第3話 婚約式の最大の楽しみはスイーツです。
――18歳の身で事故で死亡。
18年間生きたけれど、小説や漫画やアニメ、そしてゲームまで色んな恋物語に触れたけれど、本人は胸がキュンキュンするような初恋を経験した事も無く…
ヒロインになってプレイした乙女ゲームで、砂糖を吐くような台詞を吐く攻略対象キャラにキュンキュンする事もなく。
(アレ、私なんか枯れてない…?)
親も「あんたは恋する為の心の準備が人より時間が掛かるだけなんじゃないの。」
の言葉に納得した事もあって焦った事もなかったな。
小説も漫画もアニメも乙女ゲームも、恋愛関連の物語は楽しませて貰ったけれど、
だから「恋したい!」とはならなかったようだ。
一度も考えた事なかったし。周りに異性のいない環境も良くなかったかもだけど。
そういえば第一希望の大学に4月から入学する予定だった。
高校では平凡な毎日だったから、大学デビューしちゃう!? なんて、ちょっと考えていたりしたのに…
――考えていただけで、する確率はかなり低めだったのは想像に難くない。
前世の私は、家ではテレビや漫画で大爆笑したり、だらしない格好でゴロゴロしたり、気楽が1番と過ごし、
家族から「いい加減寝させてくれ」と言われる程に姦しくお喋りな性格だった。
ガサツで騒がしくウチには兄が二人居ると妹に言われた私も、一応は女子的な趣味を持ち、スイーツ作りに精を出したり可愛い小物作成して簡単に作れるシュシュなどやアクセサリーを妹にプレゼントしたりしていたのに。
そこは加味せず「兄二人」って何だよもう。
読んで字の如く「内弁慶」なるものが邪魔をして、外ではおとなしく内気な女の子だった。
男友達なんて居た事ない。だって女子校だったし。
幼馴染も全員女子。
若い異性なんて兄くらいだし、家族枠だし。
その癖、漫画やアニメは勿論ラノベや乙女ゲームまで手を出して、家から出る事ない趣味ばかり充実させていた。
うん。色々拗らせた前世だったように思う。
外に居る私は、装っているつもりは無かったが、まるでそれが素の様に自然とそんな風にしか振る舞えなかった。
とまぁ…私の前世はいいとして。
何が言いたいのかと言うと・・・
私には異性に対する対人スキル皆無だと言うこと。コレに尽きる。
正直、前日の皇子の積極性もちょっと受け入れられなかった。
ましてあのご尊顔。無理。
あのご尊顔にも、緊張はするけどキュンキュンしない所を見ると、私の準備はまだ掛かるらしい。
それに、国の頂点の権力を有する覇者の血がそうさせるのか、拒否出来ない様な圧を感じて、拒否も出来ずされるがままになってしまった。
ああいう空気出すタイプと結婚とか無理だわ……
家庭内平和が1番だし、旦那は前世の父のように母に尻に敷かれるタイプがいい。
前世の父は、自分に言い聞かせてるのか何なのか「母親が強い家庭は円満なんだよ。」と言っていた。
私は皇子の年齢は把握している、6歳である。という事は、相手は幼児である。
幼稚園の年長さんの男の子相手に、前世の年齢足したら23歳の私が意識させられるって何なんだ。
幼児だと思って幼稚園児に接するように優しいお姉さん態度で接して行こうにも、相手があのとんでもない皇子じゃ幼児フィルター仕事してないし。
前世には絶対存在していないような美形で、この美形比率多めのこの世界ですら頂点極めてそうな相手だ。
フィルターも許容レベルがあるのかもしれない。
人が最期に縋り付くのは神頼みということで、翌日の婚約式に嵐でも来ないかと、跪いて祈ってみたりもした。
割と真剣に。
残念なことに、前世から信仰心は無い。
占いだって統計学だと思ってる節がある捻くれぶり。
なのに朝のニュースの占いに、朝からの気分が数時間が左右されたりするタイプ。
神様からしても、きっと可愛げがないタイプ。
けれど、全く別世界に産まれ、異世界転生王道のチートもあるにはあるから、
神様って居るのかも?なんて思ったのに。
「私、もしかして神様の愛し子だったりしてー、いやーん」
などと、こっそり心の中で考えたのがバレたのだろうか。
むしろ神は皇子の味方だったのかもしれない。
だって、雲ひとつ無い快晴だった。
(神様が作ったようなあの美貌には曇り空は似合わないってね…)
カボチャとして乗り切った後は、幼い二人の婚約式という事もあり、紹介後は大人達の歓談の場になった。
この場には貴族だけではなく、大商会を経営するような裕福な平民も招待されていると父様が母様に話しているのを晩餐の席で聞いた。
皇族と公爵家の婚約式には大物しか招待されない。
有益になる様々な情報交換もされるのだろう。
開催された場所も前日顔見せの時に来た庭園という事もあり、甘い花の香りがほのかに漂っている。
幼い二人の婚約式だったけれど、その婚約という意味を本当に分かってるのは大人だけかもしれない。それと精神年齢高めの私。
皇子や私と似た年齢の令嬢令息は、殆ど婚約は結んでいない。
平均的に10歳前後で結ぶらしいから、5~6歳の私達は早すぎるのだろう。
早すぎる理由は、高位令嬢で魔力の器が大きい私を早期に確保する為だし。
幼い令嬢達に群がられてキャアキャア言われてる皇子を放置して、私はガーデンテーブルに並べられたたくさんのスイーツをモグモグしよう。
エクレアにマカロンに苺タルト…スイーツだけでも、目を楽しませる程に色彩豊かに二十種類以上がズラリと並んでいる。
これだけスイーツが並ぶなら、アフタヌーンティーっぽく装飾が凝った三段くらいのケーキスタンドをいくつか設置して高い位置のスイーツと低い位置のスイーツでテーブルを飾りたいなぁ…と思う。
日頃お茶する時にも出てきた事がないし、皇族と公爵家の婚約式でも使用されてない所を見るとこの世界にはスイーツを飾るような物はないのかもしれない。
他国はどうか分からないから何ともいえないか。
領地で懇意にしてる鍛冶屋に作らせようかな。
木工細工専門の大工さんにも手伝って貰ったら色々出来そう。
サフィリーンは、先程までは色とりどりのケーキをキラキラした瞳で選んでいた筈なのに、ギラギラとした捕食者のような顔つきになった後、魂が抜けたかのような顔になってポヘーっした表情で思案していた。
前世の顔立ちだったら馬鹿っぽい表情も、今の顔立ちなら夢見る美幼女である。
ある程度の構想が固まった所で、よしっと意識を目の前のスイーツ達に戻す。
軽めなのから行く方がたくさん食べれる気がする。
いやでも今は幼児…胃袋はどんな甘味アタックにも負けないだろう。
いやでも量となると――如何せん幼児の胃袋だ駄目だろう。
うーんうーんと考える時間が勿体なく思って、自分の中で1番好きな苺タルトを1番最初に食べる事にした。
赤くて艷やかな大きな苺がたっぷりと使用されており、中のカスタードクリームが濃厚で……
……皇族が振る舞うスイーツは絶品である。
やっぱり資金潤沢な大国を治める皇族なだけあって、素材から違うのかもしれない。
お抱えのパティシエだって最高峰の人材であろう。
うちの公爵家でもこんな美味しい苺食べたことないもの!
きっと皇族に1番良いのを卸した後、残りが回ってくるに違いない。
だって…前世ですらもこんな美味しい苺タルト食べたことないし!
ああ、何て幸せ!
噛むとジュワっと出てくる果汁はとても甘い。
苺の甘酸っぱい香りも口の中いっぱいに広がって最高!
いつまででも、何個でも延々と食べられそうなくらいだけど、
苺タルトの横におとなしく並んで待っている子達がね……
隣の黄金色のプレートに並べられたピンクのマカロンちゃんが「私も食べて♡」って囁いているから、マカロンちゃんとエクレアくんを食べてから、また苺タルト様に戻ってこよう。
うんうん頷きつつ、口の中の幸せを噛み締める。
はぁ……っ。しあわせぇえ。
たくさんのスイーツを瞳をキラキラさせながら眺め、大切そうに皿に乗せて幸せいっぱいです!な顔で食べるサフィリーンを、クロード皇子がずっと見つめていた。
可憐な美幼女がスイーツに夢中な姿を、周りの大人達も笑み崩れながらチラチラ見ている。
勿論スイーツに夢中な為、見つめられている本人は気付いていない。
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