いきなりダンジョン! 〜お兄ちゃんっ子だって服を脱ぎたい!〜

「うわぁぁぁぁぁぁナンパだ! 逃げようユキノちゃん!」


「は、はいっ!」


 私はユキノちゃんの手を引いて走る。口上からしてあれは間違いなくナンパだ。だとしたら、こういう時は先手必勝! いくら街の中がダメージ受けないゾーンだとしても、えっちなことされて精神的にダメージを受けてしまったら元も子もないしね。こういう時はさっさと逃げるに限るよ!


「……!? おい待てコラッ!」


 案の定、イケメンたちの反応は少し遅れた。その隙に私たちは数十メートルのアドバンテージを稼ぐことができた……のだが。



「あれっ、ココアさん! もっと速く走らないと!」


「あ、ごめんユキノちゃん。私もしかしたら素早さにステータスを振っていないから遅いのかもしれない!」


「えぇっ!?」


 そんな声出さないでよユキノちゃん……。そんな思いとは裏腹に、私とイケメンたちの距離はどんどん詰まっていく。彼らは見るからに初期装備なので、普通にステータスを振っていれば逃げ切れる相手なのかもしれないけれど、私の場合はHPに極振りしてしまったからなぁ。……だとしたら!



「ユキノちゃん! 先に行って!」


「で、でも!」


 心配そうな顔で振り向く彼女に、私は精一杯の笑顔を向けた。


「大丈夫! あとから追いつくから。別々に逃げよう!」


「は、はいっ! どうかご無事で!」


 ユキノちゃんは少し逡巡していたけれど、やはり恐怖が勝ったのか、クルッと方向転換して右側の路地裏に入っていった。にしてもユキノちゃんは速い。あれなら男たちから逃げ切れるだろう。私もすかさず左側の路地裏に入ろうとした。が、路地かと思ったそこは、すぐに行き止まりになっていて……


「あわぁぁぁっ!」


 慌てて止まろうとしたら前につんのめってしまって、そのまま石の壁に激突……してないっ!?

 私はどうやら壁を通り抜けて建物の中に入ってしまったようだ。そして私は気づいた――自分が空中にいることに。建物の中は真っ暗な空洞のような造りになっていたのだ!


「お、落ちるぅぅぅぅぅっ!?」


 私は――そのまま暗闇の底へと落ちていった。



 ◇ ◆ ◇



「いったたた……」


 私は打ちつけた腰をさすりながら身体を起こした。うーん、急に止まれなかったのは多分おっぱいがおっきくなったせいでバランスがとりづらくなったせいかも。体型弄るのはやっぱりやめた方が良かったかな?


 にしてもここはどこだろう? 街の地下……かな? いかんせん暗くて何も見えない。初心者装備のままだから、明かりを出せる魔法とか道具とかも当然持っていない。

 とりあえずさっきの男たちが追いかけてくる気配はない。くそぅ、あいつらのせいでユキノちゃんとフレンドになり損ねたじゃん!


 左手を振って、最小化してあったステータスウィンドウを大きくしてみる。が、それで目の前が照らされたわけでもなく、暗闇の中にウィンドウがただ浮いているだけだ。


 ちぇーっ、そんな上手くいかないかー。あ、そうだせっかく真っ暗なんだし、をやってみよう!


 私は、装備欄の『ぬののふく』を選択して、『解除』してみた。



 シュンッと音を立てて、私の着ていた服が消える……消えたはず! 暗くてよく分からないけど、なんか風通しがよくなったような……やった! 私、いますっぽんぽんです! えっ? 見えない? そりゃあ残念だったね!

 いや、でも微かに布の感触が残っている。身体を触ってみると、どうやら大事なところは下着のようなもので隠されているらしい。なーんだ、残念。


 ついでにスキルも確認しておこう。えーっと、装備欄を上にスクロールしていって……あった。【即死回避】と【幻惑】だね。どういうスキルなんだろう? スキルの欄をタッチすると、そのスキルの解説を読むことができた。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【即死回避】

 パッシブスキル。HPが満タンの時に、一撃で死に至る攻撃を受けた場合。HP1で生き残ることができる。

 習得条件︰チュートリアルのスキル選択で【即死回避】を選択する。


【幻惑】

 パッシブスキル。視界に捉えている、格上の相手の攻撃を一度だけ回避できる(クールタイム3分)。

 習得条件︰他プレイヤーに自分のリアルの性別を間違えられる。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 おぉ、【幻惑】の方はなんか便利そうな気がするけど、【即死回避】はHP満タン限定なのかぁ……使いにくそう。てか【幻惑】の習得条件よ……だから知らず知らずのうちに習得してたんだね。


 私はスキルの使い方を考えつつ、暗闇の中を壁に手を当てながら探索した。すると前方にぼんやりと光が見えた。出口かな、やった!



 だけど、光に近づくとそれはただ装飾のゴテゴテついた扉が光っていただけだということが分かった。まあいいや、とりあえず扉の先に進みましょうかね。


 私が体重をかけるようにして扉を押し開けると、中は薄暗い洞窟のような場所になっていた。まあ光があるだけマシかなと思い、ゆっくりと先に進む。私の背後でゴゴゴゴと扉が閉まる音がした。……あれ、なんか嫌な予感が……!



 ――ペタペタぺタ



 何かの足音がする! それも複数! どうする!? 敵かな!? いやでもここは街の中……のはずだし!




 悩んでいると、突如として目の前にモンスターが現れた! 例えるなら直立二足歩行するトカゲみたいな怪物! 手には木に金属を縛り付けて作ったような槍を持っている。そいつがなんと三体! やばい、明らかに敵だ! なんで! ここ街の中なのに!


「う、うわぁぁぁぁぁぁでたぁぁぁぁ!」


『キシャァァァァッ!!』


 モンスターの奇声! 怖い!

 私は急いで扉の元に引き返すと、扉を押したり引いたりガンガン蹴ったりしてみる、がビクともしない!


「やぁぁぁぁぁぁっ! あけて! あけてよぉぉぉぉぉっ!」


 叫んでも開かない。これは……死んだかな?

 あれ、そういえば私まだ裸のままだった!


 どうでもいいことをふと考えてしまった私の背中に――容赦なく槍が突き刺さった。

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