第24話 だから、どーしてそうなった?

 どうしたものかとなやんだが、上手に嘘が付けなかったので、3人を連れて邸にもどることにした。

 邸は、宮廷魔道士やら、なんやらが来て、図書館で大捜索をしている。そこに、キッズ3人が増えたところで大したことは無いだろう。



「ギルド長」

 黒い魔道士のお母さんたちが去った後、ギルドの中はざわついていた。

「なんだ?」

 ギルド長は、これからやる事の仕事量の多さにうんざりしていた。どれだけの書類を精査し直すのだろう?報酬の計算と、ジャックの口座の残高と……それだけで二日酔いが起きそうだった。

「先程の黒い魔道士ですが、」

「ああ、公爵様の邸にいるらしいな」

「……それが」

 職員が伝えた内容は、ギルド長の新しい二日酔いの元になった。


 ーー鑑定スキルでみたところ、ステータスが『ブラックドラゴン』でした。ーー


 その他は、何も見えなかったらしい。鑑定スキルを持つ冒険者からもその報告があったそうなので、間違いはないだろう。おそらく、それが魔女の契約と関係している。実際のところ、ギルドで魔道具の水晶を使ってはいるが、魔女がどうやって作っているかは誰も知らなかった。そもそも、魔女がどういうものかのかさえ、本当は知らない。

 仕方が無いので、ギルド長はこのことに蓋をすることにした。




 公爵の邸には、大勢の人がいたが、黒い魔道士のお母さんに案内されて行った中には、ほぼ人がいなかった。中庭の真ん中にテーブルがあり、そこにお姫様とあきらが座っていた。

「みんな、久しぶり」

 夏休み明けみたいな挨拶をして、あきらが立ち上がった。呑気にお姫様とお茶をしていたようだ。

「あきらーー」

 ヒロシがあきらに抱きついて、大泣きしている。先にそれをされると、こーたとヒロトは同じことが出来ないので、お互い顔を見合わせて笑うしか無かった。

 もちろん、嬉しいけれど自分たちのやらかしが原因なのでなんだか複雑な気分であることには違いなかった。


 新しいお茶菓子と一緒にアルクがやってきて、当たり前のようにテーブルについた。

 ヒロシはあきらがいることが嬉しすぎて、あきらの横から離れない。仕方が無いので、こーたとヒロトはお母さんの横に座った。

「お前たち3人はキッズタイムでしか遊んでいなかったから、『魔女狩り』のイベントは知らないんだろう?」

 お母さんが話す内容は、確かにヒロシたち3人には知らない話だった。

「『この世界』にある魔法が三大属性しかないのは知っているな?」

 言われて頷きつつ

「お母さんが最初にやったアレは、風属性なの?あの雷」

 ヒロシは素朴な疑問をぶつけた。ちょっとしたカードゲームとかなら雷属性とかあるけれど、『この世界』には三大属性しかないとなると、雷属性は存在しない。「違う。あれは神に寄った魔法だ。つまり、本来『この世界』には存在しない」

「存在しないしない魔法をどうやって使ったの?」

 ヒロトが聞いた。

「それが、『魔女狩り』のイベントからの発見だった」

 お母さんは、ちょっとしたお話を聞かせてくれた。


『魔女狩り』のイベントは、ハリス公爵の夫人と娘が聖教国家の行う魔女狩りに会うところからはじまるちょっとグロテスクなイベントだった。一応R15指定が入っていたが、課金者はちょっとしたチェック項目を答えればイベントに参加ができた。それ故にあきらは、トーマくんのお母さんと、トーマくんと一緒にイベントをこなしていたのだ。

 イベントを進め、あちこち探し回っているうちに、あることに気がついた。3人の女神の象が奇妙なことになっている事を。

 どこの教会行っても、ひとつの体に3人の顔が着いている。その顔の付き方がとても奇妙で、お寺で見る阿修羅神像と違い、首から顎にかけてのラインが不自然なのだ。そのことは『この世界』でも確認済みだ。


 そして、なぜ三大属性の魔法しかないのか?それは、この三人の女神がそれぞれ、火、水、風の力を持つ女神だからなのだが、なぜそうなった?そこが疑問だった。

 普通のゲームだったら4大属性か、光を入れた五大属性の魔法が存在するものなのだが、なぜ三大属性にしたのか?製作側がそんなに阿修羅神像好きか?そうなると仏教関連のテーマがどこかに潜んでいるはず。


 聖教国家の本山に忍び込み、その奥にあるダンジョンにヒントがあった。いわゆる壁画。そこには4人の精霊が描かれていたのだ。つまり、『この世界』に魔法が広がる前に精霊が1人消えた。残った3人の精霊が1人の神になった。だから、顔が3つついている。

 それが、仮説。



「実際はちょっと違う」

 お母さんは、座り直して、その場にいる全員の顔を見た。

「『この世界』には、真実の神が隠れている。だが、その名前を言ったところで誰の耳にも届かない」

 全員の顔色が変わった。

「実際、お前たちは私が唱える蘇生魔法が聞き取れていないだろう?」

 お母さんは、問いかけた。


 言われて、考える。


「確かに、聞き取れない部分があった」

 アルクが答えた。

 あの日、メイドの蘇生をした時、あんなに近くで聞いていたのに呪文が聞き取れなかった。

「お母さん、ギルドで呪文詠唱しなかったじゃん」

 ヒロシは不服そうに口をとがらせた。まだまだそういう所がキッズなのだろう。

「なぜなのでしょう?」

 セラスが問いかける。なぜ、神の名前を聞くことが出来ないのか?

「『この世界』が忘れてしまったから。私が答えだけを教えても解決にはならい。自分たちで知ることが大切なんだ」

「自分たちで知る」

 なかなか難しいかもしれない。

 何があるか分からないまま、探すのは想像しただけで気が遠くなる作業だろう。未知の生物を探す。未知のウィルスを探す。いるとはおもう、が、特定する方法が分からない。手探りで、『この世界の住人』が探し出さなくてはならない。


「本当の神の名前」

 アルクは天を仰いだ。

 精霊の姿だって見えないのに、名前の知らない神を探すのだ。大海に落とした針を探すようなもの。気が遠くなる。

「私たちが探し出さないと意味が無いのですね」

 セラスは一言一言に力を込めた。自分たちの責任において、真実の神を探し出す。なぜ、神が消えたのか?それをしなければ、いけない。

「長いこと、『この世界の住人』は本当の神の名前を忘れている。だが、探し出さなければ、『この世界』はこのままゆがみ続ける」

 お母さんは、ヒントは出した。あとは自分たちで頑張れ。と、いうスタンスを貫こうとしているようだ。


「それに、本当の神を復活させてくれないと、私たちが元の世界に戻れない」

「へ?」

「え?」

「なに、それ?」

 ヒロシたちは、物凄い本音を聞かされた。

「ぼくたち、なんで『この世界』に来たと思ってたの?」

 あきらがそう言うと、ヒロシたちは、顔を見合せた。


「え?異世界転生なんじゃ?」

「いつ死んだんだよ?こんなに大勢」

 お母さんに言われて、それもそうだ。と考え直す。

「転移だよ。異世界転移。 たぶん、お前たち私に巻き込まれて『この世界』にやってきた、と思う」

 お母さんは、ごめんなぁって顔をしていた。

「なんでっ?!」

 みんなで一斉に突っ込んだ。お母さんに巻き込まれた?

「理由は二つ。1つは私がこの世界の本当の神の名前にたどり着いたから。もうひとつは、『助けてお母さんシステム』のせいだな」

 全員、黙ってしまった。

 この説明から辿り着くのは、ただ一つ。

「えーっと、つまり、その……この世界の本当の神様が、『助けてお母さん』って、こと?」

「だな」


 そんなんでいいのか?


「キッズタイムでしか発動しないから」

 これが原因だった。

「えと、つまり、キッズタイムにしか発動しない『助けてお母さん』を使って、『この世界』の本当の神様がお母さんを呼び出した。その時たまたまログインしていたボクらが巻き込まれた?」

 ヒロトはそこそこ理解したようだ。

「だからって、なんで、神様探さなくちゃいけないんだよ!」

 ヒロシは、未だに、理解していないし、納得していない。

「お母さんが、神様連れてきてみんなの前で見せてあげればいいじゃん」

 そしたらすぐ解決!ってヒロシはドヤ顔で言ってきた。

「それじゃダメだって、言ってる」

 お母さんは、冷たくあしらった。

「なんでだよ!お母さん、神様の場所知ってるなら連れてきてくれればいいじゃん!」

 ヒロシは、めんどくさいことが嫌いだ。楽しいことが好きだ。

「連れてきたって、誰にも見えないよ」

 お母さんの返事に、ヒロシは意味がわからんという顔をした。

「お前さぁ、神様ってなんだと思ってる?そもそも、見たことある?」

「……ない。見たことなんか、あるわけない!」

 ヒロシは、何となく分かってしまった。でも、

「信じてなければ神様はいない。崇められなければ、神様は必要ない。そういうもんだ」


 困った時の神頼み。大抵の日本人はそんなもんだ。神様はいるとは思う。でも、毎日神様に祈りはしない。お参りだって、お正月にするぐらい。だから、結婚式は教会式にしちゃうし、お守りもあちこちの神社のを沢山持ってる。

「神様がいるよ。って、みんなに信じてもらわないとダメってことかよ」

「そう。神様の存在意義は信仰に寄る。だから『この世界の住人』が神様の存在を信じないとダメ」

「だいぶ難しいですよね。聖教国家があるし」

 あきらが至極真っ当な意見を述べた。この三人とお友達してるのが不思議だ。

「俺たちも、神様を信じられなかったら帰れない?」

 ヒロシが不安そうだ。いまさら、神様を信じて信仰深くとか生きられない。

「それは、大丈夫。帰る方法は神様に頼むしかないんだけど、やらせる自信はある」

 なんだかよく分からないけれど、お母さんは神様にお願いするのではなく、言うことをきかせるつもりのようだ。



「あの、魔道士様」

 おずおずとセラスが言った。

「どうして、魔道士様はお母さんなのでしょう?」

 結局、みんなが気になるところはそこだった。



「名前を、ね。深く考えないでつけたんだよ」

 お母さんは、完全に不貞腐れていた。そりゃそうだ。ステータスボードでは、ひた隠しにしているのに、話さなくてはならないのだ。名乗るほどのものではありません。は通用しない。

「名前を自分で考えて、ですか?」

 セラスは不思議がった。そりゃそうだ。名前を自分で付けるなんておかしなはなしなのだ。だけど、ゲームの設定だから。なんて言えるわけが無いし、言ったところで意味不明だ。

「……魔女だから」

 苦しい言い訳だ。

「そうなんですね!魔道士様は、魔女でもあるのですね!素晴らしいですわ」

 何故だかセラスは信じて感動してくれた。


 お母さんは、ゲームのプレイヤー名をお母さんで登録して遊んでいたのだ。お父さん、お母さん、トーマの3人で。そこにあきらが時々加わっていた。身内だけで遊んでいたから、お母さん。

 いまさら、どーにもならないのだ。

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