妄想が暴走!? 〜タンポポは脚で盗む!〜
「か、身体ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ちょっ!! ユキノちゃん!! いきなりなんてこと言うの!! 嬉しいけど!! 私、そういうの本気にしちゃうからね!? VR空間とはいえ、親友とそういう関係になるのはどうかと思――
――ベシッ!!
「いたっ! ちょっとミルクちゃんなにすんの!」
「なにすんの? やなかばい! ご主人様こそにやにやして何考えとーと!?」
「こ、これは据え膳食わぬは男――じゃなくて女の恥といいますか! ――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!! やめて!! 首絞めないでぐぐぐぐっ……」
「えっちなご主人様は地獄で反省するとよかばい!!」
割と本気で私を窒息させようとしてくるミルクちゃんをなんとか振りほどいていると、そんな私たちの反応に首を傾げでいたユキノちゃんが口を挟んだ。
「あっ、身体でっていうのは、いつでもココアさんのクエストを手伝いますよってことで……」
――えっ
「なーんだ、そうだったんだーあはは」
「あはは、ご主人様、全く早とちりはようなかばい」
私とミルクちゃんの
「ま、まさかココアさん、私のことをそんな卑猥な目で見てたんですか!?」
いやだって……紐パンだし……さっきまで全裸だったし……男じゃなくてもムラムラしてくるよ……。なので否定はできない。
「……」
私が黙っていると、ユキノちゃんはポッと顔を赤らめて下を向いてしまった。ほらぁ、ユキノちゃんも変な妄想を始めちゃったじゃん!
「と、とにかく! 敵も倒したことだし、タンポポを探しに行こうよ!」
私は真っ赤になっているユキノちゃんと、不機嫌なミルクちゃんの手を引いて森のさらに奥の方へと向かった。自爆のお陰で周囲の霧は晴れていたけれど、森の奥は相変わらず深い霧に覆われている。そして、タンポポとかそういう可愛いお花が咲いているような雰囲気では全くない。
アオイちゃんはどうやらまた自爆に巻き込まれてしまったようで、レーヴくんの装備一式や、消耗アイテムが近くに落ちていたのでしっかりも拾ってきた。ここから先はミルクちゃんも含めて三人で進まないといけない。優秀なサポート役がいなくなっちゃったのは痛いかなぁ……。
「こ、この装備かなり目立つと思うんですけど……」
ユキノちゃんの声に私がそちらを振り向くと、薄暗い森の中にユキノちゃんの装備が――主にスケスケヒラヒラドレスとユニコーンの角がぼんやりと光って――かなり目立っている。
「確かに……」
「いざとなったらこん人ば囮にして逃げようや」
「えっ、ちょっと……!」
ミルクちゃんの言葉に慌てたユキノちゃんが、ドレスを脱ごうとして――諦める。
「ふっふっふ、囮か裸かどっちか選びんしゃい」
「ミルクちゃん……どちらかというと私たちの方が囮にされるよ。走るの遅いから」
ここぞとばかりにユキノちゃんをいじめ始めたミルクちゃんを窘めた。もう、私のために喧嘩はやめてほしい。モテる女は辛い。
ぼーっとしながら歩いていた私は、突如としてなにか柔らかいものにぶつかった。
「――ぶはっ!」
「ちゃんと前見て歩いてください……」
あっ、ユキノちゃんにぶつかっちゃったのか、ごめんなさい。
「ど、どうしたのユキノちゃん?」
「この先、モンスターがいます。それもたくさん……」
「えっ、ほんと? 全然見えないけど!」
「しーっ! 静かに!」
ユキノちゃんは唇の前で指を立てると、その指をそのまま額のツノに向ける。そのツノは相変わらずぼんやりと光っていて……。このツノがどうしたの?
「装備スキルで索敵ができるみたいなんです」
「うわぁすごい便利! じゃあそいつらをまとめて【ディストラクション】で吹き飛ばしてくるよ」
「ちょっと待ってください」
【ディストラクション】の詠唱を開始しようとした私をユキノちゃんが引き止めた。
「この先に大きな広場があって、そこにさっきのキマイラみたいな強力なモンスターがたくさんいるんです――そして」
ユキノちゃんがもじもじしている。どうしたんだろう。
親友の私には彼女がなにか言いたいことがあるような、そんな気がしたので、聞いてみた。
「そして?」
「このツノ、索敵もできるんですけど、重要アイテムの探索(サーチ)もできて……あるんですその広場に……」
「……なにが?」
「――『タンポポ』です」
――な
「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?」
じゃあやるしかない! 私の自爆魔法でなんとかモンスターを全滅!? いやでもそしたらタンポポも破壊されちゃうのか……
「なんとかタンポポを壊さずにモンスターを倒す方法は……」
「ご主人様!」
なんと、手を挙げたのはミルクちゃんだった。
「あん『ルドルフ』とかいう、おじいちゃんは、『自分ば見失わんごと』って言うとったばい」
「モンスターを倒さなくても、タンポポだけ取ってくればいいんですよ!」
ミルクちゃんの言葉に、ユキノちゃんがポンッと手を打った。そうか、モンスターを倒すことはクエストの目標じゃない。私、モンスターを倒すことばかりを考えて「自分を見失っていた」のかも。そもそもここのモンスターは普通だと倒せないような強さに設定されているのかもしれない。
「でもどうやって? モンスターたくさんいるんでしょ?」
すると、ユキノちゃんはニヤッと笑い、ドレスの上から自分の太ももをパンパンと叩く。
「これを使います」
「えーっ、うそでしょ……」
ユキノちゃん、走ってとってくるよって言ってる……いくらなんでも無謀だよ。――でも素早さ極振りのユキノちゃんならもしかしたら……?
「任せてください! ちゃんと取ってきます! ココアさんは森の入口で『跳躍の飛石』の準備をして私にメッセージを送ってください。私が来たらすぐに脱出を」
「――わかった。任せたよユキノちゃん! 行こ? ミルクちゃん」
少し……というかだいぶ心配だけれど、私は何度もユキノちゃん――希歩(のあ)ちゃんの試合を見ている。彼女がゴール前でボールを受け取った時の決定率はかなり高いものだった。自信があるなら――安心して任せてあげるのも親友の務めかもしれない。
私はユキノちゃんに回復薬とMP回復薬の小瓶を投げてよこすと、ミルクちゃんの手を引いて来た道を引き返した。少し歩いて振り返ると、ユキノちゃんが回復薬をゴクゴク飲みながら手を振っていた。うぅ……死なないでね。
ユキノちゃんに言われた通りにミルクちゃんと森の入口に戻る。幸いモンスターには遭遇せずにたどり着けた。そしてウィンドウを操作して、予めフレンド登録しておいたユキノちゃんにメッセージを送る。
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差出人︰ココア
タイトル︰着いたよ
本文︰森の入口で待ってるよ。頑張って!
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返ってきた返事は『がんばるぞい!٩( 'ω' )و』だって、可愛いね。
――グォォォォォォッ!!
――シャァァァァァッ!!
――キァァァァァァッ!!
――グルァァァァァッ!!
うわ、なんか遠くの方からモンスターの鳴き声がめちゃくちゃ聞こえてくるんですけど! 怒ってない? めちゃくちゃ怒ってないですかあれ……大丈夫かなぁ。
鳴き声は、だんだんこっちに近づいてくる! しかもドドドドっていう地響きもするし! ユキノちゃんはやく! はやく戻ってきて!
私は『跳躍の飛石』を二つ取り出して森の方をじっと眺める。ガサガサと、木が揺れる音がする。森からなにか白いものが勢いよく飛び出してくる。
「ココアさん!」
「はいっ!」
私はその白いもの――ユキノちゃんに『跳躍の飛石』を一つ投げた。そして自分も石を真上に掲げて叫ぶ。
「――転移(ワープ)!!」
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