなの、俺は望んじゃいないからな!しかし、魔臓器に寄生してるリーナは大丈夫なのか?


《…ぐすん、僕も一緒かな。魔臓器が消えたら僕も消えると思う…》


ーーーそうか…それはどうにかできないのか?…寄生するのやめるとか。


《嫌に決まってるでしょ!タケシがいなくなったら、僕だけ残る意味はないの!!最後まで一緒にいるよ!!》


ーーーハハハ…愛されたもんだぜ!!だけど、覚悟は決めることができたよ…リーナ!お前がいてくれるなら心強い!!そんじゃまぁ時間もなさそうだし、そろそろ最後の大仕事と行きますか!!!!


《うん!こうなったら、こいつの魔力、フルパワーで残さず吸い込んでやる!!!》


ーーーいいね!!んじゃいくぞぉ!!せぇぇぇのぉぉぉぉ!!!


「「クリーナァァァァァァァァァァァ!!!!」」



二人がそう叫んだ瞬間、ジマクの体から発せられていた紫色のオーラが、黒板消しの小さな体に、ものすごい勢いで吸い込まれていく。



「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」



タケシたちが吸い込めば吸い込むほど、ジマクの体からはどんどん紫のオーラが溢れ出てくる。しかし、ジマクの体はそれに反して少しずつ大きくなっていく。



ーーーこっ…こいつの体、大きくなってねぇか?


《だめだ、タケシ!この人の中の魔力、ありえない勢いで膨らみ続けてる!!これじゃあ、間に合わないよ!!》


ーーーまじかよ!!…なら、もっともっとだぁぁぁぁぁ!!

《はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!》



その時だ。


ピシッ!


どんどん吸い込まれるオーラに対して、タケシの魔臓器に小さくヒビが入り始める。



《グググッ!タッ…タケシ!魔…臓器…に…ヒッ…ヒビが!やっぱり…》


ーーーまだまだだぁぁぁぁ!!こいつの魔力は全然減っちゃいねぇ!!もっとぉぉぉ

…もっとだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



ピシッピシピシッ!



《だっ…だめだよ、タケシ!!もう…もたない…ウグググググッ!》


ーーー踏ん張れぇぇぇぇぇぇ!リーナ!!グググッ…俺の魔臓器よぉぉぉぉ!もってくれぇぇぇぇぇぇぇ!!



そう言ってタケシがさらに力を込めようとしたその時、黒板消しの体がまばゆい光を放ち始め、それと同時にタケシの意識も深く沈んでいった。





薄っすらと開く視界。

その先には、真っ白な空間が広がっている。


タケシはふと意識を取り戻し、辺りを伺うと、真っ白な世界にただ一人で浮遊しているようだった。


一緒にいたはずのリーナの姿もなく、声も聞こえない。



(…ここは…どこだ)



よく見れば、自分は人間の姿に戻っている。状況を理解できず、手足を見たり、頭を掻いたりして、いろいろと考えていると、どこからか声が聞こえてきた。


タケシはそちらの方へと振り向く。



『だぁ〜かぁ〜らぁ〜!何度も言ってるじゃないですか!この塾でイジメが起きてるんですよ!』


『しっ…しかしだね、黒井くん。あまり騒ぎ立てると、かえってその火種が大きくなってしまうのではないか?』


『そんなこと言ってたら、解決なんかできませんよ!!やられてる本人はすごく苦しんでるんだ…それにこのままだと、イジメてるやつらも不幸なことになってしまいます!!』


『…そっ…そうは言うがね…』


(あれは理事長。これは…初めて勤めた塾でイジメの実態を知ったときだ…)



理事長はタケシの勢いに、困った表情を浮かべて白い髭を触っている。



『理事長!あのクラスの奴らと、話をさせてください!!』


『はぁ…ダメです。』


『…!!なぜですか!?』


『我々は塾講師です。学校の教師とは違う…イジメを解決する事は、我々の職務ではないからです。』


『…しかし!!』


『ダメと言ったらダメです。これは理事長命令ですよ。』


『…くっ』


『黒井先生…私はあなたのその熱意を買っています。だから、塾講師としての仕事に、その熱意を当ててください…お願いしますよ。』


(…懐かしいな。あの時は俺もまだ若かったな…しかし、なんでこんな記憶が…)



場面が切り替わる。



『みんな、授業の前に話がある!』



『なになに〜?』

『授業始めようよ、先生〜』

『今日、学校だるかったなぁ』



『正直に答えてくれ!俺は、先日このクラスの奴らが同じ塾の生徒をいじめているのを見てしまった!!』



その瞬間、教室内がざわついた。



『え〜なになに?』

『イジメだって〜やばくね?』

『そんな話、やめようよぉ〜』



ざわつく教室で、ある生徒が立ち上がってタケシに声をかける。



『先生、その話長くなりますか?』


『いっ…いや、しかし大事な話だ!聞いてほしい!』


『僕ら、受験が近いんですよ…関係ない話するなら、家で勉強します。』



そう言うと、その生徒はカバンを抱えて教室から出て行ってしまった。



『おっ…おい!』



その生徒に影響され、他の生徒もパラパラと教室から退出し始める。



『みっ…みんな!待ってくれ!おいって!』



出て行く生徒たちを引き止めようと、声をかけているタケシの前に、いつの間にか一人の生徒が近づいてきていた。


そして、彼はこう言い放つ。



『…余計なことしないでよ。もう…この塾にはいられない…』



その生徒は、そう言うと駆け出して行ってしまった。タケシはただ呆然と立ち尽くすしかできない。


そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけた理事長が教室へ入ってきた。



『黒井先生!?これは…いったいどうことですか!?』



目の前で唾を飛ばして、顔を真っ赤にしている理事長の言葉は、タケシの耳には聞こえていなかった。


翌日、塾には講義の嵐が殺到した。

もちろん、我が子を塾へ通わせている親たちからで、理事長を含め、講師たちはその対応に追われた。


原因であるタケシに対し、講師仲間は嫌味を浴びせた。それらの数々は、タケシの心を容赦なくえぐったが、ある事実が最もタケシの心を傷つけた。



『○○くん、塾辞めるって。』


『お母さんから今、連絡があったみたい。』


『めちゃくちゃ怒られた…そこは塾でしょ!あなた達は教師にでもなったつもりですか?!ってさ…』



同僚たちの話が耳に届き、タケシの心は暗い闇へと沈んでいった。



その一週間後、タケシはその塾を退職した。

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