12話 嵐の前の…
「うっ…お…俺は…ここは…どこだ…」
頬から地面の冷たさを感じ取る。
視界はまだぼやけている。薄っすらと映る視界を眺めていると、少しずつ記憶が蘇ってくる。
「…そっ…そうだ!竜王の心臓!!」
ジマクはとっさに起き上がり、両膝を地面につけたまま、自身の体をペタペタと触りながら確認していく。
(生きている!?生きているぞ!!!)
両手を見ながら、ジマクは歓喜に震えた。あの"竜王の心臓"を、自分は手にしたのだ。
伝説と言われた"竜器"を。
それに気づくと、今度は体の中から湧き上がる大きな力を感じ取る。
(なっ、何という力だ。これが史上最強と謳われたブック=ライブラリも恐れたと言われる竜器の力か!!!)
ジマクはゆっくりと立ち上がると、右手を前に上げて、握り拳をつくる。そして、力を込めると、今までとは比べ物にならないほど、禍々しい黒紫のオーラが纏い始めた。
(今までの俺の魔力とは比べ物にならん…これなら、チョークの野郎を殺せるな!)
ニヤリと笑うジマク。
体を少し縮め込み、全身に黒紫のオーラを纏うと、それらを解放するように両手を高く掲げ、体を大きく広げた。
その瞬間、オーラが弾け飛んで、洞窟を、いや…洞窟があった山ごと、一瞬で吹き飛ばしてしまった。
辺りは、ジマクの魔力に影響を受けて、ゴロゴロと雷雲が轟き始めている。
「ハァーッハァッハァッハァッハァー!殺してやるぞ!チョォォォォク!!お前だけではない!!生徒たちも…学園もろとも吹き飛ばしてやるから、待っていろぉぉ!!」
深淵に染まる双眸の中に、真紅の瞳を光らせて、ジマクは大きく叫び、高笑いを続ける。そして、空へと浮遊してある方向へと飛び去っていった。
しかし、竜器の魔力に負け、死にかけていた自分が、その魔力をコントロールし、どうして生き延びることができたのだろうか。
彼は知らない。
時を同じくして、ヒューマニア王国全土を襲った魔力災害のことを。
そして、その原因がただの黒板消しにあることすら、知る由もなかった。
◆
《タケシ!タケシってば!!》
えっ?なんだい?リーナ。
《なんだいじゃないよ!いつまでそうやって遊んでるの?!もうだいぶ夜も遅いんだよ!!!》
だってさ!動けるようになったんだぜ!?これめっちゃ楽しいし、やっぱり自分で動けるって最高だ!!
《気持ちもわかるけどさ…タケシが起こした魔力災害で、学園の警備も強まってるから、誰かに見つかる可能性が高いんだよ!!ほどほどにしておかないと!!早く粉受に戻って!》
グッ…痛いところを突きおって…仕方ない、今日はこれくらいにしておこうかね。よっと!
《全く…すぐに動けるようになった時は僕も驚いたけど、調子に乗るのはタケシの悪い癖だよね!》
…おっ、お前がそれを言うのか…
その時であった。
ガラガラとドアが開いて、講義室に誰かが入ってきた。
ん?誰かが入ってきたな。こんな時間に誰だろうか。
《ほら!僕の言うことを聞いていて良かったじゃないか!危うく見つかるところだったよ!》
まっ、まぁな…助かりました。リーナ様。
《…なんか適当感が丸出し…》
しかし、こんな時間に誰だ?宿直の見回りの時間でもないはずだけどな。あ〜、暗くてよく見えないな。どこに行ったんだ?リーナ、わかるか?
《うん、何やら席についてコソコソしてるね。ほら、あそこ。右列の上から3段目、1番左側だね。》
あっ…あぁ〜見えた見えた。ん〜?あいつは…確か…
《知ってるの?》
知ってるも何も、毎日ここに授業を受けに来てる生徒だよ。名前は…確かロック!ロック=ミステイクだな。
《へぇ〜、あまりパッとしない子だけど、よく覚えてるね!》
あったりまえよ!教師たるもの、生徒の顔と名前は全て覚えなくてはな!
しかし、あいつはこんな時間に何やってんだ?
《忘れ物でも取りに来たんじゃない?》
いや…あそこはあいつの席じゃない。マリンの席だな。人の席で何やって……もしかして!
《?タケシ?どうしたの?なんかわかったの?》
塾でもあったんだよ。こう言う事。その時は俺が宿直で、最後の見回りをしてたんだけど、1人の生徒が、個人ロッカーの前で、夜な夜な何かをしてたんだ。そいつ、必死だったから俺が近づいたことに気づかなくてさ。
《…その人、何してたの?》
簡単に言うと、ストーカー。好きな子のロッカーをこじ開けて、私物を盗もうとしてた。
《げぇ〜!って事は、彼もマリンちゃんの何かを盗もうとして…?》
いや、生徒たちは講義室の机には何も置いてないはずだ。ロッカーも魔法錠が掛かっているから、生徒の力量でこじ開けるのは無理だしな。俺が見るに、どちらかと言えば、席に何かを取り付けているように見えるな。
《早くやめさせようよ!このままだとマリンちゃんが可哀想だよ!タケシ!》
そうだなぁ…でも、今行くと俺の存在がバレる可能性があるよね…どうしたもんか…
って、何を考えてるよ、俺!!
バカやろうだな!生徒を守るのが教師の務めだろ!
よし、リーナ!協力してくれ!
《いいよ!どうするの?》
今の俺は動くことしかできない。あいつの周りを飛んで驚かせるから、リーナは俺を光らせてくれる?
《うん、わかった!》
あっ!ぼんやりとお願いね!
《ぼんやりと…って、こんな感じかな?》
おっ!いいね!あいつは…まだ気づいてないな。よし!行こう!
タケシは自分の体をふわっと浮かび上がらせると、必死に作業をしているロックのそばへと飛んでいった。
「くそっ!なんだよこれ!取り付けるのは簡単だって言ってたのに!!意外に難しいじゃないか!」
ロックは、ガタガタと机に何かを取り付けようとしていた。しかし、手元が狂って持っていた小さなカメラのようなものを、下に落としてしまう。
「あっ!…ちぇっ!宿直が来る前に何とか終えないといけないのに…あ〜もう!休憩だ、休憩!」
そう言って、ロックはその場に座り込む。そして、ふと教壇の方へ目を向けると、ぼんやりと光る何かが、こちらへふらふらと近づいてくるのに気づいた。
「…ん?何…だ?光ってるけど…この時期に魔蛍はいないはずだしな…」
その物体が何んなのか確認するため、ぐっと目を凝らす。そして、同時に背筋に冷たいものが流れ落ちるのに気づいた。
「こっ、黒板…消し!?どうして…何でこっちに向かって…っていうか、何で勝手に浮いてるんだ!?」
慌てふためくロックに対して、ゆらゆらと不自然な動きで、近づいてくる黒板消し。
「なっ、なんだよ!こっちくるな!!うわっ!うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう叫びながら、ロックは大声を上げて講義室から飛び出して行ってしまった。
お〜、思った以上に効果あったな。
《ざまぁみろ!女の敵め!!》
ははは…リーナって意外と怖い…
それはそうと、あいつ、なんか落としていったな…えっと…どこだ?
《あ!あったよ、タケシ!あそこ!》
おう、これか…なんだ?すげぇ小さいカメラみたいだけど…リーナ、知ってる?
《う〜ん、この世界の技術については、僕もあまり知識はないんだよね。でも、確かに地球にあるカメラみたいだね。》
だよな〜。
う〜ん…黒板消しが誰かに聞くわけにもいかないしなぁ…誰かいい人…あっ!
女神さまに聞いてみようか!あの人なら知ってるんじゃないか?
《でも、どうやって呼ぶの?あの人、常にこの世界だけを見てるわけじゃないし…僕でも簡単には呼べないよ。》
まぁ見てろって!
じゃじゃーん!!女神さまの連絡先!!!
《なっ、何でタケシ、そんなもの持ってるの!?》
あれ?言ってなかったか?リーナがまだ寝ている時に、女神さまからもらったんだよ。俺の力の原因を一緒に探る約束だからな!
《…ふ〜ん、そうなんだね…》
なっ、なんだよリーナ…そんな…ジト目で見るなよ。別にやましいことに使ってる訳じゃないだろ?
《…別に…いいんだけどさ…早く呼んだら?》
ぐっ…そんな、ゴミを見るような目をするな!はぁ…まぁいいや。とりあえず呼んでみようかな。頭に浮かべれば…とか言ってたな。こうかな?
すると、一筋の光が天高く登っていった。
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