第12話 主要人物に入れていただきたいです

 公爵と黒い魔道士は、お互い向き合ったまま笑っていた。お互いをお互いの敵の味方にしたくはない。ということで一致した。


 それで?


「公爵、あんたに問う。この世界の神を信じているか?」

「なぜだ?」

「この問いが、私にとってもっとも重要な問い。この世界の神とは誰なのか」


 なんの話しだろう?

 先程、神の名前を答えたではないか。


「この、娘は死んでいるな」

 黒い魔道士が、指さすのはルイの死体。

「なら、面白いものを見せてやろう」

 お前たちの持つ、この世界への価値観を問いただすために




「創世の女神---の名において、蘇生」

 黒い魔道士が指さしたルイの死体が、淡い緑色の光な包まれた。

 見たことがない魔法が展開されているのが分かる。

 黒い魔道士が呪文を詠唱した。はっきりと聞き取れていたのに、何故か1部何も聞こえない箇所があった。


「 なん、て? 『創世の女神』?」


 唯一ききとれた言葉。


 誰のことなのか?


 なんのことなのか?


 知らない。だが、自分の知らない神の名前。


 黒い魔道士は、なんと問うたか?



「ここは?」

 つぶやきが聞こえた。

 死んでいたルイが起き上がった。

「おはよう、メイドちゃん、生き返った感想は?」

 黒い魔道士は、極上の微笑みでルイを見た。

 生まれて初めて『蘇生』というものを体験した。いや、それを見た人たちは、声も出せずにそれを凝視した。

「私っ」

 ルイは慌てて自分の胸を見た。魔女の呪いが刻まれているはずの胸。

「……ない」

 ふと、自分を見つめる黒い魔道士と目が合った。

 この人は分かっているのだ。



「魔女の呪いって、たまにえぐいのあるよねぇ」

 黒い魔道士は、そう言ってルイの胸を指さした。

「もう、消えちゃったから関係ないよね」

 ルイは、黙って頷いた。そう、自分の行動を監視して命を縛る魔女の呪いはもうない。

「じゃあ、教えてもらおうかなぁ、誰と契約したのかな?」

 黒い魔道士の目に魔法陣を見つけた。そして、それを見てしまったことにより、ルイは全てを素直に話したのだった。



 一緒に晩餐を、という話だったがちょっと色々ありすぎてそれどころではなくなっていた。何しろ魔女の呪いが解かれたセラスはぼんやりしていて、何かを食べられる状態ではないし、公爵とアイーサ、アルクはこの世界に存在しないはずの『蘇生魔法』を見てしまい、心穏やかではなかったのだ。


 落ち着いて晩餐など、できるはずがなかった。

 メイドのルイは、魔女の呪いがとけたとはいえ、罪人であることは間違いないので、一応幽閉という処分にされた。

「私は、セラスが心配ですのであの子のそばに参ります」

 アイーサはそう言うと、メイドを連れてサロンを出ていった。

 アルクは、黙って公爵を見ていた。この部屋に留まる許可の確認を無言でしているのだ。


「何か、食事を3人分用意しろ」

 公爵がメイドにそうつげた。

 それを聞いて、アルクは適当な椅子に適当に座った。アルクは、食事よりも目の前にいる黒い魔道士に興味があった。魔力もそうだが、あのワイバーンを真っ二つにした技。血が一滴もとばなかった。どんな武器を使ったのか興味がある。


「あ、4人分にして」

 黒い魔道士は、メイドにそう言うと、ニッコリ笑って公爵を見た。

「1人、ここに連れてきてもいいかな?」

「無論」

 礼を尽くす。との約束をしているのだ、断る理由はない。

「ありがと」

 黒い魔道士は、立ち上がり床を靴のつま先でトントンと叩いた。それだけで床に魔法陣が広がってゆく。

「無詠唱かよ」

 アルクは、身を乗り出してそれを見ていた。





 洞窟に1人残されたあきらは、トーマくんのお母さんの言いつけを守って大人しくしていた。

 そんなに待たせないから。と魔道具の袋を渡されて素直に受け取り、言われた通りに洞窟の中で色々魔法を試していた。

 あきらは本来課金者なので、魔道具の作成ができるスキルを習得していた。ただ、キッズタイムで遊ぶ仲間からしたらチートになってしまうので、使ってはいなかったけれど。

「回復薬は作れるし、袋の中にトーマくんのお母さんがご飯を送ってくれるし」

 好きなように冒険ができて、あきらは快適だった。

 賊の隠れ家だったので、生活できるように空間が出来上がっていたのが幸いした。後は自分でカスタマイズして、寝心地の良いベッドにしたり、お風呂にお湯が沸くようにしたり、倒した魔物の素材で自分の武器を強化したり、申し訳ないけど、ヒロシたちが居たら出来ないことを思う存分していた。



「ちょっと待っててね。って、どのくらいなのかなぁ」

 あきらは、自作のふかふかベッドに横になった。朝ごはんは送られてきたけれど、今日はお昼ご飯が届かなかった。まあ、なくても何とかなるし困らないのだけれど。

 ちょっと眠たいなぁ、とあきらが思った時、空間に黒い影が現れた。

「あ、トーマくんのお母さん!」

 ご飯じゃなくて、本人が来てくれた。


「なかなか快適そうで」

 部屋の中を見渡して、トーマくんのお母さんは嬉しそうだった。世話のかからないのはよろしいらしい。




「ここの領主のモリアナ公爵だよ」

 トーマくんのお母さんに、そう紹介されてあきらは、ぺこりと頭を下げた。

「あきらと言います」

 公爵は、あきらを好意的な目で見ていた。得体の知れない黒い魔道士が連れてきた少年。自分の息子より幾分若く見えるが、しっかりとした人物であることが分かる。

 まっすぐにこちらを見るその瞳は、悪意や隠し事は見えなかった。


「息子さんで?」

 公爵は、当たり前の質問をしてみた。

「あ、いえ……えっと、弟子、みたいな?ものですかね」

 あきらは、慌てた。

 が、世界観に見合った答えができたので上出来である。

「なるほど、魔道士様のお弟子さんはおひとりで?」

 軽い興味が出てきて、聞いてみた。


「トーマくんのお母さんは あ、あの、他の弟子ですか?」

 あきらは、思わずいつもの呼び方をしてしまった。そんな急には設定も出来上がっていない。弟子だとすると、この場合の呼び方は?あきらは、頭の中でぐるぐるかんがえたが、もう口から出てしまった言葉は取り消せない。

「『トーマくん』とは、魔道士様の息子さんで?」

「いや、息子は今いない。探しているんですよ」

 トーマくんのお母さんは、それ以上聞いてくれるな。と手で制した。話すつもりは無い。

 拒絶を感じで、公爵は素直にひいた。

 余計な検索はしない。名前も明かさない魔道士だ、そういうことにしておくのが無難だろう。

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