第28話 神様って、どこにいますかね
茨が地面から突き出したのを見て、野営地にいたものたちはざわめいた。
大きさは違えど、地面から天に向かって伸びる茨。
困ったことに、その先端には花に見立てたモノがついていた。
「あ、あきら、アレ」
ソレをみて、ヒロシはあきらの肩を掴んだ。信じられない光景を見た。
茨の先端に見えるのは、人影。
どっちが刺さっているのか?
考えなくてもわかる。わかるのだが、
「花に見立てたんだね。お母さん、なかなかやるなぁ」
あきらは別段何も驚いていなかった。それどころか、無表情にその光景を眺めている。
「あきら、そんなんでいいのかよ!」
ヒロシは焦った。友だちがおかしい。人を殺しているのを見て、こんなに反応がないだなんて……
「なに言ってるの?『この世界』に来て、最初に見たのはなに?今更驚かないでよ。やらなきゃやられるんだよ」
あきらは、こともなげにそう言うと、ヒロシの手を払い除けた。
「考えが甘いよ」
目の前にいるのは、友だちであって、友だちではなくなったあきらだった。
「キレイ」
黒い魔道士は、満足そうに眺めていた。
が、
「じゃあ、ね」
そう言って、指を鳴らすと茨からジュリエッタが落ちてきた。
落ちたはずみでジュリエッタの体が弾んだが、黒い魔道士はただそれを眺めている。
「なにが、起きたの?」
怯えた目でジュリエッタは黒い魔道士を見た。
生きている。傷はない。
だが、目の前にいる黒い魔道士は恐怖の対象だ。
「神に寄る蘇生魔法」
こともなげにそう言って、黒い魔道士は笑った。
ジュリエッタは、恐怖に目を見開いた。この黒い魔道士は、人の命を操る魔法を使う。それは、聖教国家にいる者たちでさえ使えない魔法だ。
自分の知らない魔法を2つも使った。
ジュリエッタは怯えるしか無かった。
何度死と生を行き来しただろうか?
あがらえないループに嵌められて、ジュリエッタはなすすべなく翻弄されていた。
黒い魔導士は、見たことも無いほど残忍な笑みを浮かべている。それにしても、自分は神の力を借りて魔法を使っているのではなかったか?なのに、なぜ?この魔導士は自分を上回る魔力を有しているのか?
朦朧とする意識のかな、ジュリエッタは三人の女神に悪態をついた。
役立たずでクズ。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
聖教国家の聖殿に、似つかわしくない声が響いた。
正殿にある神の御前に、茨が突如現れたのだ。
それには、赤い、花が咲いていた。
「すげー、でけーな」
地面から直接生える茨を見て、ヒロシは素直に驚いていた。
こんな太いのは、どこぞの神社の御神木ぐらいだと思う。
触ってみると、緑色をしている割にはざらついていて、木の幹を思わせる。
「いるな、アリア」
茨に触れると、お母さんはそう言った。
「アリア?」
ヒロシとこーたとヒロトは一斉に聞き返した。アリアと言えば、『鉄壁のアリア』だ。ゲームでかなり有名なデェフエンサー。
「さて、潜るか」
なんてことないような感じでそう言うと、お母さんはあっという間に地面に、潜ってしまった。ほんのわずかな土埃が、そこにお母さんが、いた事を思わせるだけだった。
「調書をしようか?」
呆然とする三人に、あきらが笑顔で鞭打った。
茨にそって地下へと潜る。
特に何かがみえるわけではない。茨からの魔力を感知しているだけだ。だかそれは、目でとらえるよりハッキリと感じ取れる確かなものだった。
近いな。と感じた時には、ちょっとした空間にたどり着いていた。
「茨の檻」
ちょっとした洞穴にしか見えない空間に、茨がひしめき合う場所があった。そこからが何より魔力が強かった。
何の躊躇いもなく、黒い魔導士はその茨に触れた。
「怖がらなくていい」
少し、茨が動いた気がする。
「アリア」
名前を呼ぶと、茨が道を開いた。
「…私の事、知ってる、の?」
消え入りそうな小さな声は、少女とも取れるほどに幼かった。
黒い魔導士は、内心首を捻った。ゲームで何度か見かけたアリアは、真っ白な髪に真っ白な肌。そして、真っ白なドレスを着た妖精のような乙女だった。そう、まったく自分と真逆なキャラだった。
はずなのだが?
「ええと?」
アリアの姿を確認して、困惑が激しくなった。
多分、なんだけど、見たことがある気がする。服装こそゲーム内で見たアリアの白いドレスなんだけど、それがどうにもブカブカで、座り込んでいるから白い布の中に少女が置かれているような状態になっている。
記念写真でも取れそうだよな。とか黒い魔導士は考えたけれど、やっぱり見たことがある少女の顔を見つめた。
茨の中で一人怯えた顔をしているのは、
「まさかだけど、川田ひかりちゃん?」
その見覚えのある顔の少女の名前を言ってみる。
「え、ええ?私のこと知ってるんですか?」
ブカブカの、ドレスから必死で立ち上がって、アリアが黒い魔導士の肩を掴んできた。上手く立ち上がれなかったのか、ドレスの裾を踏んだのか、半分倒れかかるような姿勢にはなっているけれど。
「…って、トーマくんのお母さん!」
黒い魔導士の顔を見て、アリアこと川田ひかりは見知った幼なじみの名前を口にした。
「え、、えと、えと…」
お母さんの、肩を掴んではいるけれど、幼なじみとはいえ、男子のお母さんともなれば接点が徐々に減るものだ。久しぶりにした会話がこれでは気恥しさが先に出た。
見るまに耳まで赤くして、ひかりは下をむいてしまった
「これは、まさかとは思うけど」
ここに来て、最大の味方となる転移者がまさかの少女で、お母さんは困惑した。
ああ、まて、仮定としては成立するかもしれない。そう思いつつも、こんなに雑な召喚とかまず無いわ。としか思えなかった。
やっぱり、この世界の神、やられてる。
ため息をついて、から口を開いた。
「トーマを見なかった?」
「見てません」
ひかりに即答されて、お母さんはガックリと肩を落とした。
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