初めてのフレンド! 〜お兄ちゃんっ子だってナンパは嫌です!〜

 だって、私はこのゲームで早くベータテスターのお兄ちゃんに追いつきたいんだもん! だから経験値2倍を手放すのはちょっと辛いかな。


 私の言葉に、ホムラちゃんはそっかそっかと笑うと、意外にもすんなり諦めてくれたようで、「フレンド登録をしないか?」と提案してきた。断る理由はなかったのでOKすると



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 ホムラさんからフレンド申請がありました!


 承認◀

 拒否


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 というメッセージが。もちろん『承認』をタッチして、私はめでたく見た目美少女の痴女ベータテスターとお友達になることができたのでした。



 ◇ ◆ ◇



 その後、彼女は親切にも私に地図(マップ)の出し方を教えてくれて、街の中心付近まで案内してくれた。ていうかこのゲーム、チュートリアルとかそういうものは一切ないんだね。不親切すぎない? 私にコミュ力がなかったらずっとゲームが進められなかったよ。


「ちょっと事情があって、オレは人通りの多いところは避けてるから、あとは自分で行ってくれ。ここ真っ直ぐ行けばいいだけだから」


「ありがとうございますっ」


「あ、あとこれは忠告なんだけど、ベータテスター連中はみんなオレみたいに『初心者の証』を欲しがっていて、中には力ずくでも奪おうとしてくるやつもいると思う。オレはから断られたら諦めるけどな。……だからくれぐれも注意してくれ」


 ホムラちゃん、見た目は痴女だし口調は乱暴だけど、意外と(?)親切でいい人。最初に出会ったプレイヤーがホムラちゃんでよかった。


「気をつけます」


「じゃあ頑張れよ。何か困ったことがあったらチャットで連絡くれ。――もちろん気が変わって『初心者の証』を譲ってくれる気になったとしても――」


 やっぱり諦めきれてないじゃん! 私は思わずクスッと笑ってしまう。ホムラちゃんはそんな私の様子に、ポッと顔を赤らめると、クルッと私に背を向けて足早に去っていってしまった。


「さーて、いざ繁華街へ!」


 私は意気揚々と、示された道を歩き始めた。……ていうか今気づいたけどやっぱり私普通に歩けてる! 踏みしめる地面の感覚、細かい揺れとか凄くリアルで感慨深い。お父さんお母さんやったよ! 私、普通に歩けてるよ!

 私は今まで苦労しながら育ててくれた両親に感謝しながら歩き続けた。



 ◇ ◆ ◇



 しばらく行くと、周囲には次第に人影が増えてきた。初期装備の初心者が7割、整った装備のベータテスターが1割、街の人風のNPCらしき人が2割ってところだろうか。やがて、噴水広場のような開けた場所に出た。ここがほぼ街の中心地らしく、人も多い。


 所々に人だかりができている。なんか、ベータテスターの人を初心者たちが囲んでアドバイスとかを貰っているようだ。いーなーベータテスター。モテモテじゃん。ってことはうちのお兄ちゃんももしかしてああやってモテモテしてたりして……。


「くーっ! お兄ちゃんのアホ! バカ! おたんこなすび!」



 でもここでイライラしていても仕方ない。とりあえずお店にでも行って何か装備でも買おうかな、あれそういえばお金もってたっけ? などと考えていると、突然私のすぐ隣にぼんやりと光が浮かび上がった! うわなにこれ魔法!?


 私が慌てて横に避けると、光はその輝きを増して、中から私同様の初期装備の女の子が現れた!


「――っ!? あれっ!?」


 なぜか目の前の私を見てびっくりした彼女は、そのままバランスを崩して私の方に倒れてくる。


「危ないっ!」


 咄嗟に抱きつくようにして支える私。



 ――ムニッ!



 その時私の胸をなんとも言えない感覚が襲った! なんというか、何かが押しつぶされるような感覚とともに、ゾクゾクするようなになってしまった。


「あぅ……!」


「ご、ごめんなさい!!」


 私が思わず声を漏らすと、私の胸を手で押して転倒を免れた女の子は、真っ赤になって手を引いて、ビュンと音がしそうなほど勢いよく頭を下げた。水色の小さなサイドテールがフワッと揺れる。私よりも幾分背の高い女の子。しかしその雰囲気はどこか垢抜けない感じがして……多分私よりも年下かな。


 それにしてもこの初期装備の服、意外と可愛いな。あれ、もしかしたら装飾品と同じように外せたりするのかな? ……今度人気のない場所でやってみよっと。




 と、今はそれどころじゃないんだった! 女の子をフォローしてあげないと!


「あぁ、別にいいんですよ! ラッキースケベは誰でも起こり得るものですから!」


「――はいぃ!?」


 文字にするとしたらこんな感じだろう。あ、アクセントは小さい「ぃ」につきます。とにかくそんな感じの素っ頓狂な声を女の子は上げた。ザ・純粋女子! って感じの反応だ。だとしたら少しテンションを抑えないといけない。


「――こほん、あの、初心者さんですよね? 私もなんです」


 とりあえず当たり障りのない話題を振って誤魔化すと、女の子は幾分か安心したような表情になった。


「はい、ログインしたてです。ユキノっていいます」


「私はココアです」


「ココアさん、よろしくお願いします。わたし、まだよくこのゲームのこと分かってなくて……」


「チュートリアルないですからね……不親切ですよね!」


「えっ、あ、まあ、はい……」


 運営さんをディスり始めた私は、またしてもユキノちゃんを困らせてしまったようだ。あ、そうだ! 初心者の友達が欲しかったところだし、いい機会だからフレンドになっておこう!


「あの、良かったらフレンドに――」




「よぉ、姉(ねえ)ちゃんたち。良かったら俺らと遊ばねぇか?」


「誰だぁぁぁぁぁっ!?!?」


 突然背後から男の人の声で話しかけられたので、私はびっくりして絶叫してしまった。大切なシーンなんだから邪魔しないで欲しい。

 振り返るとそこには――



 ――カラフルな髪色の二人のイケメンプレイヤーがいた。

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