クエスト達成! 〜私の鬼嫁が怖い件!〜
辺りを白い光が包み込み――気づいたら私たちは『グラツヘイム』の噴水広場に戻ってきていた。往路はあんなに遠かったのに帰りは一瞬だから面白い。街がもっとたくさんあれば移動も楽になると思う。
「はぁ……はぁ……」
私の隣でユキノちゃんが膝に手をついて前かがみになり、荒い息をついている。なんかえっちだ。
まあ、そりゃあそうだよね。何百メートルか知らないけど、全力疾走してきたんだもん。ハグして癒しを与えてあげたいものだけど、ミルクちゃんの手前それもできない。
「ユキノちゃん、どうだった……?」
私が尋ねると、ユキノちゃんは親指を立てて見せた。なに? 成功? よかったぁ!
ウィンドウを操作するユキノちゃん。私に差し出した右手には、一輪の小さな黄色い花が乗せられていた。あっ、タンポポだよこれ! 可愛い!
「やった! ありがとうユキノちゃん!!」
「えへへ、なんとかなりました。いつもの『アサシン』の装備の、【隠蔽】スキルはないですけど、この装備、素早さが上がるし、竪琴で一部のモンスターを睡眠状態にできたし、魔法防御力が高いから多少攻撃を受けても……」
「だ、大丈夫!?」
マシンガンのようにまくし立てながら、突然ふらっと倒れそうになったユキノちゃんを慌てて支えてあげる。
よく見ると、彼女の装備はところどころ破れたり焦げたりしているのが分かる。うわぁ……でもこれただの演出だからしばらくすれば直ると思う。それよりもユキノちゃんが大変な思いをしてタンポポを取ってきてくれたという事実の方が重要だった。ほんとにありがとう!
ていうか、意図せずにハグをするような格好になってしまったよ。これじゃあミルクちゃんに怒られ――
――ゴスッ!!
ほらね!
「こらミルクちゃん! 人の頭を棒で殴りつけるのはやめなさい! 街の中じゃなかったら死んでたよ!?」
振り返ると、不気味なほどの無表情で1メートルほどの長さの木の棒を、剣道の師範のような綺麗な構えで大上段に振りかぶるメイド娘の姿が……! てかあの棒どこで拾ってきたの!? もしかして森に落ちてた木の枝か何か!?
「――ご主人様、ハグする相手ば間違えとーばい」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁごめんなさいごめんなさい!!」
うちの嫁はどうしてこうもバイオレンスな鬼嫁に育ってしまったのだろう! 自爆魔法を吸収しすぎたのかな!?
――この後めちゃくちゃハグしてあげた。
◇ ◆ ◇
その後、私たちはアオイちゃんと合流して、『大賢者 ルドルフ』さんのお家に向かった。目的はもちろん『タンポポ』を手渡してクエストを達成すること。お家に帰るまでが遠足なんだよ。
「にしてもユキノさんはすごいですっ! 魔物の群れの中に突っ込んでタンポポを回収してくるなんて……」
「そ、そうかな……?」
先程からアオイちゃんはひたすらユキノちゃんを褒めちぎり、ユキノちゃんも満更でもない様子だ。微笑ましい。
方向感覚がゼロな私に代わって道案内をしながら路地を進んでいたアオイちゃんは、とある建物の前で足を止めた。
「ここがルドルフさんのお家のはずです」
「よーし、それじゃあ……」
私とユキノちゃん、アオイちゃん、ミルクちゃんの4人は、恐る恐る扉を開けて、暗い室内に足を踏み入れる。
――ギィィィッ
耳障りな音がして扉が開く。前に来た時と同じかびの臭いがする。
背後で突然扉が閉まる音がして、目の前が本当に真っ暗になってしまった!
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「えっ、なになに? どうしたの?」
これは体験済みだったけど、改めて悲鳴を上げてしまった私たちと、扉の件にはそこまで驚いておらず、むしろ私たちの発した悲鳴の方に驚いているユキノちゃん。ごめんね、びっくりさせちゃって……。
「――よくぞ戻った勇者よ」
うわ、相変わらず重々しいトーンのおじいちゃん賢者――ルドルフさんの声。私は思わず背筋を正したけど、いかんせん部屋が暗くてルドルフさんの姿はよく見えない。
――ピカァッ
また例によってルドルフさんの手のひらが光り、おじいちゃん賢者の姿が暗闇の中に浮かび上がった。
「見事試練を乗り越えたようじゃな」
私は隣のユキノちゃんに目配せすると、彼女はタンポポを手に持ってルドルフさんの前に進み出る。そして恭しくタンポポを捧げ持って、ルドルフさんに差し出した。
タンポポを受け取ったルドルフさんは、目を細めながら回したり下から見たり上から見たり、舐めまわすように眺めていたけど、やがて満足気に頷いた。
そして私の目の前にこんなメッセージが浮かび上がる。
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クエスト【追憶の試練】を達成しました!
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「よくやった勇者よ。褒美を与える。――パーティの4名は順番に我の前に進み出よ」
私たちは顔を見合せた。そういえばクエストの編成制限は4人。ミルクちゃんはプレイヤーじゃないから私たちは3人。あと1人適当に連れてくればよかった……。
が、そんな私たちをよそに、なんとミルクちゃんが真っ先にルドルフさんの前に進み出たのだ! ミルクちゃん!? なにやってるんですか!? 多分ミルクちゃんには報酬の『種族スキル』とやらは与えられないと思うよ!?
唖然とする私たちの前で、ルドルフさんがミルクちゃんの頭に手を乗せる。
――ピカァッ!!
一段と強く光り輝くルドルフさんの手のひら。そして、その光は徐々に弱くなっていき――
「あれ、ほんとに『種族スキル』が与えられたの!?」
「さ、さぁ……?」
私とユキノちゃんが首を捻っていると、ミルクちゃんは満面の笑みでこちらを振り返った。
「――
――ズコォォォォッ!!
ほんとにそんな音がしそうなくらいの勢いで、私とユキノちゃん、アオイちゃんの3人はずっこけたのだった。
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