エリアボスに挑戦! 〜奥の手、パンチラ召喚!〜

 ホムラちゃんの双剣、リーナちゃんの短剣、ユキノちゃんの篭手が巨人を捉え、そのHPが少しずつ減少していく。でも、ほんとに少しずつだ。光の力をエンチャントした3人で攻撃してもこれくらいしか減らないなんて……やっぱり魔法攻撃じゃないとダメなのかな……。



 ――グォォォォッ!!



 巨人は大鎌を振り回し、3人を追い払おうとする。みんな素早さが高いのか攻撃に当たる様子はないけれど、ユキノちゃんのMPも無限ではないし、これではジリ貧だ。


「【ランダムサモン】! ――クソッ! またスライム!」


「詠唱(コール)、【スピードキャスト】!」


「もういっちょ、【ランダムサモン】! ――だめだ、またスライムです」


 キラくんは、魔法陣を描いて【ランダムサモン】を唱え、スライムが召喚されたら魔法陣を足でかき消して、アオイちゃんに【スピードキャスト】をかけてもらってもう一度魔法陣を描いて【ランダムサモン】を唱える……ということを繰り返している。――キラくん幸運値極振りじゃなかったの? 私と対戦した時は1発で召喚したのに! どうなってんのよー?


「なんでファフニールが召喚できないんですかね!」


「知らないよ、気合いが足りないんじゃない?」


「……」


 ジト目で私を見つめるキラくん。いやいや、私なにもしてないから! 何も役に立ってないけど!


「ココアさんとハグをしたらできるかもしれません!」


「……はぁ?」


 この期に及んで何を言ってるんですかねこの変態は! 単に私と濃厚接触したいだけでしょ!


「ダメダメ! それは死んでも認められんばい!」


「うーん、でも考えてみたら私まだ何も役に立ってないからこれくらいはやらないと!」


「いや、そげな責任感いらんと!」


 私とミルクちゃんがそんな即席コントを繰り広げていると……。何回目だろう、キラくんが描いた魔法陣から、なにやら巨大な生物が出現した。



 ――グォォォォォォォッ!!



 咆哮を上げたのは、巨大な金色の龍――『輝龍 ファフニール』だ! やっと成功したよ……。もう、危うく私がキラくんの餌食になるところだったじゃん! 新手の生け贄召喚かっての!


「――やっと成功したか」


「はい。ごめんなさい」


「いやいや、別に責めてないさ。これを見越してアオイに【スピードキャスト】をかけさせたんだから」


 クラウスさんは肩を落とすキラくんの背中をバシバシと叩いた。


「アオイもよくやったぞ!」


「……ん、んふぁうえあ」


 アオイちゃんはMP回復薬を飲んでいるので答えられないみたいですよ!



 ――グォォォォッ!!



 ――バサッバサッ!!



 ――ゴゴゴッ!!



 ファフなんちゃらさんは勢いよく羽ばたきながら飛び立ち――私とミルクちゃんの服の裾を捲り上げて下着を公開していった。とはいえ、ミルクちゃんはメイド服の下にドロワーズのようなものを穿いていたので、あれは下着かどうか判断が分かれるところだろう。


 ――つまり、私が一方的に恥をかいただけだった! 許されない! あの変態ドラゴン! いつか自爆に巻き込んでやる!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! だからキラくんと一緒に戦うのは嫌なのよぉぉぉっ!!」


 ワンピースの裾を押さえながら抗議すると、当のキラくんは手で口元を押さえながら露骨にそっぽを向いた。おいこら! あれ見てたな! 絶対見てたな! 全く油断も隙もない。


 だけど、私が恥をかいた甲斐はあったみたいで、ファフなんちゃらドラゴンは『シャドウジャイアント』に凄まじい勢いで光の攻撃を加え始め、巨人のHPはゴリゴリと削れていく。苦戦していた前衛の3人も唖然とした様子でそれを眺めているようだ。



 ――グァァァァァォォォッッ!!!!



『シャドウジャイアント』が苦し紛れにファフなんちゃらさんに向けて大鎌を振るう。しかし、ファフなんちゃらさんはその巨体に似合わない軽い身のこなしでその攻撃を回避した。さすがに強すぎる。まさにチート級のドラゴンさんだ。変態だけど。


 やがて、強すぎて無理かと思われていたヘカトンケイル第二形態も、ついに全てのHPが削り切られた。――この場合、ラストアタックはキラくんってことになるのかな? ファフなんちゃらさんはキラくんの召喚したモンスターだし。


 場にほっとした空気が流れた。ついに倒しきったかと、そんな感じの安堵感だ。結局私とミルクちゃんは、パンツ見せただけで全く活躍してなかったけれど、まあいいよね。自爆は周りに迷惑をかけかねないし。



 だが、ただ一人、クラウスさんだけはHPが削りきられてただの黒い塊になってしまった敵を凝視していた。……なに? まだ何かあるのだろうか? ――確かに、なかなか敵の残骸が消えないけど。


「……クラウスさん、もしかして――」


 恐る恐る私が問いかけると、クラウスさんは手で私を制して、盾を構えながら敵の残骸に近づいていく。多分待ってろってことだと思うので、私は大人しくキラくんやアオイちゃんと一緒にその場に留まることにした。


 クラウスさんは、前衛のホムラちゃん、ユキノちゃん、リーナちゃんを呼んで何やら二、三言交わすと、3人を盾で庇いながら再びゆっくりと残骸に近づき始めた。



 ――その時



 ――ズズズズズ



 おぞましい音を立てながら黒い残骸が蠢く、そしてそれらはまたしても何か別のものに形を変え始めた。――それは


 大きな楕円形の物体だった。卵のように見える。明らかに不気味。クラウスさんたち4人もその場で固まって様子を見ている。――が


 1人――いや、1匹? 1体? それを待てないやつがいた。



 ――ゴォォォッ!!



 金色の龍――ファフなんちゃらさんは容赦なく卵に光のブレスを吐きかけた。たちまち黒い卵は白い光で包まれる。ブレスを吐き終わり、光が収まると卵にはヒビが入っていた。


「あれ、なにあれ?」


「さぁ……卵のように見えますね?」


「――生まれるんですかね? 可愛い赤ちゃんだといいんですけど」


「いやいや、あの大きさ見てよ。ヤバいじゃん!」


 キラくん&アオイちゃんは相変わらずマイペースだ。もしくは、またしても軽くパニックを起こしかけているか……。アオイちゃんとかトンチンカンなこと言ってるし。



 ――バキ



 ――バキバキッ!!



 あっ、卵が割れた!!


「おい、危ない下がれっ!!」


 クラウスさんの怒号が飛び、ホムラちゃん、ユキノちゃん、リーナちゃんの3人が蜘蛛の子を散らすように散開した! ――と同時に



 ――ゴゴゴゴゴゴッ



 という地響きのような音を立てて、卵から出現した黒い――長いものが勢いよく地面に潜っていった。なんだかよく分からないけど、まだボスを倒せていないのは明らかなようだ。黒いものが地面に潜っていった場所には、ポツンと数本のHPバーとこんな文字が浮かんでいた……。



 ――『真 ヘカトンケイル』

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