第6話
カイニス王国、璧門──
今日も衛兵は門の警備をしている。
爽やかな風の中、大きな国なだけあって、人の通りも多い。
そんな中、犯罪者が通らないように魔石で観察して通りを守る。
それが俺の仕事。
交代まであと少しだ。
彼は人の往来を見ていると、何かものすごく綺麗な顔立ちの男を見つけた。
オレンジの髪。
緑の瞳。
そして透き通るような白い肌。
一瞬女と見間違うほどの美しい青年だった。
「おっと魔石魔石」
たとえこんなにも美しい者でも犯罪者であれば通らせるわけにはいかない。
それは男の責務であり、義務であった。
そうして男はその青年に魔石を合わせる。
青色に光れば通しても良い。
赤色に光れば犯罪者。
そして紫色は……
──え?
男は驚く。
こんな色は伝承でしか見たことが無かった。
その色は紫。
きわめて危険。
それを示す色だった。
男は足が震える。
過去に紫だった者は国一つを潰したと伝承にある。
まさかそんな存在が今目の前に居るとは。
恐怖で体が委縮する。
どうすれば……
だが──
「おい!止まれ」
剣を構えてその青年に言う。
通らせるわけにはいかない。
この命に代えてでも。
絶対に。
男はその青年を見る。
あの綺麗な顔からは想像できない。
この青年が国を滅ぼせる存在だなんて。
「何か?」
爽やかな笑顔をこちらに向ける。
その笑顔がまた恐ろしい。
「お前を通らせるわけにっ!」
そう言った瞬間だった。
さっきまで地上に居たのに、今は空中に浮いている。
どういうことだ?
分からない。
そして天地が逆さまだ
そして頭の上に手の感触がある。
ん?
あれは、俺の体?
下に鎧を着た俺の顔に似ている男が見える。
その男は倒れていた。
死んだように。
「ああ、気づかなければよかったのに」
近くでそう聞こえる。
冷たい声。
冷気のように寒い。
俺は上を見上げる。
不気味な笑顔。
先程の爽やかさは消えていた。
緑の瞳は血のように赤くなり、こちらを見る。
その様を見て俺は思った。
──ああ、これが悪魔だ。
伝承に伝わる存在。
人の魂を抜き取り食す生き物。
彼はまさにそんな存在なんだろう。
──じゃあ、下に転がるのは
俺の死体だ。
魂を抜き取られてしまって、空っぽになった俺の死体。
もう俺は死んだのだろう。
「罪人よ、さようなら」
彼がそう言うと俺の
そうして悪魔はその魂を食した。
♰
〇月〇日、朝──
壁門側にて、衛兵の死体が発見された。
その死体には目立った外傷は無く、まったくの無傷。
殺害方法は不明。
解剖でも心臓などに何かあったわけでも無い。
そのことから人による犯行と断定。
ただいま騎士団が犯人特定のための捜査をしているが、いまだに分からず。
犯人の容姿もあれだけ人の往来があった中、見た者はいない。
──それが、悪魔王の仕業と知らずに。
♰
先程、衛兵にバレた。
どういうことかと思ったが、あの魔石に秘密があるらしい。
だから 凡人には見えない速度で魂をさらった。
今、門の付近は突如衛兵が倒れたため、騒ぎになっている。
今がこの国に入る好機だろう。
リヤンは足を進めた。
門をくぐり、壁内へ入る。
なるほど、活気のある街だ。
一応この国に来てまともな街を見ることになるのだが、なかなか面白い。
前世の時に、ゲームで見たような景色だ。
少し感動を覚えるな。
まぁ、悪魔となった今、この程度で心変わりなどしないが。
ここ最近で分かった。
悪魔は心が悪なわけじゃない。
ちゃんと良心はある。
だが、一度決めたことは遂行するという本能が働いている。
だから契約によって殺すし、自分で決めたことでも助けたり殺したりする。
そして思考はワンパターンだ。
難しいことは気にしないタイプって言った方がいいだろうか。
そう言う感じの思考で俺としてはわかりやすいし、扱いやすい。
だがそれ故潜入には不向きだ。
すぐにバレる可能性が高い。
だから俺自ら人間の世界になじもうとする。
そうすれば、こっちで情報が入りやすいだろう。
あとは、どうやって寝床を探すか。
宿では駄目だ。
やはり情報を集めて協力者を得るしかない。
「おい、そこのお前」
突如呼びかけられたので俺は振り返る。
金髪の女。
俺と同年代か?
まぁ、実際はそんな年齢に見えるだけで二百年以上生きているのだが。
俺を呼び止めたのは若い女だった。
ああ、その強気な顔。
あの女を思い出す。
古武道で俺をボコボコにしたあの女を。
「この辺りで怪しい者を見なかったか?」
顔をこっちに近づけて女はそう言う。
たぶんあの衛兵を殺した俺を探しているのだろう。
あいつが殺しによって死んだってよく分かったな。
感心する。
だが犯人は俺なのだから言うはずが無い。
俺はなるべく自然な笑顔で言う。
「いえ、見てませんよ」
「そうか」
女はそう言うと、すまないとだけ言って去って行った。
忌々しいあの女に似た顔なのは驚いた。
頭の中で忘れかけていた記憶が蘇る。
『お前は頑張れば私より強くなるよ』
はぁ。
こんなところでこんな言葉を思い出すとはな。
前世の記憶はあまりいい事が無いから俺は思い出さないようにしているのになぜだかあの女のことを忘れられない。
「最悪だ」
聞こえないくらいの声でたった一言呟いて、俺は路地裏の中に入って行った。
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