第22話 みんなまとめてお仕置します
「うーーん」
トーマくんのお母さんは考えこんでいた。
テーブルに地図を広げ、ピンを立ててみるが、情報が少ない。
「二組の情報でたどり着けるのが、ほぼ無理だと思うな、ボク」
あきらが言う。
これでゲームなら、ピコーんとか分かっちゃいそーなのだが、よく、考えたら、世界は広い。
「他にも聞きたい、だからといって蘇生しまくるわけにはいかんしなぁ」
かなり、物騒なことを言い出した。
「ギルドで死にかけの冒険者とかいないかなぁ」
だめだ、トーマくんのお母さんは、だいぶ思想が危険になってきている。あきらも手詰まり感は感じているが、トーマくんのお母さんが、いわゆる臨死体験した人から話を聞きたがる理由が分からなかった。
「なんで、死んだ時のこと聞きたいんですか?」
「ん?死んだら神様のとこに呼ばれるでしょ?よく、三途の川とか、お花畑とかいうじゃん」
「はぁ」
あきらには、まだちょっとわからない。
「ーーーっと」
急にトーマくんのお母さんがどこかを見た。
「えっ? あっ!」
そして、あっという間にどこかに移動してしまった。
「ヒロシたち、なんかやらかしたな」
こんな時に、まさかの『助けてお母さんシステム』が発動したらしい。
ギルド内で一人の男が剣を片手に凄んでいた。
その男の前には、少年が腕から血を流して倒れている。いきなり正面から切りつけられて、仲間の少年たちは身動きが取れずにいた。
酒場を併設しているギルドなので、冒険者同士のいざこざはよくある。職員はカウンターの中から様子を伺っていた。
「獲物をさっさとこっちによこせ、ってんだよ!」
男は、血のついた剣で少年たちを威嚇している。だか、少年たちは手に何も持っていない。獲物とはなんのことなのか?
「言うこと聞かねーんなら、このガキをーー」
男が剣を大きく振りかぶったその時の、
「お母さんっ!」
こーたが叫ぶと同時に、男の首が床に落ちた。
「なに、やってんだ?」
倒れる男の体の背後から、黒い魔道士が見えた。手には黒い鞭が握られている。
問答無用だったらしい。
「ヒロシが、切られた」
こーたが絞り出すような声で言う。
無言で治癒魔法をヒロシにかける。
「さて、うちのかわいい子どもたちに、手を出したのはこの男だけか?」
黒い魔道士が、威圧的にギルド内にいる冒険者たちに問う。仲間がいるなら容赦しない。ということなんだろう。
「こ、こいつらが、俺たちの獲物を横取りしたからだよ!」
ようやく、1人の冒険者らしい男が言った。それに同調するように、回りの男たちも声を上げる。だが、それらしき獲物はどこにもなかった。
もちろん、切られたヒロシもほぼ手ぶらだった。
「その横取りされた獲物ってのは、どこにあるんだ?」
黒い魔道士は、冒険者の男たちを睨みつけた。ヒロシたちは、何も持っていないのだ。
「そ、そのカバンの中だよ!カバンにしまい込むのをみたんだからな!」
冒険者の男は、叫ぶように言い放つが、ヒロシのカバンの中に獲物が入るところを見た。というのは、どうかと思うわけで……
「鑑定しましょう」
さっきまで黙ってカウンターに座っていた、女性のギルド職員が割って入った。ギルド内での冒険者のいざこざだ。ギルドの鑑定で白黒つければいい。
仕方が無いので、ヒロシは魔法のカバンから獲物を取りだした。
「べ、ベビードラゴン、Bクラスの魔物ですね」
女性のギルド職員は獲物をみて一瞬怯んだが、すぐに鑑定の水晶を、かざした。
『トドメを刺したのはジャック』
水晶から声がした。どうやら、鑑定をすると結果を喋る仕組みらしい。
「ほ、ほらな、その獲物は、俺たちのジャックがトドメを刺したんだよ」
冒険者の男は、勝ち誇ったように言った。
が、
「じゃあ、この遺体も鑑定してくれないか?誰が殺したか判定してくれよ」
黒い魔道士がとんでもない申し出をした。
「何言ってんだ!お前が殺したんだろう!」
冒険者の男が怒鳴ったが、黒い魔道士は意に介さない。
「私がどうやって殺したのか見たのかい?」
確かに、ジャックの首が落ち、同時にこの黒い魔道士が現れたが、どうやって首を落としたか誰も見ていなかった。それに、鞭で人の首を切り落とすなんて常識では考えられない所業だ。
騒ぎを聞き付けて、他のギルド職員もカウンター奥からでてきた。時間的に、冒険者たちがクエストを消化して帰ってくる頃でもある。
「スゲーなベビードラゴン つて!おいっ!!」
元気よくギルドに入ってきた冒険者が、床に置かれた獲物みて驚いたが、すぐに違うものをみて飛び退いた。
「お嬢ちゃん、さっさと鑑定してくれないか?その男を殺したのは誰なのか、その手に持っている水晶で」
黒い魔道士の言うことは、事情の分からない冒険者たちからすれば、至極最もだと思われた。魔物の死体と、冒険者の死体が床に置かれている。誰がやったのか、鑑定するのはギルドの責務だ。
女性のギルド職員は、それでもなお鑑定をしようとしない。水晶を持ったまま棒立ちだ。
「おい、誰が犯人かさっさと鑑定しろよ」
後から出てきたギルド職員に催促され、ようやく水晶を男の死体にかざす。
『トドメを刺したのはジャック』
水晶から無機質な声がした。
「何言ってんだぁ?」
先程驚いた冒険者が、また大きな声を出した。
「だって、死んでるのはジャックなんだぜ」
水晶を握りしめたまま、女性のギルド職員は顔面蒼白になっていた。
「どういうことなんだ?」
他のギルド職員が、訝しむ。
それはそうだ、死んでいるのがジャックなのに、トドメを刺したのがジャックなどと水晶が宣言したのだから。当然、これはおかしい。と人が集まって来る。
水晶を持ったまま、女性のギルド職員は一言も発しない。
「これは面白いことになったな」
黒い魔道士はそう言うと、死んでいるジャックの仲間と言う男たちを見た。この面白いカラクリについて、何が知っているはずだ。だが、男たちは狼狽えはしているものの、真相を話すつもりは無さそうだ。
「どういうことだ、ジャックはBランクの冒険者なんだぞ」
ギルド職員がそう言うと、黒い魔道士を見た。Bランクの冒険者がこんなにあっさりとやられたのか?Bランクの冒険者が不正をしていた?ギルド職員と結託をして?
「おい、どういうことなんだ?」
何も言わない女性のギルド職員に苛立ったのか、あとから出てきた男性のギルド職員が、彼女の肩を掴んだ。だが、それでも彼女は何も言わない。言わないことで罪から逃れようとでもしているのだろうか?
「じゃあ、こうしてみよう」
黒い魔道士は、言うなり女性のギルド職員の首をはねた。
「な、何してくれてんだ!」
男性のギルド職員が悲鳴をあげた。
カラクリを知っているはずの人物を、殺してしまったのだ。
「……また、血が出てない」
ちょっと違う方向の感想を漏らしたのはひろしだった。
『トドメを刺したのはジャック』
またしても水晶が無機質に告げた。
「ほら、これで解決。この、ジャックとこちらのギルドのお嬢さんが、情事のもつれで無理心中、ってことだねぇ」
「んなことあるかぁ!!」
すぐさま回りが突っ込んだ。どう見ても、いまのは黒い魔道士がやったではないか。
だが、ギルドの鑑定用水晶が出した結果は、
「不正が行われていた。ということか」
その場にいる誰よりも存在感のある、ギルド長がようやくやってきた。
冒険者の報告ラッシュが来てしまい、男性のギルド職員は、カウンター業務に戻らされた。ここからの取り調べはギルド長自らが行うらしい。何しろ、Bランクの冒険者とギルド職員が絡んでいるのだ。事情を知っているらしい仲間もいる。
酒場のテーブルを動かして、受付に並ぶ冒険者たちがこちら側に乱入出来ないように区切りを作った。酒場の方もテーブルと椅子を動かして、野次馬が近ずけないように配置を変えてある。
報告が終わって野次馬したい冒険者は、一旦ギルドを出て、改めて酒場のドアから入り直す始末だ。いつもなら、ジャックの仲間たちは幅を利かせてそんなヤツらを蹴散らすところだが、今日はそんなことできるわけが無い。いつもの威勢の良さがないどころか、さっきまでとも全く違っていた。
「それで、なんだってこの水晶は、馬鹿の一つ覚えみたいになっちまったんだ?」
ジャックの遺体にかざしても、女性のギルド職員の遺体にかざしても、魔物の死体にかざしても、報告に並んでいる冒険者の、獲物にかざしても、オウム返しのごとく同じ答えを繰り返す。
明らかに不正行為が行われていたのだろう。
「ジャックの兄貴とその女が出来てたんだよ」
ようやく1人が口を開いた。
それを聞いて、受付に並ぶ冒険者の一部がこちらをみた。が、動く気配はない。みんな、規律を守っているようだ。
「それで?」
ギルド長は続きを促す。
「他の冒険者の獲物を横取りして報告しよう。って、ギルド職員が鑑定すれば、横取りされたやつも黙って引っ込むから、って」
ジャックの仲間たちは、ギルド長よりも黒い魔道士を恐れていた。無言で無抵抗の女を殺したのだ。その辺の賊より冷酷と言えるだろう。
「つまり、そうやってジャックはランクをBまで持っていった。ってことか!」
ギルド長の拳がテーブルを叩いた。
剣呑な空気が漂う中、黒い魔道士は何やら楽しそうに思いをめぐらせている。
「じゃあ、悪党なんだ」
足を組んで座り直す。悪党だったらいいよね?と言いたそうなのだが、
「お母さん、なんで宙に浮いてるのさ」
こーたがようやく突っ込んだ。黒い魔道士のお母さんは、座った姿勢で宙に浮いているのだ。
「え、だって、上から見下ろしてやりたいじゃん」
見下すって、そういうことじゃない。と、こーたは言いたかった。言いたかったが、しっかりとテーブルの向こうに陣取っている冒険者たちが、怖い顔をてこちらを見ているのだ。たぶん、ジャックの被害にあったこと後ある冒険者なのだろう。ジャックが死んでいるのを見て、面白くなさそうな顔をする。
「な、なぁ、知ってることはなんでも喋るから、な、なぁ」
ジャックの仲間の男たちは、ギルド長に懇願するような目をしている。
「強制労働の罰からは逃れられんぞ」
「それでも、殺されるよりはマシだ」
男たちは、本気で黒い魔道士に殺される。と感じているようだった。
「そんなに言うなら、しょうがないなぁ」
黒い魔道士のお母さんは、ニッコリ笑うと、手前の男2人の首をはねた。
「ひーーーーー!!」
それを見た男が、悲鳴を上げて後ずさりする。全く、話が通じない相手だったらしい。これだけの人が見ている中で、平然とまた2人も!首をはねたのだ。
テーブルの向こう側にいる冒険者たちも、宙に浮かぶ得体の知れない黒い魔道士に、恐怖を覚えていた。もちろん、ジャックに恨みを持っている者もいたが、こうもあっさりと殺されてしまって煮え切らない思いを抱いてはいるようだ。
「安心していいよ、ちゃーんと、話を聞いてあげるから」
黒い魔道士は、ゆっくりと降りてきて、ギルド長を見た。
「血が出ると汚れるから、ちゃんと血が出ないようにしてるんだけど、ダメかなぁ?」
「……そういう問題じゃねぇ」
あまりの事に、さすがのギルド長も上手く言葉に出来ないらしい。
「結論から、言ってくんない?」
水晶を、片手で弄びながら黒い魔道士が言う。
「結構か……ジャックとその仲間、チームの奴らは強制労働の刑罰を受ける。もちろん、冒険者の資格は剥奪だ。それと、このギルド職員はクビだ。犯罪者として裁判所に突き出す」
生きていれば、と話なんだが。とギルド長は言いたかった。もちろん、回りの冒険者たちも死んでいたら罰も受けさせられない。と反応はイマイチだ。
「分かった。じゃあ、その前に個人的にこいつらに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「かまわん。好きにしてくれ」
冒険者同士のいざこざだ。勝者が敗者に対して、ある程度のことは許される。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」
黒い魔道士の手から、淡い緑色の光が放たれた。その光はジャックと男たちの体を包み込んだ。
「な、なんだ?」
1番近くで見ているギルド長は、得体の知れない魔法に息をとめた。切り落とされた首がゆっくりと体に着いてゆく。そうして、ジャックと男たちはムクリと起き上がったのだ。
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