第4話

 少年が息を引き取った後、龍之介は涙をぬぐった。

 そしてこの決意を胸に刻み、ただ一言呟いた。


 「来い。我が配下共」


 この地下迷宮の工房に何紋もの星の魔法陣が浮かび上がる。

 一気に火柱が上がり、下位悪魔レッサーデーモン上位悪魔アークデーモン、そして直属の配下であるクロスとベルが現れた。


 「お呼びでございますか」


 クロスがこちらにご命令を龍之介に言う。

 龍之介。いや、もう違う。

 この身、この心はもはや人間であった龍之介ではなくなった。

 悪魔として、悪魔王としての名を決めよう。

 そうだ。

 フランス語で無という意味のリヤンと名乗ろう。

 俺は今日から悪魔王リヤンだ。

 

 「この国の人間共を皆殺しにしろ。そして魂を俺のもとに集めてこい」


 「御意」


 俺がそう言うと、古代の悪魔である、クロスとベルが飛んで行く。

 それに続いて、大勢の悪魔達が飛んで行った。

 今、外では大勢の悪魔に襲われているのだろう。

 いい気味だ。

 

 リヤンは少年のもとに近寄る。

 ああ、君は幸せそうに眠っているね。

 大丈夫。

 君を苦しめた人間共は俺が皆殺しにしてあげるからね。

 絶対に許しはしない。

 この少年は死ぬべきでは無かった。  

 リヤンは少年の遺体を抱いて城のてっぺんまで飛んで行く。

 

 ほら見てごらん。

 これが空だよ。

 とても青いでしょ。

 君もいづれ見ることが出来るよ。

 俺が生き返らせてあげるからね。

 

 そして──


 この国の人間共の命を持って今生き返らせてあげるよ。

 

 両手を広げて高らかに言う。

 悪魔によって惨殺されていく様を見つめながら。


 「人間共、貴様らが供物として捧ぐ事によって、今必要とされる聖者は生き返る」


 さぁ、喜べ。

 聖者の生贄となることを。


 人々の悲鳴。

 肉を切り裂く音。

 悪魔の雄叫び。

 

 ああ──


 なんとも心地のいい。

 いい悲鳴だ。


 さぁ、もっと聞かせろ。

 そして魂を俺によこせ。

 

 多くの悪魔が人間を食い殺す。

 そして街を焼いて行った。

 ほぼ全ての人間共を殺し尽くした。

 

 「はははははは!!」


 俺は笑いながら思い出す。

 悪魔神が言ったことを。


 ──悪魔らしく行こうぜ。


 ふふ。

 そうだな。

 悪魔らしく行こうか。


 俺は唱える。


 ──すべての命。


 ──それは我が悪魔のために。


 ──そして、我が友のために。


 ──今その命は聖者に捧げられる。


 「ソウルイーター」


 そう言うと暗雲が立ち込め、落雷が起こる。

 そして黒い結界が国中を包み込んだ。

 まるで何かの誕生を予言する繭のように。

 人の魂を包み込む掌。

 それは一点に集められる。

 悪魔王の頭上に塊となって落ちていく。


 そしてリヤンは手を上にかざし、それを手に取った。

 黒い球体となっている二十万はあろう魂。

 それを体の中に取り込んだ。

 

 ──クソ。


 俺はその``結果``にがっかりする。

 するとクロスとベルが後ろに降りて跪いて言った。。


 「恐れながら申し上げます。悪魔王様」


 「なんだ」


 「この国の住民を全員殺して魂をかき集めましたが、これではその方を生き返らせるほどの魂は集まりません」


 「そうだな。

 俺も今悟った」


 二十万程度では全く足りない。

 そうだな。

 こんな醜い人間共の魂二十万ではこの聖者の魂の一割にも満たないであろう。

 ならば他から集めてやる。

 

 「クロス、ベル」


 「はっ!」


 「ここにダンジョンを作るぞ。誰にも破れないようなダンジョンを。

 そしてそこを拠点として、魂を集めるぞ」


 いいなと冷たい口調で言う。

 その言葉にクロスとベルも悪魔でありながら恐怖を抱かざるを得なかった。

 まさに悪魔の王。

 そう呼ばずにはいられないほど彼は悪魔になっていた。

 心だけではない。

 身体的にもだ。

 蝙蝠のような翼が生え、眼球も白い部分が黒になっている。その黒い眼球に深紅の瞳は悪魔そのものだった。


 「御意」


 「仰せのままに」


 深々と平伏する。

 もはや人間ではなくなった彼に。

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