第9話 用意周到。
皇太子宮の庭園は白い薔薇がアーチにも足元にも溢れんばかりに咲き誇り、百合の花のような清廉な香りが場を満たしていた。
元々皇太子を象徴する花は白薔薇であるが、庭園に花が溢れんばかりに増やされたのは、サフィリーンが白薔薇がとても好きだからである。
まだサフィリーンは婚約者の身である。その為、本来であれば妃でもない令嬢が皇族の、それも皇太子の皇太子宮に頻繁に出入りするのは、外聞として余り歓迎されない。
貞淑を重んじる貴族社会において、はしたないとれるのだ。
しかし、皇太子自身がサフィリーン至上主義と公言し、強引に予定を入れてるのは城に勤める貴族には周知されている為、公爵令嬢であるサフィリーンは断れないのだろうと同情されている。よって醜聞にはならない。
皇子の熱を孕んだ視線の先にはいつもサフィリーンが居る。
お茶会でどうあっても離れないとならない場面でよく見られる光景なのだ。
器関係なくオルペリウス公爵令嬢にご執心と内外に示している。
そこまで執心されている姿を見れば、皇子に懸想して皇妃は無理でも愛妾をと願う令嬢も、器が見合わないが側室の地位だけを狙い、懐妊の望みがかなり薄くとも、賭けてみようかと思案する親達も双方諦め気味だ。
ゴリ押しでその場を獲得出来たとして、閨に通って貰えねば妊娠せず、子が成せない側室の立場も力も全くないから利がない。
愛妾も同じだ。寵愛がなければ何も無い。恋慕を抱いて傍に召し上げて欲しくとも来て貰えないのなら、居る意味もない。
類稀な統治能力と、誰もが吸い寄せられる程の美貌を持つ皇子には二人だけの世界しか必要としない為、サフィリーンにらライバルが存在していない。
サフィリーンは皇太子妃になる道しか残されていない。
余所見は許されない。
素晴らしい器としても、皇子の執着度合いとしても。
―――皇太子宮白薔薇庭園にて。
学園入学が決定事項てなった翌日、皇太子妃教育後恒例の皇子とのお茶の時間を過ごしながら、今ふと思い出しました風を装ってサフィリーンは切り出した。
「クロード様、私も今年度から学園に入学することなりました。」
「そうか!サフィと一緒に通えるなんて楽しみが増えたね。準備の方は大丈夫?」
白々しいな…とサフィリーンはジト目になる。
「それが、本日早朝に仕立て屋が公爵邸に訪れたのですが、既に制服が出来ていまして。細かい調整だけされるそうで簡単な計測後、すぐ帰られました。」
「準備に余裕が出来て良かったね」
皇子が眩い微笑みを向けてくる。
「制服の襟と袖に婚約者の瞳の色の糸で刺繍が施されるらしいのですが、まるで私が通う事が決まっていたかのように金色の糸でした。」
「凄いな。仕立て屋はサフィの優秀さに予測を立てて前準備をしていたのかな?」
な訳がない。
皇子は予め全て準備していたに違いない。
サフィリーンは溜息を呑み込む。
私の事になると暴走する皇子。
皇太子として尊敬してるし、ほのかな好感は感じているが、受け止めるのを躊躇う程の恋情は、時として息が詰まった。
贅沢な悩みかもしれないけど、もう少し私の気持ちが追い付くまでペースダウンして欲しい。
濃密でトロリとした愛情に、早く早くと急かされているようで、プレッシャーを感じているのだ。
幼い頃から距離が近すぎて、自分の気持ちが家族愛のようにすら感じているのに。
皇子にはそれが伝わっているから不満なのか、最近はさらにグイグイきているのもプレッシャーの原因でもある。
お茶会の際にドレスを毎回送ってくる皇子からすれば制服を前もって仕立てる事など簡単な事。
皇子が話すつもりはないようなので、この話は止める事にした。
「クロード様、学園でも宜しくお願いします。」
「こちらこそ宜しくね。またずっと一緒で嬉しいよ。」
先程のような華やかな微笑みではなく、無防備で幸せそうに笑う皇子をみて、少しだけ胸がキュンとした。
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