3話 転生したら講義室のアレだった…

「……であるからして……」



…ん、何だ……?



「この………なので魔法陣は………」



…何か聞こえるぞ?



「……先生…………ですか?……」



…先生!?って事は学校か?



「……その通りだ……火属性では…」



はぁ?火属性?何の話だ?



「魔力の構築は、体内の魔臓器から送られる……」



待て待て待て!魔力?ん?ん?ん?



「…今日の魔工力学は以上だ。次回は、精霊工学と魔工力学との関連性についてだから、予習しとけよ!」



まっ、魔工力学…と精霊工学…って何だよそれ!聞いたことねぇぞ…いや、生徒たちから前に何かで聞いたような…



「チョーク先生!ここがわかんないんだけど!」

「俺はここが!」

「私もそこ、聞きたい!」



教師の名前がチョークって????



若い声の主たちの発言に、参ったなと思い、頭を掻こうとしたところで、タケシは自分の異変に気づく。


ん?頭をかけないぞ?手…はどこだ?

てか、頭はどこだ…?

目、目は…あれ?開けない。


待て待て待て待て。

一旦落ち着こう。そうだ、落ち着こう。

まず、手、指…動かない。

じゃあ、足、指…ダメか。


ヤベェ…混乱してきたぞ…

そうだ、こんな時は羊を数えて…ってそれは違ぁぁぁう!

寝る時だ、それは!


あー待て、馬鹿なことを言っている場合ではないぞ。


え〜っと…え〜っと、あ!

ちょっと待て、思い出した。

クリーナーに吸い込まれたんだ…あれって夢?

てことは、これも夢?

それとも、金縛りかなんかにあってるの?


あーダメ。落ち着けない。落ち着かない。何なのこれ?


もしかして、吸い込まれた勢いで、手足頭がもげたとか…?

いや、それじゃ生きてないか…


体には痛みはないし、暑さとか、寒さも感じてないみたいだ。


げぇ〜、やばい…不安になってきた。

目が開けれないのが怖い。真っ暗は嫌。

どうするか…いや、どうしようもないか…


ダメダメダメダメ!

真っ暗はダメだ!そもそも、人の精神レベルじゃ、暗闇にそんなに耐えれないって聞いたことがある。


落ち着くこともままならず、いつまでも混乱し続けるタケシに、さらに追い討ちをかけるような出来事が起こる。


ガタッ


そう音がした瞬間、何かに掴まれて空中を浮遊する感覚が、タケシを襲う。


なになになに!?なんなのよ、もう!宙に?

えっ?ここは巨人の国か何かか?

もしかして、自由を奪われて、今まで皿に載せられていたとか?

それって、もう一巻の終わりってや…

グヘッ!

なんだ?かっ、壁に押し付けら…

ブッ、ブフッブハッ!ゴホゴホ!


想像力を大きく働かせていたタケシは、自分の身になにが起こっているか理解できぬまま、為されるがままになっている。


ちょっ、ちょっと…え?!何?何が起こってるの?粉っぽい!粉っぽいって!ゴホッ!あーもう、煙たいわ!ゴホッゴホッ!


そう悪態をついていると、再び浮遊感がやってくる。ちょうど遊園地のバイキングに乗っている感覚。前後に行ったり来たりと、曲線状に振り回されているようだ。


そして、それがなくなったと思えば、今度は、


ボフッボフッボフッ!

全身に、何度も何度も衝撃が襲いかかる。ぶつけられているものは、柔らかい何かであるためか、痛みはないのだが、相変わらず煙たいのだ。


くそぉ!グヘッ!何の拷問…ブフッ!だよ!まったく…


しかし、聞こえてきた誰かの次の発言で、タケシは全てを悟ってしまう。



「黒板消しの掃除完了!」



あっ、今何と…?黒板…消し?待て待て…え…?



黒板消し。


彼はタケシにとって、長年、志を共にしてきた相棒のようなものだ。

彼の生き様、過去にどんな扱いをされてきたか、その苦労をタケシが知らないはずはない。


壁に押し付けられながらも…咳き込みながらも…黒板を綺麗にするために、体を張ってきた、彼の志の高さに日々、敬意を示してきた。


だからである。


今のって、そういうことなのか…

"黒板消しの掃除完了"って、そういうことなのか…


"俺"は………



………"黒板消し"になっちまったのかぁ!?



声にならないタケシの叫びは、窓の外に見える秋晴れの、雲ひとつない青色へと吸い込まれていった。





時は遡る。


暗雲が広がる山岳地帯。

曇天は、今にも泣き出しそうな表情で、山々に影をもたらす。


草木すら生えない山々の麓には、荒地が広がっていて、生き物の気配を感じさせない。


やがて雷鳴が轟き始める。



「…グッ、ワイド=チョークめ。よくも…よくもこのペン=ジマク様を、こけにしやがって…ウグッ…」



洞穴の中で、苦しみもがく男が1人。

目立った外傷はないようだが、彼は胸を押さえ苦しそうに、四つん這いの格好で下を向いている。



「…しかしだ、この…この力をッ、手に入れさえすれば…私は…グハァッ!」



男は急に吐血し、さらに苦しそうにもがいている。



「ハァハァッ、この…この力で…奴を…」



掻きむしっていた地面の砂を、グッと握りしめて、彼は四つん這いのまま前を向く。



「殺してやるッ!」



苦しみながらも、汗と涎にまみれた顔を狂気の笑顔に歪ませ、彼はそう吐き捨てる。


深淵に染まる片目に、妖艶な真紅の瞳を輝かせて。

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