第13話 一件落着ということにします

 ご飯をお腹いっぱい食べて、あきらは大満足だった。しいて言えば、ファンタジーの世界らしい洋食が微妙な薄味だったのが、物足りなかったけれど……多分、調味料という概念が足りないのだろう。煮込むとか、ソースというそんなに味付けがない気がする。


「お風呂沸かしてはいりましょうか?」

 部屋にバスタブがあると聞いたので、あきらは嬉しかった。やはり日本人なので、湯船につかりたい。しかし、バスタブということは、肩までつかれないかもしれないけれど、それでも、お風呂は嬉しい。


 あきらがウキウキしながら客室のドアを開けると、

「俺も入れてくれっ」

 背後から抱きつかれて、そのまま部屋の中に前のめりに転がり込んだ。

「何、してるんだ、お前」

 トーマくんのお母さんは、苦笑いをするしか無かった。

 あきらに抱きついてきたのは、この公爵家の息子、アルクだったのだから。



「邸の客室は、案内された人物しかドアを開けられないように魔法がかけられているんだよ。だからっ」

 客室のベッドに座り込んでアレクは言い訳をした。

「つか、客のベッドに座るなよ」

 トーマくんのお母さんは、呆れつつアルクを見た。手間のかかる駄々っ子がまた1人増えた。一応、3人をギルドに押し付けてきたけれど、この世界で保護者たるは自分であることは、自覚している。ので、もう1人被保護者が増えるのはちと面倒くさい。

「もっとあんたの話が聞きたいんだよ」

 見た目は貴族らしいが、中身はどー考えても駄々っ子である。



 とりあえずあきらと交代で風呂に入り、アルクの言い訳を聞いてやった。

「俺は公爵の息子には違いないんだけど、妾の子なんだ」


 なかなかの地雷である。


 だから情けをかけてくれ、という訳ではなく。正妻の産んだのが姉のセラスであり、アルクはそのセラスをしたっているという。だから、その姉を守るために強くなりたい。姉を陥れた魔道具について知りたい。

 本当に素直な理由だった。


「あの魔道具は、そんなに強くはないけれど従属系の呪いが施されていた」

「従属系?」

 アルクに聞きなれない単語だったらしい。

 魔法に、そういうのは無いからなぁ。とトーマくんのお母さんは考えつつ、

「奴隷化させる。って言えばわかりやすい?」

 それを聞いて、アルクの顔が赤くなった。

 大切な姉を『奴隷』など!絶対に許せないことばだった。



「まぁ、魔道具は外しちゃったから、元に戻るのにちょっと時間がかかるだけだと思うよ」

「姉さんは、また魔法がつかえるようになるんだな?」

 アルクは心底嬉しそうだった。まぁ、有り体にいえばシスコンの類なのだろう。母親の方はどうだかは分からないが、セラスは腹違いの弟に優しく接してくれているのだろう。


「1年間暗示をかけて、魔法が使えないようにされてきていたんだ。急速に元に戻ることは無いと思う。そんなに急に戻ったら体が耐えられないだろう」

 保有していた魔力量から考えて、リミットが外れていきなり大量消費すれば、肉体が耐えられなくなるだろう。


「ゆっくりと、リハビリするのがいいんじゃないかな」

 トーマくんのお母さんは、答えながら、フードを頭まですっぽりと被った。もう、眠くて仕方が無いのだ。普通に魔力を消費したって疲れるのに、この世界に存在しないはずの蘇生魔法を使ったのだ。


 疲れた。


 眠い。


 そんなわけで、トーマくんのお母さんは、ベッドのど真ん中に座っているアルクを無視して、ベッドの端の方で体を丸めて寝てしまった。

「あ、終了ですね」

 それが普通のことのようで、あきらは、ニコニコとその様子を眺めていた。


「えーっと」

 そうなると困るのはアルクで、何しろ客人のベッドのど真ん中に居座っているのだ。

「あ、気にしなくていいですよ。そこで寝てもらっても。普段からゲームの後はこんな感じで寝てましたから」

 あきらは、そう言って枕とは逆向きにベッドに横になり、そのまま寝息を立てていた。

「え? え?なんでそうなる?」

 アルクには、理解が出来なかった。

 いい歳の男子が、ひとつの寝台で女性と共に寝ることが。


しかも、何もないだなんてっ!

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