第1話 

 昔、ある幸せな家庭に子供が生まれる。

 名は伊勢藤龍之介。

 生まれは普通の家だった。

 虫すら殺すのを躊躇うような心優しい子供。 

 何不自由ない生活。

 勉強もそれなりに出来ていた。

 

 だが、何でだろうな。

 小学生の時にいじめられた。

 無垢な子供というものは怖いものだ。

 俺はいじめの対象になり、毎日のように殴られ、蹴られの暴力を受けた。

 まぁ、これに関しては恨んでいない。

 俺が弱かっただけだ。

 

 だがこの経験から、俺はただ絶対の暴力。

 逆らえば殺されるというような恐怖こそが、いじめの対象になることは無いという結論に至った。

 これは確かに効果があった。

 今まで反撃しなかったのにいきなり殴りかかり、噛みつき、足で顔面を蹴り下ろしたんだからな。


 だが、世間は残酷だった。

 周りから見たら、いじめられていたはずの俺は、逆にいじめているように見えたらしい。

 生徒を再起不能の状態にした俺は少年院にぶち込まれ、親は自殺。

 天涯孤独の身となった。

 だが、俺のその思想は間違いではない。

 今もなお、うざったいクソ野郎から身を守るためにもこのは使えている。

 

 「いたぞ!ぶち殺せ!!」


 まただ。

 この前この不良共の下っ端をしばらく動けないようにしたから、その報復だろう。

 

 「よくもやってくれたな。うちの者をよぉ」


 「そっちが喧嘩を売ってきただけだが」


 反論はする。

 まぁ、聞きゃしないと思うがな。


 「関係ねぇ!お前らこいつをぶっ殺せ!!」


 相手が三十人ほどで向かってくる。

 得物を持ってる奴もちらほら居る。対する俺は素手。

 しかも一人だ。

 かなり不利だろう。

 でも関係ない。全力でぶっ殺す。

 

 周りを囲んでバットやナイフで攻撃してくる。

 それを避けて、殴り。

 力を逸らしてまた蹴り上げる。

 なるべく人体急所を重点的に。

 アニメとかでよくあるが、一撃でやられることなんて全くない。

 実際は痛みで転がるだけだ。

 それを堪えて向かってくる奴だっている。

 だからなるべく狙うは急所だ。

 一撃でも貰ったらこっちの動きが鈍くなってやられる。

 そして向かってくる奴は転がる奴を盾にガードしてぶん殴る。

 この生活で培った知恵だ。

 

 「こいつやべぇ」


 「強すぎる」


 向こうもだいぶ戦意をなくしたか。

 だが、さすがに疲れて息が荒くなるな。


 一度かなり強い奴と戦ったことがある。

 そいつは女で古武道ってやつをやっていた。

 たかが喧嘩の真似事だろうと思ったが侮れない。

 的確に眼球や急所を狙ってくるさまざまな技の数々。

 俺は歯が立たなかった。

 だから俺は以来そいつの真似をした。

 そいつが通う道場へ行き、日々その動きを観察した。

 そして気づいたのは息を一定にすることだった。

 でなければ疲れていることなどを悟られてしまう。

 

 だから乱さないようにしていたが、この人数ではさすがに疲れた。

 だが痛みで転がり気絶している奴を除けばあと三人。

 もういける。

 

 そう思った時だった。

 忘れていた。

 たまに痛みを感じない奴が居ることを……

 いや、実際には感じてはいる。

 だが極度のアドレナリンの放出によって痛みが小さく感じているのだ。

 つまり簡単に言うとぶちギレている奴。

 そいつは俺が息を整えようとしている時に、バットを持って後ろに立っていた。

 俺も人間だ。

 気配なんかで気づけるほど超人じゃない。

 気づけば後ろから思い切り殴られていた。

 何度も何度も。

 頭がぐしゃぐしゃになるのを感じる。

 

 (ああ、死ぬのか)

 

 俺は死が安寧とは考えない。

 死は今までの人生を否定されるものだと思う。

 そうだ……

 俺はこの世が憎い。

 こいつらがちゃんと見ようとしなかったから、俺は……

 両親は死んだんだ。

 絶対に許さない。

 呪ってやる。

 未来永劫俺が呪い殺してやる。

 

 ──クソが。


                  ♰


 〇県○○市のとある空き地──


 一人の青年が頭部の損傷が大きい状態で見つかった。

 

 犯人は高校生の暴走族グループ。

 総勢三十名を逮捕した。


 被害者の青年は頭蓋骨が粉砕されていて死亡。

 

 遺族は両親もろとも他界しており、近しい親族もいない。

 

 そしてこの事件はマスコミによって大きく取り上げられたものの人々の記憶にはあまり残っていない。


                  ♰


 「ん?ここは」


 暗い場所。

 何もない。

 ただただ暗い。

 

 そうだ俺は死んだんだったか。


 思い出す。

 大きな後悔を残して死んだ。

 ああ、最悪だ。

 まだ死にたくはなかった。

 生きてクソ野郎共を殺してやりたかった。

 

 「俺にもっと力があれば」


 『ギヒヒヒ!』


 「な?」


 突如笑い声が聞こえる。

 不気味な笑い声。

 ここは地獄じゃないのか?

 

 『お前、気に入ったぞ』

 

 声が後ろで聞こえる。

 ドスのきいた声だ。

 例えるなら喉を肉叩きで叩いたような声だ。

 

 『まだ生きたいか?』


 生きたい?

 やっぱりおれは死んだのか。

 

 『もう一度言う。生きたいか?」


 返事をしなかったからか、もう一度聞いてきた。


 「生きたいと言ったところで生き返らせてでもくれるのか?」


 出来るはずもない。

 そんなことが出来れば誰も苦労しない。

 神様じゃないんだ。絶対に出来ない。


 幼いころ、死の後はまた生き返られると思っていた。

 というか、そう願いたかった。

 そうすれば、死んでもまた第二の人生を歩める。

 でもそんなことは無い。

 死んだら終わりだ。


 『出来る』

 

 え?


 「嘘を言うな」


 『嘘じゃない。出来る』


 出来る?

 俺がまた?

 だったら今度は


 『ただし悪魔になれ。そして違う世界へ行け』


 「悪魔に?」


 『そうだ』


 まだこいつの言ったことが本当とは限らない。

 そもそも信用に足る奴かもわからない。

 

 『まずは姿を見せよう。そうすれば信じるはずだ』


 俺の目の前に黒い人型の影が現れた。

 明らかに人ではない者に俺は驚いた。

 男か女かもわからない。

 ただただ黒い何かだった。

 そいつは俺に言う。


 『俺は悪魔神。

 すべての悪魔を統べる神だ。

 お前、俺の部下となれ』


 「部下?

 嫌だね。俺は誰にも支配されたくない」


 いつもクソ野郎にヘコヘコしていた。

 あの時代を思い出す。

 そんなのは二度とごめんだった。

 

 『安心しろ。

 お前を縛るような真似はしない。

 俺はただお前の行動を見ていたいだけだ。言うならば、暇つぶしだな』

 

 「俺がすることに対して何も邪魔をしないと?」

 

 『そうだ。

 どうだ?

 いい話だろう?

 お前は邪魔されずに人間を皆殺しにするも良し、ただ普通に生きるも良しだ』


 確かにいい話だ。

 人間から悪魔になるがそんなことはどうでもいい。

 俺はもう一度第二の人生を歩める。

 だが……


 「俺は悪魔になることで強さに変わりはあるのか?無いなら断る」


 俺がそう言うとその悪魔神はニッと笑う。

 黒い体に真っ白な歯を見せて。

 それはとても不気味だった。

 目の前に居るのは確かに悪魔だとという風に思えるだろう。


 『安心しろ。お前がなるのはただの悪魔じゃない』


 「ただの悪魔じゃない?」


 『そうだ。

 お前がなるのは悪魔の頂点、魔王よりも上の存在。

 名を悪魔王』


 「悪魔王?」


 『その存在はおそらくお前を送る異世界で最も強い存在となるだろう。

 これなら文句はあるまい』


 悪魔王。

 いい響きだ。

 それなら満足だ。


 「ふふふふ」


 俺は笑う。


 「はははははははは」


 思いっきり笑った。

 笑うのは何時ぶりだろうか。

 久しぶりの嬉しさからくる笑い。

 こんなにも気持ちのいいものだったのか。


 「いいぜ。

 なってやろう悪魔王に」


 そう言うと悪魔神は笑う。

 俺と同じように。


 『ギヒヒヒヒヒ!!

 やはり面白い奴だ!

 俺の人選は間違いではなかった』


 異世界にて現れる悪魔王。

 その存在によって世界は恐怖に包まれる。

 

 ──これはその誕生した悪魔王の物語。

                  

 俺は不良から悪魔の王に転生した 


                   

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