エリアボスに挑戦! 〜二人一組になってください!〜

 敵は地面に潜ったっきり出てこない。でも、HPバーはちゃんとあって、素通り出来そうな雰囲気でもないからなんとかして戦うしかない。


 クラウスさんが、『真 ヘカトンケイル』とやらが潜っていった辺まで盾を構えながら近づいていった。でも、そこには何も無いように見えるけど……。


 やはり何も無かったようで、クラウスさんは両手を頭上に掲げて大きくバツ印を作った。ユキノちゃんとリーナちゃんがクラウスさんの元に駆け寄って、地面を入念に調べ始める。その様子を少し離れたところで腰に手を当てながら眺めるホムラちゃん。――そしてずっと後ろで見守る私たち後衛職。


「なに? 逃げたのかな?」


「さあ……でも地面に潜っている以上は手出しできませんね」


「どちらにせよ今は見守るしかなさそうです」


 私、キラくん、アオイちゃんの3人がまたもや暇をしはじめてしまったその時――



 ――ドドドドド



 地面が僅かに揺れ始める。何かが地中で蠢(うごめ)いているような……


「危ないっ!!」


 耳を地面に付けて地中の音を聞いていたクラウスさんが、なんと私たちの方に向けて叫んだ。


「「――っ!?」」



 ――ブワァァッ!!


 私たちが反応するよりも前に、すぐ近くの地面から巨大な黒い細長いものが飛び出してくる! それはキラくんの足元の魔法陣をかき消しながら、大顎のようなものでキラくんの身体を捉えてそのまま空中へ勢いよく飛び上がった! ――奇襲!?


「うわぁぁぁぁっ!?」


 キラくんの悲鳴が響く。

 空中で、その黒いものの全貌が明らかになるけれど、なんというか、それは巨大な大顎とたくさんの脚が特徴の、真っ黒なムカデのようなモンスターだった! あれが『ヘカトンケイル』の真の姿なんだと思う!


 でもそれどころではない。なんとか、なんとかしないとキラくんがやられてしまう!



「憑依(エンチャント)、【烈風(れっぷう)】! 二重憑依(ダブルエンチャント)、【火焔(かえん)】!」



 ユキノちゃんの声とともに一陣の風が吹いた。見ると、空中のムカデ目掛けて風の力を両脚に憑依させたユキノちゃんが凄まじいスピードで跳ぶ。そして、目にも止まらぬ速さで炎をまとった拳で一撃! 加えざまに怯んだ敵から左手でキラくんを救出して身軽に地面に着地した! ――素早さ極振りの『エンチャンター』にしかできない鮮やかな手並みだった!



 ――ドドドドドッ!!



 再び轟音を立ててヘカトンケイルが地面に潜っていくが、虎の子のファフなんちゃらドラゴンは、魔法陣が消されたせいで消滅している。全く、使えないやつ!


「――た、助かりました! ありがとうございますっ!」


「い、いえいえ、無事でよかったです!」


 救出されたキラくんが頭を下げると、ユキノちゃんはそんな彼にHP回復薬を手渡した。薬を受け取ったキラくんだけど、そのままユキノちゃんの手を離さずにじっと見つめ合う二人……。


「あ、あの……どうしました?」


「い、いえ……別に」



「おいこらぁ! そこの二人! いー感じの雰囲気になってるんじゃないわよ! 吊り橋効果だか知らないけど、そーいうのって後で絶対破綻するからやめといた方がいいよ!」


 たまらずに怒鳴ってしまった。だって戦闘中だよ? イチャイチャするなら後でしょ!

 私の声に、我に返った感じのキラくんが、頭をブンブンと振ると、回復薬を一気に飲み干す。たちまち半分以上減っていた彼のHPは全快になった。


 ユキノちゃんは辺りを見渡すと、キラくんにこう告げた。


「敵は後衛職を狙ってきています。私から離れないでください」


「は、はい!」


「リーナさんはアオイちゃんを、クラウスさんはココアさんを守ってください。ホムラさんとミルクさんは攻撃役(アタッカー)です。お願いします!」


 突然指示を飛ばし始めたユキノちゃんに、一同は戸惑いながらも頷く。

 私は、表情の変わったユキノちゃんの横顔を眺めた。あれだ。バスケの試合の時の希歩ちゃんの顔だ。――入ったんだ――ゾーンってやつに。



 ――ゴゴゴゴッ!!



「うわっ……と、危ない危ない」


 再び地面からムカデが飛び出してくる寸前に、リーナちゃんがアオイちゃんをひょいっとすくい上げて走り抜け、敵の大顎を回避した。



 ――ドドドッ



 またしても地面に潜るムカデさん。


「助かりました!」


「ううん、いいのいいの、後でたくさんモフらせてね! おチビちゃん!」


「うぁ……」


 こう見るとリーナちゃんとアオイちゃんもなかなかいいコンビかもしれないね。――そして、私の元にのっそのっそとクラウスさんが走ってきた。なんだか愛嬌のある走り方だが、本人は至って真面目なのだろう。


「お嬢ちゃん。俺の背中に乗ってな。絶対に1ダメージも与えさせねぇから」


「うぅ、クラウスさん……っ! はい! お願いしますっ!」


 女の子としてはこういう頼もしい男の人にはかなり憧れるというか、守ってもらいたいというか、そういう願望が少なからず存在している。私は、何か言いたそうなミルクちゃんを無視して――腰をかがめたクラウスさんの大きな背中によじ登り、そのままおんぶされた。――うわぁ、高い! 小さい頃お父さんにおんぶされたのを思い出すなぁ……うぅ、なぜか涙が……



「――重くないですか?」


「全然全然! わたあめみたいだ!」


 皆さん! 聞きましたか? これが正しい回答ですよ? デリカシーがある紳士さんはこう答えるのです。聞きましたか? 特にお兄ちゃん! そしてホムラちゃん!

 一気にテンションが上がった私は、ミルクちゃんにこう指示した。


「ミルクちゃん、【変身】!」


「はぁ……うちがご主人様ばおんぶしたかったばい」


「文句言わないの! ミルクちゃんは私を守りきれる?」


「……無理! 【変身(メタモルフォーゼ)】っ!」


 ごねかけたミルクちゃんだったけれど、意外とすんなり邪龍の姿に変身してくれた。



 ――ゴゴゴゴゴッ!



 く、来るっ!! 次は恐らく私を狙ってくる!!



 ――ガァァァンッ!!



「うぁぁぁっ!!」


 クラウスさんは盾を足元に向けて構えると、地中から襲いかかってきたムカデの大顎を弾き返した。クラウスさんは攻撃を弾きながら後ろに跳んで衝撃を逃がす。もちろん背中の私には1ダメージも与えられていない。――頼もしすぎる。



 ――シャァァァァッ!!



 鳴き声を上げながらミルクちゃんがムカデに噛みつき、ホムラちゃんが双剣を振るう。が、どれもムカデには大してダメージを与えられず、またもや敵は地中に逃げ込んでしまった。ミルクちゃんは地中に飛び込もうとしたが、無理だったのか弾き返されてしまう。『精霊の谷』では地面から現れたのにね。『地縛霊』じゃなくなったからかな?


「――これじゃあキリがねぇぞ?」


 ホムラちゃんちゃんの言葉にユキノちゃんは頷くと、クラウスさんに視線を送ってきた。


「クラウスさん、プランCでいきます。――ココアさん、自爆の準備を。アオイさんは強化(バフ)、ホムラさん、キラさんをお願いします!」


「よしわかった! 皆、頼んだぞ!」


 私はウィンドウを操作して【ディストラクション+】の詠唱を開始した。



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 また来るっ!!



 ――ブワァッ!!



 キラくんを狙って地中から現れたムカデ。ユキノちゃんはキラくんを背負って攻撃をかわし、ホムラちゃんにキラくんを押し付けると、そのまま敵に飛びかかった。



「――種族スキル、【変化(へんげ)】!!」

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