第5話 今起きている現状②

「おいおいおい! ちょっと待て。あのロボットみたいなやつに乗るのかよ! オレはお断りだぞ! 痛い思いしてまで、戦ったのになんで!」


 アオイは癇癪かんしゃくを起こすように土壇場を踏んでいる。

 ただの一般人であるにも関わらず、何故世界を救う必要があるのか。それが大きな疑問でもあったが───


「乗っている·····。その意味は違うわ·····」


 ルーニャはアオイの気持ちを寄り添おうとしているせいか、何かを隠していた。

 ジュンを除いた異世界組にとってはなかなか告げられないことがあったようだ。


 ジュンは先程の言葉を繋げるように重い口調で開く。


「アオイ·····。悪いが。君はもう死んでいる」

「·····。は?」


 最初の意味がわからないまま、呆然していた。するとトウコが───


「正確には·····。身体は失っているのよ」

「いや。そんなわけ·····」

「今の義体ソーマがその証拠よ。脳だけを生かして、こうして話してる·····」


 その一言で少し紐がほどける。それはあの時の戦闘で痛覚を感じたことや今のようにホログラムのように4人と話してる。


 アオイは先程までの高校での出来事をもう一度思い出すと。脳にネットのような世界で生かされているのなら、筋が通っていると思っていた。


「つ、つまりオレが居るところは·····」

「イデア·····。オレたちの元の世界で例えるのならネットの世界だ·····。脳をネットに繋いで生きている状態に近いさ」


 ジュンの一言で確信へと変わった。アオイはその話の仮定が本当であれば、事実として受け止めるしか無かった。だが·····


「·····。ざけんなよ·····」


 喪失感に襲われたことで膝が地面に着く。

 突然の出来事に一つ一つを飲み込むにも限界になっていた。異世界に飛ばされたこと、戦いへの参加、そして身体を失ったこと。

 全てを受け止めるにも憂鬱ゆうつに感じていた。


「アオイ·····」


 とトウコは慰めようと手で撫でようとする。


「触らないでくれ·····」


 ホログラムであったとしても、アオイは受け入れたくなかった。顔を合わせることを拒むように顔を下に向けて隠す。


「もう。この辺しましょ。彼のメンタルが持たないことを考えたら·····」


 ルーニャはアオイの状態を見て、撤収を提案をした。このまま問答を続けたとしても、まともに会話ができるかわからないからだ。

 万が一。アオイが蒼い魔法騎アロンダイトを暴走させた時には被害が起きてもおかしくもなかった。


「そうだな·····。一度解散をしよう。アレックスは周辺の見張りを。トウコはアオイの側に居てやれ」


 ジュンは2人に指示を送ると席を立ち上がる。部屋を去ろう背後に向いた瞬間────


「待て」

「·····。なんだ?」

「ニホンはどうなった?」


 その一言を聞いて、なぜ国を心配した理由がわからなかった。

 だが、何かしらを知りたいという事は気づくことはできた。


「1部の地域だけがここに飛ばされている·····。だから。無事だと思われる·····」


 わかる範囲をジュン答えると部屋を去った。

 アオイはそれを聞いて無意識に安息をする。

 理由は思いつかなかったが、ただただ被害が大きくないことが安心へと繋がっていた。


「じゃ、じゃあ。悪いけど、オレは見張りに行くから、そいつをよろしくな」


 アレックスは持ち場に行くため、肩を慣らす。


「うん。わかったわ」

「それと暇だからと言って、お菓子食うなよ。太るからなぁ。くくく」

「ちょ?! アレックス!」


 茶化させるとトウコは顔を赤くしてポコポコを彼の胸元を叩いた。それを満足するかのようにアレックスはニコニコと笑っていた。


「あはは。悪い悪い! そろそろ行くわ」

「あ、うん。行ってらっしゃい」


 茶番が終わると持ち場へと向かった。

 鎧の擦れる音が遠のくと、ルーニャは「あぁ!」 と何かを思い出すように勢いよく立ち上がる。


「ど、どうしたの?」

「ごめん! 薬の製作しないと行けないわ! 私も行くね!」


 待ち合わせを間に合わせるかのように慌てて走り出した。


 走る音が聞こえなくなると2人の空間となり、沈黙が広がった。


 話題を出しても良かったが、アオイの落ち込みが激しいせいで上手く話せなかった。


 トウコは慰める方法を考えてると、「ハッ」と思いつく。そしてうずくまっているアオイにある物をホログラム状で差し出した。


「·····。これは?」


 目の前にはパンのようなものの間にクリームが挟まっていた。少しお腹すいてたため、余計にお腹が鳴ってしまう。


「マリトッツォよ。気分転換で甘いもの食べよ」

「お、おう。ありがとう·····」


 顔を赤くし、素っ気ない感じでお礼を言う。マリトッツォを手に取るとホログラムで出来ているせいか違和感がある。だが、丸パンのようにフワフワしていて、クリームからバニラの甘い香りがしてきた。


「ムグゥ·····。あむあむ·····。美味しい·····!」


 反応は静かだったが、食べ物の力なのか心が癒されていく。


 そしてもう一口運び、マリオッツォの味を堪能していた。


「口にあって良かった。ここに来て好きになったのよ」

「そうなんだ·····。モグモグ。あー、美味しい」


 アオイは辛さを忘れるように顔の筋肉を緩ませる。程よい甘さとバニラの香りが心を落ち着かせた。


「ねぇ。アオイ」

「ムグゥ? なぁに?」


 マリオッツォをリスのように頬張ったまま、返事をする。


「なんで戦おうと思ったの? あの震えからして、戦闘慣れしてないのに·····」

「それは·····」


 言葉を濁すとアオイの心の中では不思議な感情が絡み合っていた。どう気持ちを伝えるべきかを悩んでいる。


「な、なんというか。戦わないといけない。って思ったんだ」

「それはなんで·····? 怖くなかったの?」

「·····。怖くないと言ったら、嘘になるさ。けど、のことを思い出したら·····。勇気が出せた」


 それはアオイが唯一覚える肉親である弟だ。

 あの時の戦いである感情を芽生えていた。


「それはなんで? ニホンの人はほとんど一般人のはずよ·····」


 トウコはニホンから来た人の事情は予め知っているようだった。それはジュンのように異世界に暮らしている人が居るため、珍しくはない。


「そうだな·····。使命なのかもしれないが、それが原動になって自然に体が動いた·····」

「使命?」

「うん。わからないけど、本能的に動いた。本当になんでかわからないけど·····」


 アオイの話を聞いているとトウコは幾つか引っ掛かっていた。


 それは「使命」という言葉だ。なぜ使命が原動となったのかがわからなかった。


 そして言葉を濁したり、隠している様子はなかった。まるで記憶を失っているかのように、ありまま話している様子だった。


「た、大変だ!」


 2人の脳からテレパシーから大声で男は騒ぎ出す。


「ど、どうしたのかしら?」

「ドラゴンが来た! 突然。街の上空から現れた!」

「え? ドラゴンおるの?!」


 アオイは思わず、アゴが外れるほど驚く。

 異世界とは言え、ドラゴンが居るのは想定外だったようだ。


虚像体エイドス·····。ごめん。話の続きはあとで!」

「と、トウコ! オレは·····」


 アオイはてっきりまた戦闘に参加することを不安に感じたのか難色を示したまま、呼び止めると·····


「大丈夫よ」


 気持ちを察したのか、トウコはニコッと眩しく笑う。


「守るから·····。そこで待ってて!」


 そして部屋から出ていく。


 その言葉を聞いて、鋭い刃を刺されるように衝撃が走った。わずかな間にアオイは状況をはそれなりに把握してる限り、兵力が無い中で戦っているとわかった。


 それはあの戦闘の時には友軍が来なかったこらだ。あの時はトウコとアオイが居たため、あの地域は守ることはできた。


 もちろん。彼女の存在が大きかったが、蒼い魔法騎アロンダイトが無ければ抵抗すら出来なかっただろう。たが、また参加してしまえば痛い思いはする。


 そして彼は「あー、なんで·····。オレは冷たいんだろう」と後悔の念を抱いていた。


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