決戦準備! 〜私、巨人にいじめられる!〜

 ◇ ◆ ◇



 再び目を開けると、そこは『ハーフリング』の村だった。

 村人のハーフリングたちは手や布のようなものを使って、せっせと木とか石とかを運んでいる。


 そういえば、魔王を迎え撃つための準備をみんなやってるんだった。私は具体的な作戦をよく聞いてなかったけど。どうしよう、とりあえず手伝った方がいい? 私は非力だけど、ミルクちゃんとか使えばなんか上手く……。



 ――ゴゴゴゴッ



 な、なんだぁ!? 村の外からなんか音がする。なんとなくそちらに視線を投げた私は、しばし硬直してしまった。



 ――な



 ななななんだあれぇぇぇぇっ!?


 なんか、村から少し離れたところに巨大な黒いものが二つ動いてるんだけど!? なにあれ、石で作られた巨人に見える。敵襲か? 敵襲なの?


 好奇心もあって、私は村を出て巨人の方に走っていった。



 ――ゴゴゴゴッ



 近くで見るとやっぱりというか、より一層大きく見える。体長10メートル以上あるかな?

 二体の巨人は何やら地面に大きな穴を掘っていた。――落とし穴でも掘ってるのかな?

 と、巨人のうちの一体が私に気づいてこちらに視線を向けた。石造りの頭部についている赤く光る瞳――に見えるものが私を見据える。そしてこちらに両手を伸ばしてきた。えっなにこれ襲われるっ!?


「ひぇぇっ!?」


 私は回れ右をして駆け出す。でも、私みたいなちんちくりんの体力じゃ巨人から逃げられるはずもなく……。私の身体は楽々と巨人の手に掴まれてしまった。うぅ……ゴツゴツして痛い!


「は、はぁぁぁなぁぁぁせぇぇぇっ!!」


 身体を押さえつけている石の指を叩いたり蹴ったり押したりしてみたけどビクともしない。巨人は私を顔の前まで持ってくると私を握っていた右手を開いた。


「こらぁぁぁっ! 下ろせこのぉぉぉっ!!」


 手の上で立ち上がった私が、腰に手を当てながら大声で抗議すると――



 ――ツンッ



「はぶぁぁっ!?」


 なんと、巨人は左手の人差し指で私の胸を突っついた! でも、その衝撃は軽く突き飛ばされた程度の威力はあって――私は巨人の手のひらの上に尻もちをついてしまった。


「なにすんのよ!」


 これは【ディストラクション】案件ですね? ――私はウィンドウを操作して――


「うわぁぁぁっ!!」


 巨人は左手の人差し指で私の身体を撫でてきた。逃げようとすると押し戻されて……ゴツゴツした指でひたすら弄ばれた! もう! 許さない!


「や、やめなさいよぉぉぉっ!! えっち!!」



 私が涙目になりながら怒鳴ると、途端に巨人は私を地面に下ろして、白い光に包まれた。


「あ、あれ……?」


 私、まさか怒鳴って巨人を撃退しちゃった? エクストラスキルってやつかな? それとも意図せずに【破滅の光】とやらが発動したか……。

 でも、どうやらそうではなかったようで――


 光の中から現れたのはユキノちゃんだった。


「あぁぁぁぁぁぁっ!! ユキノちゃんっっっ!!!!」


「えへへ、ココアさんこんにちは」


「こんにちはじゃないよ! なにさっきのは! ユキノちゃん私で遊んでたでしょ!?」


「だってぇ……ちっちゃくて可愛くて……」


 ……本性表したなこのドS!



「で、ユキノちゃんは【変化(へんげ)】で巨人になってなにやってたの?」


「あ、リーナさんが大掛かりな罠を作るそうなので手伝ってるんです」


「――もう一体の巨人は?」


 私は、近くで黙々と地面を掘っている巨人を指さして尋ねた。


「あれは、キラさんが召喚した『ストーン・ジャイアント』です」



 ――だろうと思った。



「なるほどね。準備は着々と進んでるわけか……私が手伝えることはなさそうだね」


「えへへ、大丈夫ですよ。ココアさんには実戦で大活躍してもらう予定ですから。自爆魔法で」


「あー、はいはい。せいぜい派手にぶちかましますよっと」


 ユキノちゃんと談笑をしていると、背後から声をかけられた。



「ご、ご主人様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


「ぶぇっ!?」


 後ろから抱きついてきたのはミルクちゃんだ。


「会いたかったと!」


「言ったでしょ? 私はまたログインするって!」


「うん……うん……よかったばい……!」


 ミルクちゃんは後ろから私の顔にすりすりと自分の顔を擦り付けてくる。……もう、苦しいよぉ……。


「私はお邪魔ですかね……」


 ユキノちゃんは気を利かせたつもりのようで、その場から立ち去ってしまった。でもそのせいで私はミルクちゃんに好き勝手にスキンシップされることになってしまった。



「ミルクちゃんストップストップ!」


 私はミルクちゃんを引き剥がした。

 そうだ。せっかくだし、気になることを聞いてみよう。ミルクちゃんならなにか……私の記憶を取り戻すヒントを持っているかも。


「ねぇミルクちゃん?」


 ミルクちゃんは可愛らしく首を傾げている。可愛い。


「――?」

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