第11話
アルブラード家、リヤンの部屋──
最初見た時、彼は恐ろしかった。
無礼を働けば、すぐに殺される。そんな凄みがあった。
彼は自信を悪魔の王と言った。
本当にその通りだと思う。
黒の眼球から覗く血の瞳。
黒衣に褐色の肌。
まさしく悪魔の王だ。
だけど、何故だろう?
最近はとても優しい。
悪魔でこんなことがあるのだろうか?
いいや、ないだろう。でも彼は特別なのだと思う。
まるで人間のような思想。そして優しさ。
特に私にはとても良くしてくれる。お父様は彼のことを表向きでは養子とすると言っていた。
私は彼がこの屋敷に住むと知り、恐ろしかった。
でも今は、とても安心する。
彼のことを最近は兄と呼んでいるほどだ。
魅了の類ではない。
私が心から兄と呼んでいた。
そう。
今私は彼の膝の上に居る。
本当に悪魔なんだろうか?人間と同じような肌の感触。温もり。
「お
今、お義兄様の世界の話を聞かせてもらっている。
オーガを退治する騎士の話だ。
それが面白いことにフェンリルと金猿とフェニックスを引き連れて行ったらしい。
神獣を連れて行くほどだから、オーガ程度だったら楽に勝ってしまうだろう。
その他にもブラッドベアーと人間が体術で戦う話や、海の城に行く漁師の話。
どれも聞いたことが無く、とても面白かった。
「さぁ、これでお終い。もう寝なさい」
「えぇ、もうですか?」
まだ眠くはない。
もう少し聞かせてほしい。
それに、私には兄妹がいなかったから、もう少し甘えていたい。
「早く寝ないとお父上に叱られるよ」
彼は優しい声で言う。
初めて会った時とは比べ物にならないほどの優しい声。
その優しい声で彼は語り掛ける。
「エリス」
「は、い……」
何でだろう?
意識がぶれる。瞼が重い。まだ寝たくないのに。
つい先ほどまで感じなかった眠気が、急に……
「今日は俺の退屈しのぎに付き合ってくれてありがとう。もう、眠りなさい」
「ぁ……」
瞼。閉じてしまう。
彼の優し声が子守唄のように、頭に響いて。
「安心しろ。お前は殺さないと決めた。
故に俺はお前の味方だ。お父上とは、悪魔の契約を結んでいるし、今のところ、ここは平和だろう。だから、安心して眠りなさい」
囁く声が私の眠気をどんどん誘う。
彼は私の体をさすりながら。
「悪夢ではなく、いい夢を」
そう言って私のおでこに触れる。
悪魔なのに不思議なほど暖かい。
そして私のおでこに何か魔法陣を書いていた。
「え……」
「お
「おま……じない……」
そうして私はベッドに移され、目を閉じる。
明日も続きを聞かせてくれることを願って。
♰
悪魔王の神器。
それを一振りするとあらゆるものを焼き尽くす赤色の雷が広範囲にわたって放出される最強の武器。
鎌の一振りで放出される雷は相手を燃やし斬るだけの性能だが、神器開放による攻撃は天空からの赤雷。
それは勇者の聖剣も凌ぐとされる威力とされ、国一つを焼き尽くすほどの威力だ。
それを持っている悪魔王は、この世界で間違いなく最強の存在と言えよう──
♰
エリスが寝息を立てて、深く眠ったのを確認した。
そうしてリヤンは椅子を立つ。
窓から見る月明かりはまさに極上だった。
悪魔らしいいい夜だ。
リヤンは指をパチンと鳴らす。
そうすると、床に火で構築された魔法陣が浮かび上がる。
なるべくエリスを起こさぬよう、静かに。
暗い部屋の中でその火は人型の形を作り出す。
藍色の髪に、褐色の肌。
山羊のような角を持ち、ところどころ露出度が高い黒い服を着た女。
人間から見れば、まだ十代後半の綺麗な女の子という感じに見えるだろう。
実際彼もそう思った。
人間であった頃ならば、間違いなく欲情していたようなその風貌。
まさに今回言い渡す命令を遂行するのにピッタリであった。
彼女の名はベル。
古代の悪魔であり、人間と肉体の何処かで交われば、魂を抜き取る。男にとっては恐ろしい悪魔だ。
「お呼びでしょうか、悪魔王様」
ベルはパッチリとした大きな目でリヤンを見る。
やはり綺麗な顔ではある。
そして何より悪魔らしい思想ではないのが、こいつの特徴だ。
「この家のライバル、ゼルダス家の当主を殺せ。そいつの魂はお前にくれてやる」
「御意」
そう言うと彼女は闇夜に消えていく。
真面目で一番忠誠心がある悪魔だ。
ちゃんと命令は遂行するだろう。
そして思う。そろそろ脅威となる者をあぶり出し、さっさと魂を回収しなくてはならないと。
「君の復活のために」
この世で人間として生を受けたのにも関わらず、人間として生きれなかった君。
──必ず生き返らせる。
そう心に決めて、今日も月を見る。
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