第2話 溺愛って読んで字の如く、溺れそうです。
――婚約式開催前日
婚約式前日に初顔見せというのも年齢的には仕方が無い事なのだろうけれど…
全く会わずに婚約式に臨むよりはと、予定を調整して皇子と会う事になった。
子供の意思なんて求められてはいないけれど、あまり会いたいとは思わなかった。
皇子に会いたくないというより、国のトップに会いたくなかった。
皇帝とか皇妃とか怖すぎる。
粗相したらどうしようとしか思えない。
両親と連れ立って皇城に出向き、用意された場は花咲き誇る庭園。
そこでハッとする。
そうか!会話が全く弾まなくても、ただ花に見惚れる振りしてれば弾まない事すら有耶無耶に出来そうだ。
初対面としていい場を用意して貰った。ここを場に選んでくれた人に密かに感謝する。
両親と三人静かに待っていると、皇妃と皇子の到着を侍従っぽい人から告げられる。
皇帝が居ない! と3回程心の中で喜びの快哉をあげた所で、皇妃が皇子を伴って現れた。
侍従に告げられた直後から、両親と共に立って待っていた。
「お待たせしたかしら。」
皇妃のおっとりした甘い声にハッとした。
両親が挨拶をした後、私が挨拶をする。
カーテシーが上手く出来ていたかちょっと自信がないが、プルプルした脚を気合いでピシッとさせた。
「オルペリウス公爵家が長女、サフィリーン・ル・オルペリウスと申します。以後お見知りおき下さいましぇ」
――噛んだ!!
うわー、なんだ「ましぇ」って!もうやだ帰りたい!
顔を真っ赤にして俯く私。
誰かがフフッと笑って、続いて皇子が
「クロード・レイ・インフェリアといいます。僕の婚約者さん。よろしくね。」
と、幼い声で自己紹介する。
私の「ましぇ」に誰も反応しないことを有り難く思いながらじっとしていると、
「楽にして頂戴」
鈴の鳴るような清廉なお声で皇妃様に促され、皇妃様と皇子が着席した後、私達親子が着席した。
着席する瞬間にこっそりと両親を見たが、ばっちり目が合い二人とも優しく微笑んでくれた。
噛んだことは、問題なかったのだと思いたい。
私の目の前にはもはや幼児のカテゴリーに入れてもいいものかと思う程の完璧な美貌を持った幼い皇子。
いや、天使…大天使かな?
サラサラと音がしそうな真っ直ぐな白金の髪は、顎下で綺麗に切り揃えてあり、艷やかな光沢を放っている。
美しい切れ長の瞳はキラキラとして星屑でも降ってるんですか? と言いたくなる程に輝く黄金色。
私より色白なんじゃないの!? とちょっと問いただしたくなるすべすべな白皙の頬は薄っすらと薔薇色に染まり、薄めの形のいい唇は柔らかそうなピンク色。
幼児にしては完成された圧巻の美貌に、不躾けだと分かっているけれど目が離せなかった。
ここは花咲き誇る庭園だけれど、皇子の背景にも華が咲き誇ってる気がする。
(この皇子は姫じゃないのか…? 皇子…だよね? 女の子の私より美しい気がしますけど…)
私の視線を受け止めた皇子と何故か見つめ合いながら、私の頭の中は「負けた・・・」の三文字が過ぎっている。
皇子、あんたの圧倒的勝利だよ、完敗です。
だから…だから帰っていいですか…。
何の勝負だよと自分で自分に突っ込みを入れつつ、ハッと気づけば皇子と二人きりだった。
私の両親と皇妃様で何か会話がされていたと思うのだけれど、意味のわからない事を考えてしまうくらいボーっとしていた為、私は勿論訊いていなかった。
――えっ、こんな美の最上位にいるような生き物と二人にしないで!
いつの間にか二人という緊張どころか魂抜けそうな状態にされたせいで挙動不審になる私の隣に、皇子が自然な仕草でスッと座った。
(――えっ?)
「サフィって呼んでもいいよね? 僕の事はクロードって呼んでね。」
「サフィの瞳は金色なんだね、僕と一緒の色だ…おそろいだね僕たち。」
対面式だった筈なのに、いつの間にかぴったりと隣に座っていた皇子。
少しでも距離を取ろうと、皇子とは反対側へと身体が反る。
その動きを皇子はチラリと確認して、邪気のない天使のようににっこりと微笑んだ。
そして私の瞳をじぃーっと見つめると、
「魔力の煌めきっていってね、瞳が魔力の色にキラキラと輝くのは知ってる?」
と訊いてきた。
初めて訊く言葉に「い、いいえ……」と少しどもりながら返答する。
「早い子では4歳くらいで瞳に現れる魔力持ちの特徴なんだ。大体は5歳くらいには皆現れる筈。
瞳の中にキラキラと魔力が反映されて輝くんだよ。…サフィの瞳には色んな色がキラキラしてるね?
これは…虹色…? 見たことない色だ。とても…とてもキレイだ。」
最後は囁くように綺麗だと言われ、顔が熱くなる。
今の私の顔は真っ赤になっているに違いない。
何か話さなければと焦って出た言葉は
「虹色ですか?」
とオウム返しのような返答。
「とても綺麗な色だね。ずっと見ていられるよ、サフィ」
瞳を覗きこむように皇子の綺麗な顔が近づく。
ひい。
近い近い近い!と脳内で叫びつつ、じっとする。
皇子が満足いくまで私の瞳を眺めると、ほう…っと吐息を漏らして離れた。
この皇子、初対面だというのにやけにグイグイと来る。
まだ6歳だというのに、将来は女ったらしに育つ予感しかしない。
王族だからそれは歓迎される事なのだろうけれど、一夫一妻制の国で産まれた前世を持つ私は、王族とは結婚したくないと思ってしまう。
寵を競い合うとか無理。
その後、皇子に手の甲に口づけされたり、頬をそっと撫でられたりして「本当に6歳!?」と微かな恐怖を感じたのだけれど、両親が戻ってきて顔見せは終了した。
もっと早く戻ってきて欲しかった。
公爵邸へと帰る道中、馬車の窓に映る景色を眺めながら、あと数年のうちにわんさか高位令嬢が誕生しますように。と、ぐったりしながら存在するか分からない神様に祈っていた。
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