フラれちゃった! 〜お兄ちゃんっ子だって死にたくない!〜

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 全身を痺れるような感覚が襲う。でも不思議とそれほど痛みはない。むしろ突かれた衝撃のほうが大きいくらいだ。が、モンスターが槍を引き抜くと、視界左上のHPバーは急速に減っていって音もなく消滅した。


 あー、死んだ。やっぱりステータスを物理防御に振らずに、服も脱いじゃった私が耐えられる攻撃じゃなかったようだ。するとその時、目の前にこんなメッセージが浮かび上がった。



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 スキル【即死回避】が発動しました!


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 あっ、そういえばあったねそんなスキルが! よく見ると、私のHPバーはミリ単位で残っていた。だけどどちらにせよ次はない。どうしよう。落ち着け、考えるんだ私!

 私は咄嗟に後ろを振り向くと、全力でモンスターに飛びかかる。そこに再び襲いかかる槍。――間に合わない! と、その時、迫っていた槍は突然何故かあらぬ方向に逸れていった。



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 スキル【幻惑】が発動しました! 攻撃を回避しました!


 スキル【自動反撃(オートカウンター)】を習得しました!


【自動反撃】

 攻撃回避時に闇属性の反撃を行う。

 習得条件︰HPが1の状態で格上の相手の攻撃を回避する。


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 なんかスキルを習得したけどこれ、弱い今は使えないやつだぁぁぁぁぁぁっ!! しかも、【幻惑】を使っちゃった! もう正真正銘打つ手なし! 最後に……自爆魔法を使いたかったなぁ。早く習得しなきゃ……。


 目の前に迫る槍――私は思わず目を閉じた。


「ごめんなさいごめんなさい許して何でもしますから! おっぱい触っていいから!」



 私はじっとその時を待った。


 ……。


 ……。


 その時を待――



 ――あれ



 攻撃が来ない。もしかして本当におっぱい触りたいんじゃ……? いやいや、まさかね。恐る恐る目を開けると、モンスターたちは揃って私に背を向けて背後を警戒している。――どうしちゃったんだろう?



 ――シュンッ!


 ――シュンシュンッ!



 何かが宙を切る音と共に、三条の光がモンスターの頭部を貫いた。ドサッとその場に倒れるモンスターたち。……あれ? もしかして私、助かったの?


「……ふぅ、そこの方。大丈夫です……マジですか」


 モンスターの背後から歩いてきたのはすらっとした美人さん。肩くらいまで伸ばした光り輝く銀髪に、碧と金色のオッドアイが特徴で、手には大きなスナイパーライフルのような武器を抱えている。装備はホムラちゃんの色違いのような近未来的なものだ。――流行ってるのかな?

 この人もベータテスターだろうか? 明らかに強そうなオーラをまとっている。かっこいい!


 彼女は、洞窟の隅にうずくまる私の姿を見つけると、声をかけようとして……途中であっけに取られた様子で口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。


「わ、私は大丈夫です。お陰で助かりましたありがとうございま――」


 私は美人さんにお辞儀をして……自分が半裸だったことに気づいた。




「いやっ! ちがっ! これはその!」


「……人の趣味はそれぞれなので否定するつもりはありません。――お邪魔してしまいましたね私はこれで失礼しま――」


「ちょっと待って!」


 早口でまくし立てながら立ち去ろうとする美人さんに私は必死に縋りついた。だって、この人に頼らないと私ここから脱出できないもん!


「あの、別に私はそういう趣味はないので、踏みつけろとかそんなこと頼まれてもご意向に添いかねますが……」


「何言ってんの! 違いますよ! 私、迷子になっちゃって……初心者だし、ここから出るのを手伝って欲しいんです!」


 暴走気味になってしまった美人さん。私は慌てて否定する。


「――初心者がこの隠しダンジョンに迷い込むなんて……マジですか。そういうことなら出口までご案内します」


 やっぱりここ隠しダンジョンだったのね! だからモンスターも強そうだったんだ……。


「ありがとうございます!」


「ついてきてください」


 クールな美人さんは、そのままスタスタと先に進み始めた。


「ちょっと待っ……速っ!」


「おっそ……マジですか」


 遅れる私に呆れたような顔を向ける美人さん。そんな顔もかっこいいです!




「私、まだレベル1だし、ステータスはHPに極振りしてるんで素早さが1なんですよ」


「HPに極振り!? ……マジですか。そんなバカなことをする人がこの世に存在していたなんて……」


「えへへ、ちなみに闇霊使いの自爆魔法極めようとしてます!」


 私はえへんと胸を張った。が、何故か美人さんは頭を抱えてしまった。


「そんなめちゃくちゃなこと……はぁ、分かりました。それじゃあ――」


「うわぁ!」



 びっくりした。突然、美人さんが手に持っていたスナイパーライフルを背中に差すと、私をお姫様抱っこしたのだ。え、なにこの胸きゅんイベントは!? まるでお兄ちゃんに抱っこされているような安心感。ううん、それよりも安心するかも……。


「このまま連れていきます」


「あ、だったら!」


「……?」


「よかったら、パーティ組みませんか? 私せっかくなんで経験値が欲しいんですよ」


「え、マジですか。それ、私になんのメリットがあるんですか? パーティ組むと経験値の分配は倒した者が7割、他のメンバーに3割。つまり私が得られる経験値が減ってしまうのですが」


 釣れない美人さん! でも私には考えがあった。


「あの、私の『初心者の証』を使ってください! 貸しますから!」


 そしたら、経験値は2倍されて美人さんに14割、私に6割。お互いにとってウィン・ウィンの関係なのでは!?


「……なるほど。いいでしょう」


 と、少し考えた美人さんはウィンドウを操作するような仕草をした。



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 セレナさんからパーティに誘われました!


 承認◀

 拒否


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 よし、承認っと! セレナちゃんね。覚えました!

 そして、私は自分に装備されていた『初心者の証』を、パーティの共有ストレージと呼ばれるものに移す。すると、セレナちゃんはそれを今度は自分に装備したようだ。ちゃんと後で返してくれるよね……?


「では、このままダンジョンを突破します。――【自動迎撃(オートインターセプト)】発動」


 セレナちゃんがそう口にすると、彼女が背中に差していたスナイパーライフルが宙に浮かんで彼女の周囲に滞空した。おぉ、かっこいい! 私の【自動反撃】の強化版スキルかな?


「お願いしまーす!」


 私はセレナちゃんに抱っこされたまま、ダンジョンの奥へと誘われたのだった。



 ◇ ◆ ◇



「ここが出口です」


「うわー、楽しかった! ありがとうございます!」


 ダンジョンの出口はとある建物の地下室のような場所だった。恐らく建物の出口から外に出れるだろう。

 私はセレナちゃんにお礼を言った。実際、道中出くわしたモンスターは、皆セレナちゃんのスナイパーライフルが勝手に撃ち抜いてくれて、私はダメージを一切受けることなくダンジョンを抜けられた。レベルも結構上がったんだよ。スキルも手に入れたし。


「いえ――そろそろ私は


「あ、ほんとだ! 私もそろそろです!」


 視界右上のタイマーは、そろそろ夕食の午後6時まで15分を切っていると告げている。あと5分もすれば覚醒させられて、ゲームを一旦終了することになる。


「では私はこれで」


「あ、あの! もし良かったらフレン――」



 セレナちゃんはそれだけ言って去っていってしまった。


「はーぁ、フラれちゃった……」


 少し残念に思いながら、とりあえず私はステータスウィンドウを開いた。そして貯まっていたボーナスポイントを全てHPに振る。



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 名前︰ココア

 性別︰『女』

 種族︰『ホムンクルス』

 ジョブ︰『闇霊使い』


 ステータス

 レベル︰5

 HP︰330

 MP︰40

 STR︰4

 VIT︰4

 INT︰4

 RES︰4

 AGI︰4

 DEX︰4

 RUK︰5


 スキル

【即死回避】 【幻惑】 【自動反撃】 【究極背水】


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 だいぶ強くなった気がする! スキルの【究極背水】は、HP1の時に与える物理、魔法のダメージが2倍になり、さらに何も装備をしてない時にはさらに2倍になる。計4倍になるというものだ。なんか、HP1の状態でしばらく攻撃を受け無かったら習得できた。



 そして――



 ――ピコン



 という音がして、新しいウィンドウが開いた。



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 新しい魔法を習得しました!


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 魔法!? 初魔法じゃんやったぁ! 自爆魔法かな?



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【完全脱衣(フルパージ)】

 即座に全装備を解除する。

 消費MP︰0

 属性︰無

 習得条件︰何も装備しないまま30分以上恥を晒す。


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 そういえば、まだ私は半裸状態だった。


「いらないよぉぉぉぉぉぉぉ!!!! なにこれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

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