再び貞操の危機! 〜卑劣な罠にご用心!〜

 ◇ ◆ ◇



 ルドルフさんに『種族スキル』を授けてもらった私は、ひとまず皆と別れて街の外に向かった。そろそろリアルの時間では夜中の2時。草木も眠る丑三つ時というやつだ。

 私は2時にセレナちゃんと待ち合わせをして、稽古をつけてもらうことになっていたんだけど、街中で待ち合わせしてしまうとセレナちゃんがNPCにボコボコにされてしまうため、仕方なく街から少し離れたところまで歩いていくことになった。


「えーっと、大きな木の下……ってアバウトすぎだよ! 木ってみんな大きくない!?」


「この先に、よく待ち合わせスポットになっている大きな木があるんですけど、多分そこのことかと……少し街道からは離れてしまいますが」


「――って、ユキノちゃん。なんでまだついてきてるの? ソラさんのパーティはいいの?」


 しれっと隣を歩いているユキノちゃんは、私が買い揃えてあげた露出度の高いアサシンスタイルに戻っている。ユメちゃん衣装も可愛かったけど、こっちもこっちで可愛いので良しとしましょうか。


「私のパーティは、呼び出しがかからない限りは割りと自由なんですよ。多分ソラさんも数人のベータテスターさんを連れて高難易度ダンジョンに篭っているでしょうし、私が加わっても足でまといになります」


「ユキノちゃんが足でまといってどういう状況……? まあそういうことならついてきてもいいけど、私、セレナちゃんに稽古をつけてもらうだけだよ?」


 私の問いかけにユキノちゃんは頷いた。私の背中にピッタリとくっついてきているミルクちゃんは、私の服の袖を掴み「うちは反対ばい」と耳元で小声でアピールしてくる。ユキノちゃん、完全にミルクちゃんに嫌われてしまったなぁ……。 とか考えながら、私たちは街道を外れて道脇の森の中に入っていった。



「私も、セレナさんにはお会いしてみたかったんです。きっと新しい――ふぁぁぁぁっ!?」


「ユキノちゃん!?」


 突然隣のユキノちゃんが叫び声を上げながら。慌てて周囲を見回すと、なんと真上の木の枝に、ユキノちゃんがロープで逆さ吊りになっている! おいこら誰だー? ユキノちゃんをえっちな罠にかけた不届き者は!


「憑依(エンチャント)、【火焔(かえん)】!!」



 ――ボォッ!



 という音とともに、ユキノちゃんは器用に身体を折り曲げると、右手で難なくロープを焼き切って身軽に地面に着地――



 ――バシッ!



 今度は着地した地面から生えてきた銀色のロープが勢いよくユキノちゃんの身体に巻きついていく! ユキノちゃんはロープを焼き切ろうとしたようだったけど、金属製のロープなのかなかなか焼き切れずに、やがて全身の自由を奪われてしまった。


「ユキノちゃん!」


「動かないでください! またどこに罠が残っているか分かりません!」


「でも……!」



 ――ガシャン!



「ひっ……!」


 そんな息を飲むような声が背後から聞こえてきた。振り返ると、そこにはミルクちゃんが立っていて……その右脚には何やら金属製の罠のようなものが噛み付いている。あれ、鹿とかを捕まえるためのやつじゃない? なんて酷いことするの!


 それだけではない。ミルクちゃんのHPバーの隣に光る黄色いアイコン――麻痺だ。ミルクちゃんはそのままストンと膝をついて地面に横たわってしまう。寸前に私に向けて何か言おうとしたようだが、声にはならなかった。駆け寄りたいけど、罠が怖くて動けない!



「――あ、あなたは……!」


 拘束されたユキノちゃんの声。再び振り返ると、そこには見覚えのある人影が立っていた。全身黒ずくめで、顔を半分布で覆った金髪の美少女 (?)のリーナちゃん。

 というか、この罠の時点で察するべきだった。


「やぁやぁ、先日はお世話になったねー。ユキノちゃん」


「ちょっとあんた、ユキノちゃんに仕返しに来たの!? こんな罠にハメるような酷いことして、正々堂々戦いなさいよ!」


「ふーん、面白いこと言うねキミ。罠にハメるのが『ニンジャ』の戦い方なんだよ? 魔法使いに『魔法は卑怯だ』って言うつもりなの?」


「……」


 リーナちゃんは私の顔を覗き込むようにしながら言う。その目は三日月形に細められていて、布の下の口元がニヤニヤ笑っているのが分かるようだ。私は反論できなかった。


「狙いが私なら、ココアさんは関係ないですよね? 彼女を逃がしてあげてください!」


「いーや、そうはいかないんだよ。――この人たちが、この金髪のおチビちゃんに用があるけどユキノちゃんが邪魔でーって言うからさ、いい機会だからわたしがついでに片付けてあげたってワケ」


 ユキノちゃんの言葉に笑いながら答えたリーナちゃんは、自分の背後の木を指し示す。その木の影からゆっくりと現れたのは――私をレイプした銀髪ヘアーズ! あの『湿布』とか『包帯』とかいうクソエルフ共だ!



「あはは、ごめんせっかくだけど私これから大切な用事があ――」



 ――ヒュンッ!



 突然私の横を風のようなものが通り抜ける。そして、背後から何者かに腰に手を回され、喉元に冷たいものを押し付けられた。


「まあまあ、そう言わずにオレたちと遊ぼうぜぇ? なあ、ココアちゃん?」


「なぁっ! ちょっと離しなさいよ! 『湿布』だか『包帯』だか知らないけど、あんたたちには前科があるんだから、下手なことしたら即通報するわよ!?」


「やってみろよ、出来るもんならなぁ、ヘヘッ! あとオレは『疾風(しっぷう)』のカインな!」


 あ、無理だ。私は直ぐにそれを悟った。私の腕はカインと名乗る男(へんたい)に押さえ込まれて上手く動かせない! これじゃあ通報ボタン押せないよ!



「ココアさんに手を出さないでください!」


「だーめ、ユキノちゃんの相手はわ・た・し♪」


「へっ? ――い、いやぁぁぁぁっ!! やめ、やめてぇぇぇっ!!」


 リーナちゃんとユキノちゃんの……ていうかなにやってんの! こらぁ! そこぉ! ユキノちゃんに変なことするなぁ! ――でも、助けに行くことはおろか、そちらを向くことすらできなかった。



「ヒヒッ、なあおいカイン。こいつも結構可愛いぜ!」


「やったなガブリエル! んじゃオレらはこっちで楽しむとするかぁ!」


 もう一人の弓を持った銀髪が、倒れたミルクちゃんを抱え起こしている。ミルクちゃんに酷いことしないで! うぅ……また、またなの? また私は何も出来ずになされるがままなの……? こういう時にセレナちゃんがいれば……! でも、そんなご都合主義な展開には毎回ならないよなぁ……。



「ヘヘヘッ、悪ぃなココアちゃん。この前の続き、させてもらうぜぇ?」


「――いやっ」



 まあ嫌と言ってもやめてくれるわけでもなく……私は今度こそ覚悟を決めて目を閉じた。

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