第25話 前に進む方法を全力で考えてみます
王妃アリアナは、考えていた。
以前から漠然とは思っていたが、聖教国家から来る僧侶やシスターは、どうして回復魔法が使えないのか?回復薬を作ったところで、薬も飲めない程の重症だったらどうするというのか?それなら弱い魔法しか使えなくても、冒険者の使う回復魔法の方が安全だと思う。
そう、思っていても口に出せなかった。そんなことを言えば魔女にされてしまう恐れがあったから、黙っていた。女子は難しいことを考えなくていい。難しいこと考えるのは男子に任せておけばいい。そう言い聞かされて育てられてきた。考える女子は魔女になるよ。
ばあやが、そう言って私を育てたから……
「いまさら、自分で考えるって、大変ね」
王宮の近くにある教会に来るだけで、沢山の護衛がついてきた。自分は教会にある書物を読んでみたいだけだったのに、侍女と騎士と大所帯で、一時は教会への一般人の立ち入りまで禁止したものだから、慌ててやめさせた。一番奥にある図書室に入るのだから、礼拝を辞めさせては行けない。
何冊か書物を読んでみたけれど、回復魔法が使えない理由についてはどこにも書かれていなかった。神父様曰く、信仰心に寄るもの。とのことだったが、だとしたらあなたが使えないのは如何なものか?と問いただしたい気持ちになっただけだった。
しかし、神父様はかけられる側の信仰心です。と付け加えてきた。信じないものは救わないようだ。
神父様の話を聴けば聴くほど、聖教国家の教えは信じられないものになっていく。神の導きが有料だったり、信者でないものは魔女だと決めつけたり、魔女は殺して構わないと、残酷だったり、気分がかなり悪くなった。
「あの黒い魔道士の方が、なんと慈悲深いことか」
思わず口に出てしまった。
対峙したときは、それは恐ろしかったけれど、慈愛に満ちたとても優しい人だった。それに比べて、教会の神父のなんと、腐ったことか。
「王妃様、あまりよからぬことは 」
側仕えの侍女にたしなめられた。この侍女もハルス公爵夫人の話は聞いているので、王妃の身を素直に案じているのが分かる。が、
「いまさら、どうしたらいいのかなんて、私にはむずかしい」
心が挫けそうだった。
あの黒い魔道士に、自分たちで答えを探せ。と言われたけれど、どうにも探せない。聖教国家が怖い。
「王妃様」
扉の向こうから声がした。
「何事ですか」
侍女が代わりに答える。
「発見があった。とのことで、王が発表を、行うとのこと」
「分かりました」
返事をすると、椅子から立ち上がった。
侍女たちが先回りをして、扉を開く。王妃の退出のため、両の扉が開いた。
伝令の騎士が頭を下げていた。
王妃らしく、まっすぐ前を見て、進んでゆく。途中礼拝堂を通ったが、広間には誰もいなかった。
教会を出ると、王宮のバルコニーが見えた。まだ王は出てきていない。急いで馬車に乗り、王宮に戻る。転移門を使って、王の側まで急いだ。
「遅くなりました」
ドレスの裾をつまんで礼をする。王は穏やかな目で王妃を見ると、その手を取った。
「お急ぎですのね」
王の笑顔は、いたずらっ子のそれだった。
バルコニーに出るための扉が開くと、光り輝く街並みが目に飛び込んでくる。広場には大勢の人が集まっていた。
誰もが、王の発言に耳を研ぎ澄ます。
「モリアナ公爵領にある不毛の大地に、突如として巨木が生えた」
王の言葉を聞いて、広場に集まった人々から感嘆の声が聞こえる。不毛の大地は、ただただ赤土の大地が広がる巨大な無人島で、生き物はひとつもない。魔物さえ住んでいない広大な土地なのだ。
そこに、木が生えた?
何事が起きるのだろうか?アリアナは自分の鼓動が早まるのを感じた。木が生えたということは、そこに生命が宿ったということだ。
「よって、ここに不毛の大地への探索者を募る。もちろん、騎士団も向かうが、冒険者たちからも募るものである」
怒号のような声が押し寄せてくる。
王命での探索者。給金が弾むのは分かりきっている。名誉を欲しがる冒険者たちは、その拳を天に掲げ名乗りをあげた。
「出立は明日の午後、第一陣から船に乗る。準備が整ったものから志願するといい」
王はそう言って、踵を返した。そうして、後ろに控える王妃の手を取り王宮の中に消えていった。
王の宣言を聞いた冒険者たちは、浮き足立った。不毛の大地に行けるのだ。まだ誰も攻略していない。木が生えたことにより、どんな生き物が産まれたのか?それは安全なのか?有害なのか?それを探索する。何かを発見すれば、それは全て金になる。名誉になる。
多くの冒険者が参加することはまずまちがいないだろう。
もちろん、モリアナ公爵領でも、不毛の大地への探索者を募集した。
ヒロシたちは、もちろん、お母さんから強制参加を言い渡された。だって、お母さんが行くから、助手としてパしらされるのだ。
「楽しみだなぁ」
支度をしていたら、なぜかアルクが紛れ込んでいた。
「なんで、あんたが一緒かなぁ」
ヒロシは面白くなかった。
お母さんの隣に、なぜかアルクが座っていて、1つのチームとして名簿に登録されていたのだ。
本当に、ヒロシは面白くなかった。
不毛の大地に着くまで、船で3日はかかる。
王宮のある王都からは1週間から十日はかかる。
だから、モリアナ公爵領からでる冒険者の方が有利だ。だが、その分危険でもある。
なにせ、何がいるのかまったくわからない状態なので、身の安全は自分で保証するしかないのだから。
普段の討伐依頼とは、全く勝手の違う仕事である。
ただ、成功報酬は破格ではあるけれど、
「お母さんは、生えている巨木ってなんだと思います?」
あきらは、ベッドに横になっているお母さんに聞いた。この、お母さんが横になっているベッドは、本来アルクのベッドであった。が、同じチームになった関係上、お母さんが堂々と使っているのである。
「巨木ってだけで、実がなってるとか、葉がはえているとか報告がないんだよね」
お母さんは、なにか心当たりがあるようだった。
「何か、わかってる?」
あきらは、お母さんの顔を覗き込んだ。
「予想は、している。ただ、見てみないとなんとも言えないんだよね」
お母さんは、なんだか楽しそうだった。
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