11話 キャン ビー SEEN


舞台を再び、学園に戻そう。

ちなみにタケシは、付喪神に『リーナ』と名付けていた。



リーナさ。

そういえば俺、ひとつ疑問があるんだよ。


《なになに?》


俺さ、黒板消しで目がないから見えないはずなんだけど、女神さまや主神の奴の顔とかは、認識できたんだよね。なんでだろ?


《あぁ、それはだって…あの人たちは全知全能の存在だもん!相手に自分を認識させたり、させなかったり、何だってできるんだよ!》


そっ、そんなもんか?なんかとても都合よく説明された感が満載なんだが…


《えー?でも、神様なんだしさ。それ以外に言いようがなくない?》


まぁ…そう言うことにしておくか。詮索しても、碌なことにならなさそうだし…

それはそうとさ、せっかく魔力が使えるんだから、視力?どうにかならんのかな。この世界の風景を見てみたいんだよな。


《なるほど!それなら、いい考えがあるよ!》


まじか!?教えてくれ!


《もちろんだよ!結論から言うと、素式感知ってスキルを使えれば、周りの状況を把握できるようになるんだ!》


素式感知?なんか難しそうだな…


《この世界にはね、魔力が大気中に満ち溢れてて、目には見えないけど、空気のように存在している。だから、物が動いたりすると、その魔力も影響を受けて動いたりするんだよね。》


小さい気流みたいなもんか?流体力学的な話か…


《その流体なんちゃらの事は、よくわかんないけど、少し細かく説明すると、魔力にも元素のような物があって、僕らは魔元素って呼んでる。この魔元素が動く事で、魔力に動きが現れるわけ。だから魔元素の動きを計算して感知すれば、周りの状況が把握できるってわけさ!》


なるほど、魔元素の解析か…って!それ、すごく膨大な量の計算をしないといけなくないか…?!そういう解析って、地球じゃコンピュータがやってるぞ?それを黒板消し…いや、俺の頭でできるのだろうか…。


《タケシ…タケシ!》


ん?リーナ、どうした?自分を指差して…


《んもう!僕がいるよって事だよ!》


…うん。リーナはいるよ?えっ?どういう事?


《タケシって肝心なところで抜けてるよね…僕は地球で、素式感知を使ってたんだ。だから、タケシの事を把握できたし、好きになれた訳さ。付喪神には、そのスキルが使えるのさ!》


なるほどなぁ…と言いたいとこだが、リーナが使えるから、俺が使える訳でもないだろ?


《…タケシって、考え方が現実的過ぎ。そんなんだからモテないんだよ!》


グッ…言い訳できない…


《僕は今、魔石の状態だから、魔臓器に取り込む事ができるんだ。そしたら、タケシは素式感知を使えるようになるよ。解析は僕がするから、その結果をタケシに渡す形だね!》


そっ、そうか。でも、魔臓器に取り込むとか、リーナの人格は大丈夫なのか?


《大丈夫大丈夫!取り込むというか、僕自体がタケシの魔臓器に寄生するようなイメージかな。だから、今まで通り話もできるよ!》


なら、安心!

っと言いたいとこだが、お前はそれでいいの?新しい体とか見つけられるんじゃないか?


《わかってないなぁ!僕はタケシが大好きなんだ!だから、そのタケシの魔臓器に寄生できる事より、幸せなことなんかないよ!》


…たまに、さらっとえげつない事言うよね…。まぁいいや!リーナがそれで良いなら!とりあえず頼むよ!


《了解!!!》


………


《………》


………リーナ?


《…ん?何?》


えっ?…いや、だからお願いします。


《…ああ、もう終わったよぉ。》


まじかい!!!早過ぎだろ!!!!もっとこう、なんかキラキラっとか、効果音とか、いろいろあるじゃん?!!!えっ?!ないの?これが普通?!!


《ごめんごめん!そういうのが欲しかった感じ?早く寄生したくて、気にしてなかったよ!》


全くお前って奴は…。

さっき俺のこと現実的過ぎとか言っておきながら!お前は欲望に正直過ぎだ!!!


《まぁまぁ、良いじゃないか。じゃあ、早速だけど、素式感知を使って、タケシに視力を提供していきまぁす!!》


うっほほ〜い!!!



その瞬間、原理はわからないが、俺の視界を講義室の風景が、ゆっくりと埋め尽くしていく。


目の前には教壇があり、生徒が座る席は、階段上に傾斜をつけた形状だ。左手には引き戸の扉があり、開いたその先には校庭のような広場と、白々しさの中に日の出の光が差し込む空の一部が確認できた。



………


《…タケシ?お〜い!タケシィィィ!!》


…あぁ、すまん。景色を見たの、久しぶり過ぎて見惚れてた。見えるって…幸せなことなんだなぁ。


《だよね!僕もタケシの顔を初めて見た時は、すんごく嬉しかったのを覚えてるもん!》


そっ、そうか…それは良かった。

コホン…しかし、講義室の様子は地球の大学みたいな感じだな。今のところ、異世界という要素は見当たらないな。


《まぁ、動けるようになれば、いろんなものを観れるだろうから、次はそれを頑張ろうよ!》


そうだな!まだまだ、俺の異世界生活は始まったばかりだ!楽しんでいくぜ!

せ〜の!


エイエイオー!

《エイエイオー!》





ブッ、ブフッブハッ!ゴホッゴホゴホ!


グッ…この宿命からは…ゴホ!

逃れられないらしい…ブハッ!


《仕方ないよね〜黒板消しなんだし…》


ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ゴホッ!


《頑張れ!タケシ!僕も応援してるから!》


見えるように…ゴホッ…なった分…ブハッ…これは…ゲヘッ…ある意味…ボホッ…恐ろしい!!!


ヴッ!消し終わった!ということは…


来るぞ…来る来る来る来る来る来る来る!

相棒とのぶつかり稽古じゃぁぁぁ!!


《頑張れぇ〜》


ボフッ!

これも…!

ボフッ!

見えてるだけに…!

ボフッ!

拷問でしか…!

ボフッ!

ない!!!!!


ボフッボフッボフッボフッ!



「黒板消し完了っと!」



ハァハァ…あの生徒…なかなか激しめだな…ハァハァハァ…あの子が今日の日直とは…耐えられるか、俺よ…


《大丈夫でしょ!魔力を持った黒板消しなんだし…って、あ〜大事なこと忘れてた!》


だっ、大事なことだって?なっ、なんだ…?


《魔法だよ!ま・ほ・う!吸引魔法クリーナーをうまく使えば、煙たいのはなんとかなるんじゃないかな?ぶつかり稽古はちょっと難しいけど…ん…?タケシ?どうしたの?震えてる?》


そっ…そっ…そういうことは…


《どっ、どうしたの?》


そういう事は…早く言えぇぇぇぇぇ!!!



誰にも聞こえない悲痛の叫びが、青い空へと響き渡った。

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