佳局「六芒の儀式」

1

「ん? テープが途中で切れているようだな。機材トラブルだろうか」


 N県警捜査一課長の岩波晋也は真っ暗ななか眉を潜めて、ひときわ眩しい光を発するラップトップを見つめる鑑識の小舘に尋ねた。最後の宮坂陽子の言葉。どうやら、彼女は一人で全員を殺したわけではなく、彼女の協力者が部屋から出たところを殺害していたようだ。


 いや、あの民泊内で血痕はリビング以外で発見されなかったから、眠らせているのかもしれない。うん、そっちの方が納得できる。


 しかし、そうなると大変だ。その第三者が誰なのか再び捜査をしなければいけなくなる。岩波はもう一度宮坂の話を聞くためにも小舘に巻き戻すように言った。


「おい、小舘」


 しかし、反応はない。


「おい、小舘」


 ラップトップからはホワイトノイズに紛れて、時々薄気味悪いノイズが割り込んでいる。


「語りましょ、語りましょう、六つの噺を語りましょ」


 いまだ電力は戻らない。捜査一課の部屋は小舘のラップトップの灯だけが頼りだ。


「丸ぁるく囲んで、胡座をかいて、闇夜に包まれ語りましょ」


 ザザッとホワイトノイズに紛れて何かが聞こえてくる。


「さすれば、さすれば、天に召され」


 どうやら合唱のようだ。


「さすれば、さすれば、地に堕ちる」


 大勢が小舘の声に合わせて歌っている。いや、彼が合わせているのか?


「さあ語りましょ、語りましょう、六つの噺を語りましょ」


 声はどんどん大きくなる。岩波の鼓動は大きく脈打って、それと共に冷や汗が出た。


「一つに二つ、三つに四つ、五つと六つで」


 後ずさりしたい。しかし体が固まって動かない。もし動こうとしたら、そのまま崩れ落ちてしまいそうだ。


「おやすみなさい」

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