第27話 本物の魔女とは何たるか教えます

 野営地に逃げてきた冒険者たちと、騎士団は、ただ空を眺めていた。


 2人の魔女が対峙して、空中に浮かんでいる。


「面白いでしょ、あの魔女はジュリエッタ。魔女狩りイベントのラスボス。不思議でしょ?魔女狩りしてるの誰だっけ?」

 あきらに言われて、ヒロシたちは顔を見合せた。

 あきらの言うイベントの意味が分からないけれど、騎士団は喉まででかかった言葉を寸前で飲み込む。また、冒険者たちも、目線で会話をするしかなかった。


「魔女狩りを推進してるのは、聖教国家、だよな?」


 苦々しい思いを思い出しながら、アルクはハッキリと口にした。

「探しに行く手間が省けちゃった」

 あきらが、珍しく楽しんでいる。

「本当に、イベントの時は苦労したんだよねぇ、国に潜り込んであの魔女探すの大変だったんだ」

 あきらは、その時のことを思い出して薄い笑いを浮かべていた。

「なかなか大した魔物と契約をしていたみたいだけど、お母さんが勝った。更に今回は、契約以上の力をお母さんは持っている」

 あきらは、お母さんの勝利を疑っていなかった。


「あのさ、お母さんの契約って、まさか……」

 言ってからこーたは後悔した。お母さんの契約は、ステータスボードに表示されるアレだ。

「出すの?」

「出すでしょ。出なきゃ意味ないじゃん」

 あきらがそう言うと、その場にいた全員が空を見た。

 黒い魔女が、高笑いをしながらクルクル回っているのが見えた。



 あははははははははは


「なんなの、こいつ」

 自分が出したキメラを見ても、怯えるどころか笑いだしたのだ。恐怖のせいで狂った様子もない。あの威嚇の笑い声から、目の前にいる魔女は手練だ。

「そうね、遊びましょう」

 そう言うと、黒い魔女から黒い何かが出てきた。それは、ジュリエッタが出したキメラより、遥かに巨大なドラゴンだった。



「あれ、何かなぁ」

 分かっちゃいるけど、分かりたくはない。

 聞いてはいたけれど、初めて見たので分かりにくかった。

 とにかくデカい。デカいのだ。

「ブラックドラゴン」

 あきらが澄まして答えるが、

「どーやってあんなのと、契約するんだよぉ!!」

 その場にいた全員がいっせいに突っ込んだ。

「言うこと聞くまでぶっ飛ばす」

 あきらの答えにすぐに全員が黙り込んだ。

 あのお母さんは、かなりめちゃくちゃだ。




「な、なんなの、いったい?」

 ジュリエッタは、驚愕に目を見開いた。

 いままで、そんなものと契約をした魔女はいない。知能が高い魔物ほど、より強い魔力をくれる。だが、それは危険なリスクを伴う。魔物と契約を交わし、体内に宿す。女にしかできない契約。だから、魔女。

 そんなものに食い尽くされないで契約を交わしただなんて、ジュリエッタには信じられなかった。自分は、聖教国家の力を借りて契約したのだ。アイツらの崇める神の力を借りて!それでもこいつが精一杯だったというのに!


「さぁ、遊びましょう」

 黒い魔女が赤い唇を歪めてそういった。

 それは、合図。

 魔女のパーティ。

 契約した魔物が自由を得て咆哮する。それは大地を揺らし、空気が振動する。ホウキにまたがり宙にいるジュリエッタでさえ、ソレに体が揺さぶられた。


「なんなのよ!」

 ジュリエッタは苛立った。いままで、自分が最強の魔女だった。聖教国家の連中も、本物の魔女が何たるかを知ると素直に黙った。奴らの崇める神も自分の魔力の前におとなしくなった。

 それなのにっ!

 なんなんだ?この魔女は?

「どうしてっドラゴンと契約できんのよっ」

 キメラが咆哮を上げ、ブラックドラゴンに突進する。だが、キメラの牙はブラックドラゴンにはとどかない。

 キメラが何度もいどむがブラックドラゴンには、効果がなかった。その爪がキメラの羽をもぎ取り、牙が肉を抉った。蛇のしっぽが毒を吐くが、ブラックドラゴンの鱗はそんな毒では効果がなかった。

「なんでっ!どうしてよっ!!」

 ホウキの上で、ジュリエッタは喚き散らした。だが、どうにもならない。

 魔女の証が落ちていく。


 いやあぁぁぁぁぁぁぁ


 ジュリエッタの悲鳴が響き渡る。

 赤土の大地に、ジュリエッタは落ちていった。魔女としての力。契約を交わした魔物が敗れたのだ。それは、ジュリエッタの魔女としての終わりを告げる。

「そんな」

 ジュリエッタは空を見上げた。そこにはブラックドラゴンと、黒い魔女が浮いていた。

 黒い魔女は、赤い唇を歪めて微笑むと、ブラックドラゴンを自分の体内に戻した。そうして、ゆっくりと、ジュリエッタの前に降りてきた。

「はじめまして、ジュリエッタ。元気そうで何より」

 意味のわからない挨拶。ジュリエッタは気がついた。この女は、自分を知っている。

「ふざけんじゃないわよ!」

 ジュリエッタは、とんがりボウシを投げ捨てると、巨大な火の玉を投げつけた。



「でけぇ魔物が消えたと思ったら、今度はデカい火の玉が出た」

 野営地から魔女の戦いを眺めていたヒロシは、尋常ではない大きさの火の玉を見て思わず叫んだ。さっきまでの魔物の争いとは違って、こちらに向かっている。気がした。が、

 その火の玉は、おかしな軌跡を描いて空に向かう。そうしてそれは、空中で弾け飛んだ。


「消えた」


 あのまま飛んできたら、ここにいる全員が死んでいただろう。

「ラスボスの第2形態だね」

 あきらが楽しそうだ。

「第2形態ってなんだよ」

 ヒロシは嫌な予感しかしなかった。どう考えても、まんまゲーム設定だ。

「魔女じゃなくなって、魔道士同士の一騎打ち」

「なんじゃそりゃあ!」

 ヒロシはもうついていけなかった。何がどうして、どうなっているのか?そういえば、聖教国家がどうのって、設定は?

「大丈夫、お母さんが勝つから」

「根拠は?」

「だって、ゲームで1度勝ってるから」

 それ、信じていいんですよね?




「なんなの?あんた、いったいなんなのよっ」

 ジュリエッタは、もうわけがわからなかった。魔女の契約で負け、いまは、魔法の攻撃も弾かれる。聖教国家の崇める神から力を貰っているのに、まったく歯が立たないなんて!そんなの信じられなかった。神の力からの魔法なのに!!


「みんなのお母さん」


 ふざけた答えだった。何を言っているんだ、こいつは?叩きつける魔法攻撃が、ことごとしく叩き落とされる。火も、水も、風も、何も通じない。見ればわかる。今目の前にいるのは、魔道士だ。魔女ではない。

 自分に合わせて相手も姿を変えてきたのだ。自分に合わせて!なんたる屈辱。

「私よりも強い魔道士がいるわけないのよっ!」

 神から授かった魔法が通じないなんて、信じられなかった。自分でやっていて、まったく実感がない。本当に、これは現実なのか?悪い夢を見ている気分だった。目の前の黒い魔道士は、本当にそこにいるのか?そんな疑念さえ湧いてくる。


「消えなさい!」


 ありったけの魔力を込めて風魔法を繰り出した。ズタズタに切り裂いてやる・・・と、剥き出しの殺意を乗せて。

 今度こそ、確実に、目の前の黒い魔道士を捉えた。勝つのは私だ。神を味方にした私は、無敵だ!

 が、

「な、に?」

 放った魔法が消えた。

 何かが阻害して、それにぶつかり消えたのだ。

 何かが立ちはだかっていた。

「知らないの?土魔法の壁だよ」

 黒い魔道士の声がした。壁の向こうから。


「土魔法?」


 そんな魔法は知らない。

 それを司る神を知らない。

 そんなもの、存在するなんて知らない。

 ジュリエッタは怒りに満ち溢れた目をして、突如出現した壁を破壊した。巨大な水球を発現させて、ぶつけたのだ。

 土の壁は、水球がぶつかると砕け散った。

「ふん、なんてことないじゃない」

 ジュリエッタは満足そうに笑った。

「茨の檻」

 黒い魔道士の声がして、ジュリエッタは逃げるまもなく茨に心臓を貫かれた。

「やっと、花が咲いたわ」

 黒い魔道士は、天に向かって伸びる茨に、赤い花が咲いたと満足に微笑んだ。

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