停留所『留華』
私の好きな人、あの車掌さんには好きな人がいる。らしい。
私なんかとは全く違うだろうその人のことが、私は羨ましい。ズルいって、思う。
きっと、その人を見たら私、きっと叫んじゃう。だろうなぁ。
私の方があの人のこと好きなのに! 私の方があの人とずっと一緒にいたのに! 私の方が! 私の方が!!
私はさ。女性らしくなくて、ワガママで、可愛くなくて、頭も良くなくて、ガサツで、言葉づかいもこんなで。車掌さんが言う「好きな人」には程遠い。
でも、ずっと好きだったの。彼だけを見続けて育ったよ。恋なんて、これだけしか知らないよ。彼だけが、あの人だけが好きなの。
好きなんだよ。ずっと。ずっと。
死んじゃえばこの恋も終わりなのかな。
戻れない終点まで行って、そこで降りて。今までのことを思い出してさ。もっともっと「好きです」って言えばよかったって、後悔するのかな。自分の特別な「好き」を彼に伝えきれなくて悔しい。そう、思うのかな。
私ね。彼のことが本当に好きなんだ。ちゃんと伝えたよ。
でも、彼からその返事はもらってない。もらえてないの。
別に気を使わなくていいのにね。私が小さい頃からずっと一緒だったんだもん。今さらどんな言葉だって受け止めるよ。
こわいのはさ。なんにも言ってもらえないで、このまま終わることなんだ。なにかを残してバスを降りたくない。それが大切なものだったら尚更だよ。
好きな漫画の、ドラマの、アニメの、小説の最後を見ないでページを閉じたくない。席を立ちたくない。
最終回は大事だよ。どんな最終回だってね。
あ、今が最終回か。まあ、いい感じの最終回なんじゃない?
適当言うな。こんなでも頑張って頑張った末の最後なの。
最終回の後はないんだよ。
ないんだよー。
ということで、私の話は終了です!
続編は期待しないでね☆
だってー。このままだといつまで経っても終わんないよ?
私のとっておきの話はこれでいいんだって。
言いたいことは言ったんだし、後はみんなの話を聞いてるよ。
で、結局何が言いたかったんだって?
そんなの決まってるじゃん!
好きだよ。車掌さん。
これが私のとっておきの話。
私という、停留所の話。
この町にはね。停留所にやって来るバスがあるんだ。そのバスの車掌さんが私の好きな人。
もうすぐ彼がやって来る。私の停留所に、バスに乗って彼がやって来る。そして、連れていってくれるんだ。
死んだ人しか降りれない、終点に。
ここは私の停留所。私だけの、停留所。
この停留所の名前は。
「留華」。私の、名前。
同級生の誰かがこう呟く。
「その車掌さんの好きな人ってさ、留華じゃないの?」
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