クエスト挑戦! 〜気づいたらまた全裸!〜

 ◇ ◆ ◇



 えっと、クエストの内容を見直してみようかな。


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【追憶の試練】

『大賢者 ルドルフ』の試練を見事乗り越え、その力を示せ。

 達成条件︰『迷いの森』に咲く『タンポポ』の採集

 達成報酬︰種族スキルの解放

 編成条件︰1パーティ4名まで

 禁止種族職業︰なし


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『大賢者 ルドルフ』の試練っていうのは、『迷いの森』に咲く『タンポポ』の採集ってことだよね? 種族スキルっていうのが何なのかは分からないけれど、難しいクエストクリアして手に入れるものっていうことは、結構凄いものに違いない。

 編成的にはあと一人余裕があるけれど、鍛錬に夢中らしいクラウスさんとキラくん以外に誘う人いないしなぁ……とりあえず三人+一匹で行けるところまで行ってみよう。



 クエストの確認画面を眺めながら考え事をしていると、やがて私たちは例の霧が濃いいやーな雰囲気の森に差し掛かった。『迷いの森』だ。木が生い茂ってきて、邪龍の姿では先に進めなくなってしまったミルクちゃんは、私たちを下ろして人間の姿に戻る。


「なんか嫌な感じの雰囲気の森ですね……」


 そう言いながらも進んで先を歩いてくれるユキノちゃんに後ろからくっつくようにして私、アオイちゃん、ミルクちゃんは森の奥へと進んで行った。すると、徐々に木と木の間隔が開いてきて、一本一本の高さ、大きさがさらに増しているような気がしてきた。と同時に木の下の空間も広くなってきているのがわかった。


「そう――確かそろそろ――」


――ですね」


 私の言葉にアオイちゃんが頷く。


「なんですかって……」


「進めばわかるよ……」


 ユキノちゃんがさらに森の奥に足を踏み入れた時――



 ――グルルルァァァァッ!!



 霧の中から身の毛のよだつような唸り声が……!!!!


「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」


 で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! モンスターの声!! 前に来た時はこの声にびっくりして走って逃げてきたんだった!!



「――憑依(エンチャント)、【火焔(かえん)】! 二重憑依(ダブルエンチャント)、【氷結(ひょうけつ)】!」


 私とアオイちゃん、ミルクちゃんが悲鳴を上げる中、さすがのユキノちゃんは、両手に篭手を装備し、素早く炎と氷の力をまとう。薄暗い森に魔法陣の赤い光と青い光が浮かび上がる。その光に照らされて、チラッと敵の姿が見えた気がした。――大きな鋭い牙と――たてがみ?


「ゆ、ゆゆゆユキノちゃんなんとかしてぇぇぇぇっ!!!!」


「ま、魔法魔法……」


 慌てふためく私たちをよそに、ユキノちゃんは冷静に敵と対峙しているような気がする。無闇に仕掛けたりしないってことはやっぱり相当強い相手なのかな?



 ――グルルルル



「……困りましたね」


「へ?」


 ユキノちゃんどうしたの唐突に……。


「これは私では敵いません」


「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」


 私、アオイちゃん、ミルクちゃんは声を揃えて絶叫した。ユキノちゃんをあてにしてたのにぃぃぃぃぃぃぃっ!! ユキノちゃんが勝てないなら私たちに勝てるわけないよぉぉぉぉぉぉぉっ!!



 ――グルルルルァァァァァッ!!



「に、逃げ――」


「ココアさん! 自爆魔法は使えますか!?」


 ユキノちゃんの声に私は反射的に頷いた。


「つ、使えるけど……!!」



「ココアさんは自爆魔法の準備をお願いします! アオイさんは合図でなんでもいいので私に強化(バフ)をかけてください!」


「う、うん!」


「はいっ!」


 私はウィンドウを操作して【ディストラクション】の詠唱を開始する。と、私たちの真上を何かとてつもなく大きなものが飛び越えて、背中の後ろの方に着地したのがわかった。退路を断たれた!! もうやるしかない!!


 私が振り向くと、霧の中から敵が姿を現した。


 それは、体長十メートルはありそうな巨大な獅子――ライオンだった!!


「うわー、かっこいいライオンさん!」



 ――グルォォォォォォッ!!



 ライオンが咆哮する。前言撤回! かっこいいというより怖い! 私がビビっていると、ユキノちゃんがモンスターに向かって駆け出す。


「下がっててください! ――アオイさん、お願いします!」


「詠唱(コール)、【アクセラレーション】!」


「――え、ちょっと!」


 ユキノちゃんが少し慌てたような声を上げて、その身体が1回――2回――3回光る。――えっと、元々素早さに極振りしてる人にさらに素早さを上げたら当然――こうなるわけで。

 ユキノちゃんは目にも止まらぬスピードでモンスターの胴体に体当たりしてしまった。



「あっ……」


「あっ、じゃないよぉぉぉぉぉっ! アオイちゃん、私に【スピードキャスト】、ユキノちゃんに【ストライキング】、急いで!」


「は、はいっ! 詠唱(コール)、【スピードキャスト】! 【ストライキング】!」



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 魔法【スピードキャスト】がかけられました! 【ディストラクション】の詠唱時間が10秒短縮されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【スピードキャスト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の詠唱時間が10秒短縮されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【スピードキャスト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の詠唱時間が10秒短縮されました!


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 よーし、重ねがけはバッチリ! あとは20秒弱耐えるだけ!


 ユキノちゃんは大丈夫? モンスターのほうをうかがうと、ユキノちゃんはモンスターの攻撃を回避しながら属性攻撃で戦っていたものの、そのHPは既に半分を切っている。対するモンスターの身体の上空に浮いているHPバーはあまり減っていないように見える。


 ていうかよく見るとあのモンスター、ただのライオンさんじゃなくない!? なんか背中に羊だかヤギだかの頭が乗っかっているし、尻からは尻尾の代わりにヘビの頭部みたいなものが伸びている。なんというか、すごく気持ち悪い。


「き……キマイラばい」


「キマイラ?」


「獅子の胴による物理攻撃、山羊の頭による魔法攻撃、蛇の尻尾による状態異常攻撃――うちもあまり戦いたくなか相手ばい」


 ミルクちゃんはあのモンスターのこと知ってるみたい。でも私には「とりあえず強いモンスター」ってことしか分からない。もうどうでもいいや、とりあえず自爆で吹き飛ばすっ!!



 ――グルォォォォァァァッ!



「――しまっ……!?」


 ユキノちゃんの身体を、モンスターのヘビの尻尾が捉えた。ヘビはたちまちユキノちゃんの腰に巻き付き、その自由を奪った。そしてそのヘビの口からユキノちゃんに紫色の液体を吐きかける。やめろ! ユキノちゃんにえっちな液体をかけるなっ! 服を溶かす液体でしょ!? 破廉恥な!


「うぁぁぁっ!?」


 でも、私の予想は外れたみたい。ユキノちゃんのHPバーの隣に出現した紫色のアイコン。あれは毒だ。たちまちものすごい勢いで減り始めるユキノちゃんのHP。なんとかしなきゃ!


「アオイちゃん! 私に【マジックブースト】をお願い!」


【ディストラクション】の詠唱時間は残りわずか、ユキノちゃんが死んじゃう前に間に合うか……!?


「詠唱(コール)、【マジックブースト】!」



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 魔法【マジックブースト】がかけられました! 【ディストラクション】の範囲と威力が強化されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【マジックブースト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の範囲と威力が強化されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【マジックブースト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の範囲と威力が強化されました!


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 私は地面を蹴ってモンスターの元へと駆ける。


「ユキノちゃん、【空蝉(うつせみ)】の準備! アオイちゃんは逃げてぇぇぇぇっ!!」


「は、はいっ!」


 アオイちゃんが逃げたのを確認する余裕はない。もし巻き込んでしまったらごめんなさい。――でも、ユキノちゃんが死んじゃう前にぶちかますっ!!



「――食らえっ! 【完全脱衣(フルパージ)】っ!!」



 ――ぽよんっと揺れるおっぱい。でも大丈夫。みんな戦いに夢中で私のすっぽんぽんは見られていないはず!――


 私はモンスターの足元に駆け寄ると、叫んだ。



「いっけぇぇぇぇぇぇっ!! ――【ディストラクション】ッッッ!!!!」

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