第2話
魔界。
俺が今いる場所だ。
俺はあの後悪魔神に魂を作り変えられた。
そして悪魔になったわけだが、ずいぶん容姿が変わっている。
黒髪は変わらないが褐色の肌に深紅の眼。
そして服装も制服を着ていたが色々変えさせられた。
これじゃあ威厳が無いからだそうだ。
今の服装はアラジンみたいなズボンに、上半身は裸。
そして黒い
そしてここ。
暗い場所で誰もいないと思ったが、割と悪魔どもが居やがる。
ヤギの頭をした
こいつは意志は通ずるが話が出来ない。
そして俺の行く先々で跪く人型の悪魔。
ただしヤギみたいな角が生えている。
名を
こいつらは言葉を発することが出来るから助かる。
なんでも命令することが出来た。
まぁ、あんまり命令することは無いが。
そして俺に直属として使えている古代の悪魔二人。
もちろん名はある。
男の方がクロス。
女の方がベルだ。
こいつらは使える悪魔だ。
それにとても強い。
たぶんこの魔界じゃ一番だろう。
なぜ俺がこんなところにまだ居て、異世界に行っていないのかと言うと。
悪魔が向こうに行くには条件があるらしい。
その条件は供物による召喚だ。
その供物は人間の魂。
それが無ければ召喚されないらしい。
悪魔神の話ではあそこの人間は強欲だからすぐに召喚されるだろうって言ってたが、まったく呼ばれない。
クロスやベルが言うには悪魔王を呼ぶほどの供物は軍隊一つの魂でギリギリらしい。
「あの野郎。でたらめ言いやがって」
全然召喚されず、この何もない魔界に居るのはストレスが溜まる。
実に暇だ。
そう思いながら、俺が寝ているところだった。
あの不気味な悪魔神が起こしてきた。
『おい!イセフジ。おい、起きろ』
「あぁ!なんだよ!」
周りの悪魔どもは平伏している。
そりゃそうだ。
悪魔神と悪魔王が両方居るんだからな。
俺は悪魔神を見ると、あの笑顔でこっちに話しかけて来た。
正直気味が悪いから笑わないでほしい。
『もうすぐお前が召喚されるぞ』
「やっとか」
俺は起き上がって少し伸びをする。
ずいぶん待った。
悪魔の時間の感覚は人間とは違うっていうから二百年程だろうか?
とにかく待たされた。
『お前が望めばここに居る悪魔もお前のもとに行くことが出来る』
「ああ、あんがとよ」
一応は第二の人生をくれた奴だ。
礼を言っておく。
『礼なんざ言うんじゃねぇ。もっと悪魔らしく行こうぜ』
また気持ち悪い笑顔で話しかける。
悪魔らしくか。
まぁ、悪魔なんだから適応しなきゃダメだよな。
「分かったよ」
そう言うと、悪魔神が指をパチンと鳴らす。
すると足元に火で出来た星の魔法陣が浮かび上がった。
『じゃあせいぜい俺を楽しませろよ』
「あんまり楽しくねぇかもしんねぇぞ」
『その時はその時だ。
だがお前だ。
絶対楽しいことになる」
「あぁはいはい」
そうして、俺の体を火が覆った。
全然熱くない。
むしろ冷たい火。
なんか不自然で気持ち悪いな。
『じゃあな』
悪魔神がそう言うと、俺を覆っていた火は火柱となって天に伸びる。
そして俺は異世界へと召喚された。
♰
──そして、ほんの一時だけ時は進む。
とある洞窟の実験室にて、大量のホムンクルスの魂が悪魔召喚へと用いられた。
その数、数百。
召喚の触媒としては十分だった。
だが、そのホムンクルスを作るうえで、オリジナルの素体となった少年。
まるで聖者が如きその少年の命も終わろうとしていた。
変わらない天上の下で。
変わらない
数多のケーブルの元で。
錬金術学を生業とする科学者によって。
──彼の願いを悪魔に託して。
♰
レンゲルス王国、地下迷宮の大規模魔術工房──
入り組んだ工房だった。
百を超えるであろう魔術師がここで日々錬金術を研究している。
ここは秘密を守るために作り上げた``守護``の要塞であり、たとえダンジョン攻略のプロである冒険者でも攻略は困難。
各種結界の解除を行おうとすれば、魔術による罠が対象を焼き尽くす。
堅牢にして強固な迷宮だ。
この研究に際してこの国の王族が選択した戦略を体現した迷宮要塞だ。
すべてはこの瞬間のため。
最奥の空間に今、召喚に使用する供物が捧げられた。
ホムンクルス──
別名人造人間。
一つの人間からクローンを作り出す、錬金術学の最新たる研究の成果。
培養槽にによって培養される人の形をした人形。
たった今その人形の魂を使い、召喚を行った。
それによりこの国の悲願。
ここに悪魔召喚はなった。
「我が国の兵器となれ」
王冠を被りし男が言う。
その言葉には今までの苦労が積まれていた。
大いなる発展を遂げたレンゲルス王国はここ最近周辺諸国に遅れをとっていた。
名家として名を連ねていたが、最近現れた勇者の存在。
それにより戦は負け続け、領地は奪われていた。
事実、レンゲルスの名は失墜の一途を辿っている。
前まで同盟関係にあった国からも後進の王家と蔑まれ、支援も切られている。
断じて許されない。
許されぬそれだけは。
本来、レンゲルスは他の王家の台頭を許さぬほどの長さを誇っていた。
それをたかだか勇者の召喚に成功しただけの家系がこうも力を伸ばすとは。
「これ以上領地を占領されれば、レンゲルスの名は今こそ消えてしまう。
それだけはあってはならない」
今ここに居るホムンクルスの命を奪ってでも悪魔を召喚せねばならなかった。
たとえ無垢の人間を模した人形がどれほど死のうと意に介さない。
国が奪われることに比べれば、研究成果を投げ出すことなど何するものか。
家系は古き者こそ上位である。
今こそこの苦難を乗り越え、再興せねばならない。
耐えていかねば、戦わねばならない。
「今こそ勇者共から勝利の盃を納めるのだ。その時こそ我が御家の復興の足掛かりとなろう」
今こそ一族の大望を此処に果たし、レンゲルスはこの大陸で最高の家系であると知らしめねばならない。
今こそ誉と栄光を取り戻さねばならない。
王冠の男は続ける。
「故に告げる。
我らが儀式によって召喚された悪魔よ。
これほどの供物を捧げたのだ。さぞ強き者なのであろう。
ならば、今こそ我が兵器としてこの国を守れ」
一言一言に願いが込められ、王冠の男は言う──
しかし。
「ふざけやがって」
男は吐き捨てる。
なんとも冷たい眼つきに、冷気のような声。
黒衣に身を包みし青年の姿をした悪魔を。
従来の悪魔の姿と違い、
角が無く、眼が血のように赤い。
それは明らかにそれより上の存在であった。
「くだらねぇ。そして馬鹿みてぇだな」
言葉を放ち男は──
今ここに受肉した悪魔は考える。
やっぱり人間て言うのはウザったらしく。
惨めで、クズ野郎だな。
男は自分が召喚された場所を見て憤りを感じた。
なぜか同じ顔だが、何百といった少年が胸を切り裂かれた状態で置かれていた。
どうしても自分と重ねてしまう。
あの時何もできなかった自分と──
「貴様、俺を召喚するに際して、何百という者の命を踏みにじったな」
ある程度は聞いていたが、堪えられなかった。
悪魔の召喚に際して、生贄が使われるがゴミのように捨てられている惨状を見て龍之介は耐えられなかった。
そして、先程放った問いに王冠の男が答える。
「悪魔の召喚というのはそう言うものだ。
生贄は多ければ多いだけ強い者になる。だが安心しろここに居るのはホムンクルスだ。この時のために使用されし人形だ」
王冠の男は何とか説得しようとする。
だが目の前の悪魔の眼つきは変わらない。
「そうか……」
そう言われ、王冠の男は安心する。
やっとわかってくれたかと、これでこの国は権力を取り戻すと。
瞬間に悪魔の双眸が光り輝く。
殺意の視線が男に叩き込まれていた。
悪魔は右手に大きな鎌を持つと唱える。
「
同時に天井を、王冠の男の座す場所に、上空より放たれた赤雷が空間を抉り取り、男を灼いた。
瞬きの一瞬にも満たない光と炸裂音。
それにより、王冠を被る男は絶命した。
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