第1話 忘れ去られた記憶と虚無な日常
これは1か月前の話。
教室の中では生徒達が休み時間を過ごしていた。
女の子たちが囲ってキャピキャピと話したり、男子がトランプなどでババ抜きをしていた。
そんな騒いでる中にアオイが退屈そうに机を横たわっていた。
ブレザーの中にいつものパーカーを羽織っている。
「あぁ·····。気持ち悪い·····」
何かを酔ったような目つきで窓の外を見ていた。
教室の生徒達の顔を合わせないように背けている。なぜなら彼らの顔は砂嵐で覆われているため、気分を悪くしていたから。
ここで時間が変わらないまま、ずっと教室内にいた。
最初は顔が隠れてたことに対して、疲れだと思っていた。しかし。時間が経つにつれて、時が進まないことに違和感を感じ始めた。
いつまでここに居るのか、わからないくらい感覚を狂わせされている。
「この世界は一体·····。そしてボクは誰なんだ·····」
目を覚ました時から記憶がいくつか抜けていた。学校生活に関しては多少は覚えているが、特に家族との思い出が薄らとしか覚えてなかった。
父や母は思い出せなかったが、10歳下の弟の背丈だけは覚えていた。
顔はモヤが掛かっていたが、存在だけは忘れなかった。
「ここはどこなんだ·····。家はどこなんだ·····」
ただ帰りたい一心に涙が溢れそうになっていた。だが、この世界を抜け出せない限りは帰れないと分かっている。
何度か試したが校門から出ても教室に戻されたり、無理心中をしても無傷だった。
明らかに現実世界が違うとアオイは分かると、不安に感じていた。
「帰りてぇ·····。もう·····。消えてしまえばいいのに」
アオイは腕に顔をうずくまり、少し弱味を吐いてしまった。
いつ脱出ができるか分からない世界でさ迷っていたことに悩んでいた。
心の中で「助けて」と呟くと聞き覚えのない女性の声が脳に響き始める。
「目を覚まして」
「誰?!」
その一言を聞いたアオイは咄嗟に顔を上げる。周りを見渡すと生徒たちが時が止まるように動かなくなっていた。
「これは·····」
あまりの出来事に驚くことしかできなかった。アオイは声の主を探すように───
「どこにいる! ここはどこなんだ!」
助けを乞うように息をあげるくらい声を張る。だが、反応がない。
「目を覚まして·····。世界を守るのよ。アオイ」
声がまた聞こえるとアオイは必死に探していた。ロッカーを開けたり、教室の引き戸を開けたりする。
だが、声の主が見つからない。
「世界を守って·····。これはあなたの弟を守るために戦うのよ」
「ど、どういうことだよ! 訳がわからねぇよ!」
混乱をしたことで声を荒らげる。
「あなたは最期の希望なの·····。だから。目を覚まして!」
謎の女性の声が叫ぶと教室内がガラスが割れるように、空間が崩れ始めた。
「な、なんたこれは?!」
後ろを1歩下がると少しづつ崩れる。アオイは床の方を見るとブラックホールのようなものが、割れた空間と共にアオイも吸い込み始める。
「お、おいおいおいおい!」
何とかして逃れようとするが掃除機のようにテーブルや椅子、スクールバッグが吸われていき、掴むものが無くなるほどアオイを引っ張ていた。
「く、クソォ! オレはこんなところで····· 」
アオイは諦めが悪いのか、近くにあった窓枠を掴んで抗っていた。
そして今まで思い出せなかった記憶の断片が脳裏に浮かび始める。
それは見知らぬ服装の男性と聖女と話すアオイの姿だった。
重要な何かを忘れてることを思い出す。この世界に来る前に大切な何かを果たせなかった記憶だった。
「目を覚ませ·····」
何かを思い出すかのように窓枠から手を離す。
覚えていないにも関わらず、身を任せるかのようにブラックホールに吸い込まれていった。
大切な何か·····。
アオイはその記憶を信じるかのように目をゆっくりと閉じた。
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