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 息子が初老の男からもらった懐中時計、これは「かの時計」と呼ばれているらしく最初は自由に時を操れるのだそうですが、最終的には暴走を起こして様々な時代に飛ばされる代物らしいです。


 マーチャと名乗る青年は西暦三四〇〇年に晴久が出会った老人と全く同じ風貌の老人からこの時計を受け取り、悠久の旅に出る羽目になったそうです。しかし、飛ばされる時や場所は規則性があるらしく、決まって戦場で、一週間するとまた別の戦場に飛ばされるそうです。


 いわゆるタイムトラベラーに当たるのでしょう。なぜ老人がそのようなことをするかは議論が尽きませんでした。一説では最強の兵士を発掘するために募っているのではないかなどと噂されているそうです。


 転移した先で殺されると「かの時計」は消えて死体だけが名も無い犠牲者として現地の人に弔われます。それを防ぐためにも、いつからかトラベラーたちは団結して行動するようになりました。その組織こそ「旅人たち」だったのです。


「旅人たち」には様々な世界線の人が所属していて、息子の話によると遺伝子の突然変異によって超能力を扱える女の子や、軍事産業が進んだ世界で全身を機械兵器に改造された少年なんかが参加していたそうです。


「旅人たち」は一週間の滞在期間を終えると、転移一分前に次の行き先が「かの時計」に表示されるそうです。それをもとに彼らは簡易的に集まってどこで待ち合わせるかなど打ち合わせして転移をします。そして、転移した先では集団行動を保ちながら生きることに注力する。といったルーティンをとっていました。


 晴久もそこでしばらく活動を共にしていたそうです。コミュニケーションを取るために英語と中国語、それにルキョ語というある世界線では主流の言語も覚えたそうです。加えて武術や銃の取り扱い、サバイバルの心得なども習得したと言っていました。ですが、彼らと共に行動するうちに次第に疑問を持つようになったそうです。


 トラベラーたちが災禍に巻き込まれて死ぬと、「かの時計」は消えて無くなり、死んだ本人は身元不明のまま葬られることになります。せっかく生き延びたのに自分たちの行く末に待つのが名も無い死者として弔われることに晴久は納得できませんでした。自分たちが生きてきた証——ここでは、その、戦果を上げることを、意味するそうです——それを訪れた時代に残すべきだ。そうマーチャに進言したそうです。


しかし、彼は


「そんなことをしたところで誰も報われない。僕らの第一目標はこの時計の暴走を止めること。もし、人を大量に殺した先で戻れたとしても親は喜ばないだろう。人は極力殺めないべきだ。特に君は平和主義の国に生まれたのだろう。なら、尚更だ」と強く否定したそうです。


 晴久は最初の方は彼の言うことを聞いていました。しかし、名も無い骸として葬られる仲間、自分に言葉や力を授けてくれた仲間が死んでいくのを見ることに耐えきれなかったそうです。ある日、とうとう彼は「旅人たち」から脱退することを決めました。


 そこから彼は単独で時を渡るようになります。そして、訪れた時代で必ず一人は殺してきたそうです。これまで一千人近く殺してきたと彼は言いました。戦争なので人を殺しても罪にはならない。ましてや個人の管理が大雑把な戦場において、誰が誰を殺したかなんて覚えている人がいますでしょうか。彼は戦争の盲点を見事について殺戮の限りを尽くしたそうです。


 時には残虐非道な方法を使って、被害者に死ぬことが幸せだと洗脳させてから殺したりもしたそうです。そんな胸が張り裂けそうなことを息子は淡々と母親の前で語っていました。


 そして、自分が失踪してから半年後のこの世界にやってきました。


「本当は、この部屋にいる人を一週間拷問し続けようと思ったんだ。だけど、現れたのが母さんでハッとした。この時代にはまだ俺を知っている人がいる。俺の生きた証はすでにあるって。だから、この時代では人を殺さなかった。全て母さんのおかげだよ」


 私は目の前で語っているのが本当に息子なのか分からなくなっていました。彼の顔すらも直に見ることができず、まるで世界が歪んでいるかのように視界がぐらつき始めていたのです。


 ビービーと耳障りなアラームが鳴り響きました。音の正体はもちろん「かの時計」です。彼は銀装飾の懐中時計を開いて時刻を確かめ、目を見開きました。そして、テストで百点をとった時みたいにハキハキとした声で言うのです。


「やった! 次は200年後だって。噂で聞いたことある。五年近く『旅人』でいられたものは未来に飛ばされるって。これって、人類の歴史全体に俺の名前を刻み込むことができるってことだよね。ね、そうだよね、母さん」


「……そ、そうね」


 これしか言えませんでした。だって下手に否定すれば、彼は残り一分を使って私をいとも容易く殺してしまうかもしれませんから。


「それじゃあ行ってくる」


 彼はそう言って立ち上がりました。もはや先ほどまでの感情は消え去っていました。目の前にいる大量殺人者に何事もなく平穏にこの世界を去って欲しかったのです。もはや彼は宮坂晴久じゃない、いくつもの時代で数えきれないほど人を殺してきた化物だ!


 それは瞬きをしている間でした。私が目を閉じて開けると、そこに彼の姿がありませんでした。彼は約束通り二百年後の世界に旅立ったのです。




 これが私が体験した怖い話の一部始終です。あれ以来、私はあの日あらわれた男が自分の息子だと思えませんでした。姿形は一緒でも何かの偶然ではないだろうか。彼が勝手に私のことを母親だと勘違いしてくれたのではないだろうか。そんな同意を求めたくて知人や職場の同僚にも話しました。


 しかし、残念ながら誰一人として心から信じてくれる人はおらず、次第に私を敬遠するようにもなりました。


 私は孤独になったのです。誰も考えを聞いてくれない、誰も意見を言ってくれない。頭の中では自分の息子が虐殺者だという考えが手綱を失った馬みたいに暴れまわっていました。それを抑えながらも私はなんとか生活し続けていました。



 ですが今、日本は第二の戦禍に見舞われています。



 そうです。彼がまたしても私の前に現れたのです。幾千、いya幾億もの人を殺してきた虐殺者、soれに罪悪感を抱かないサイコパス、だけど自分が腹を痛目te産んだ大切な息子。私は気がついたら彼にわた死のことを殺してくれと懇願していました。再びあなたを前にしてmoうこれ以上、あなたの代わりに罪悪感に苛まれたくない。


 すると彼は快くsho諾してくれたのです。ただ、ある条件を提起しました。



 watashi, hitoridakewo, korosunoha, shinobinaikara, darekawo, makizoenishite.



 matsu倉さん気付いてますか? いま、gonoの部屋には私とvaなた以外、誰もいらっzyaらないのデスよ。zizizizi……。最初は六人いdaのに、一人zutsu席を立ったまま帰ってこない。


 なzheだと思いますか? 


 zoう、この部屋ha一度外ni出ると帰ってこreなi不思議na部屋なのdeathよ。


 フhuふ腑。


 doう肢てかしらne、doうしteかしらne。きっto、扉を開keた先に何かgaいるんでshoうね。


 さaaaaa、私の話ha終わりまshiた。一緒ni部屋をdeませうka。


 そうdeなくtoも、zi期この部yaにmo彼はyaっteきまsuけど……。

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