第9話 この世界につい考察する必要があります
翌日、ヒロシ、こーた、ヒロトは、ギルド職員に連れられて、初クエストに出ていった。
ギルドの宿代は、1週間まとめてトーマくんのお母さんが支払ってくれた。
その1週間は、子守なし。
トーマくんのお母さんは、ようやく行動がとれるのであった。
この世界の考察をしよう。
まず確認をすることは、教会。
あきらに答えさせた、この世界の神様の像について。
本当に阿修羅像の様な女神像が建っているのか?
ギルドの近くに教会があったので、確認は簡単だった。
朝が早すぎたのか、それとも冒険者たちは信心深くないのか?教会には誰もいなかった。
陽の光をたくさん取り入れて、教会の中は明るかった。
祭壇のその先に神像が建っている。
その顔を見て、仮説がひとつ確信に変わった。
女神像には、確かに顔が3つ着いていた。ただ、どれがどの顔かは分からないけれど、顔が3個。阿修羅像とは違う点は、体は1人分。手も足も1人分。腕は2本、脚も2本。
顔だけが3人分のソレには、ビミョーに違和感を覚えさせられる。そう、ゲームでよくみるアレ。上から被せてませんかぁ?
「ゲームなら、調べるでなんかあるんだけどなぁ」
神像を下から眺めても、何も出てこない。
肩から首への曲線。そこからの顎へのライン、どうみてもひとつの石を切り出して、作りだしたとしか思えない。
が、
ナンカチガウ
否めないハリボテ感がじわじわ押し寄せてくる。
腕組みをして、額に人差し指をあてたポーズで考察。
ゲームなら、ここで「!」とか言ってなにか見つかるんだけど、その何かは、自分で探し出さねばならない。
遠くで誰かが呼んでいた。
「誰だ?」
既に体は、その誰か元に飛んでいた。
広い広いモリアナ侯爵邸のだいぶ奥にある庭で、セラスはお茶を飲んでいた。
本宅の裏に建つ、別邸中の一つ。
セラスだけの居住用となっている別邸の中庭。そこもまた広い。借景をメインとした庭のため、広さ奥行きが目眩がする程で、誰の邪魔もされないという点において、ものすごく優れた庭なのである。
軽めの朝食からのティータイムなので、給仕は付けずに1人でくつろいでいた。
が、
「------?」
影が突如として現れた。
最初は、カップを置いたてテーブルに小さく。それがあっという間に大きくなり、自分までが影に飲み込まれた時、セラスは頭上に恐ろしい気配を感じた。
見上げるまでもない。
殺意、それが上から降りてくる。
圧倒的な殺意から、逃れるためにセラスは椅子から立ち上がった。が、立ち上がっただけでその場から離れることは出来なかった。頭上から風が吹き下ろし、身動きが出来ないのだ。風圧に押さえつけられて、立っているのが精一杯で、回りの状況が見えない。
唯一わかること、それは頭上の影が完全に自分を飲み込んでいること。手で顔を覆うが、それは、すぐそこまで来ていた。
「……お、お母様」
殺意に鷲掴みにされて、言葉が出てこない。
タスケテ
タスケテ
----------------!
目前に迫った黒い影が、真っ二つになり、落ちてきた。
「怪我はないか、お姫様」
その向こうには、黒い魔道士が太陽を背に立っていた。
異変を感じて兵士たちが庭に駆けつけてきたが、既に事は終了していた。
真っ二つにされた黒い影は、ワイバーンだった。
兵士たちは、真っ二つになったワイバーンを見つつ、剣を抜き黒い魔道士を睨みつけてきた。
「貴様、セラス様から離れろ!」
当たり前なのだが、いるはずのない人物がいきなり居て、しかも黒づくめとくれば不審者として見るのがあたり前である。
が、まぁ、じゃあ真っ二つのワイバーンはなんなんだよ?ってはなしなのだが、
「----!」
そんなこと言ったところで、兵士たちは剣を構えたところで身動きが取れなくなっていた。
それどころか、声も出ない状態にされて、兵士たちは黒い魔道士を睨みつけるしか無いのだが、黒い魔道士は、兵士たちを全く相手にしていなかった。
「怪我はないかな?お姫様」
飄々とセラスに近づき、顔を覗き込む。若干身長差があるため、覗き込む姿勢はやや下からになる。
「は、はいっ!どこも怪我などしておりません」
セラスは、何故か直立不動になっていた。
「兵士たちの動きは止めてある。本物の味方が分からないからな」
助けるの2度目だからさぁ、とボヤいて辺りを見渡した。
それはかなり痛いところであった。襲われたのは2度目。1度目の襲撃は兵士の裏切り、しかも二人いた。
今回、屋敷の庭でワイバーンに襲われた。ワイバーンが単騎で襲ってくるなんて珍しいことだ。
誰かが呼び寄せたのだろう。
誰かが…
その誰かが分からなければ、まずは前回の学習から兵士を疑う。助けに来た振りをして、確実を取りに来たのかもしれないのだから。
「それはっ」
否定できないので、セラスは口ごもった。兵士たちは信頼している。しているが、前回裏切ったのも兵士だった。誰が敵なのか?セラスには分からない。
「賊に裏切りをしたのは兵士が2名だった。 あの洞窟ではね。今日は、どうだろう?」
黒い魔道士に言われて、動けない兵士たちを見る。裏切り者は本当に居ないのか?見ただけでは分からない。
分からなくて、セラスは黒い魔道士を見た。どうしたらいいのか私には分かりません。
それを、どう伝えたらいいのか、分からない。
「でやぁぁぁぁぁ!」
「------えええ?」
足元を何かが通った。
目の前にいた黒い魔道士が後ろに倒れて尻もちをついている。
「え? ええ?」
セラスの足元に、剣士の格好をしたアルクが飛び込んできて、黒い魔道士を押し倒していたのだった。
「姉さんに、何をするつもりだ!」
アルクは黒い魔道士にしがみついたまま離れようとしない。どうやら、アルクは完全に誤解をしているのだが、この状態では聞く耳を持たないだろう。
「ちが、違うのよアルク。魔道士様は私を助けてくださったの、しかも、2回も!」
もう、このバカ弟!と後頭部を平手で叩いた。
それでようやくアルクは黒い魔道士の腰に回していた手を解いて、自分の後頭部を手でさする。
「姉さん痛いよ」
「痛くて当たり前です。まったく、私の命の恩人である魔道士様になんてことをしてくれるのですか」
2回も助けていただいているのですよ!とキツい目で睨みつけるセラス。もちろん、動けない兵士たちも同様である。私の命の恩人様に剣を向けるとは!
セラスが兵士たちを叱り付けようとした時だった。
「まったく、状況を確認もせずに猪突猛進とは恥ずかしい限りですよ」
声のするほうを見れば、貴族然とした女性が立っていた。
「兵士たちも、なんと無様なことか……公爵家の兵として全くもって恥ずかしい」
きっちりと結い上げた髪に品の良いドレス、後ろにはメイドが2人控えていた。
「お母様」
セラスは複雑な顔をして、一礼をする。本当は兵士たちも、畏まりたいだろうが、黒い魔道士の魔法により身動きが取れない。
「2度も娘を助けていただき、誠にありがとうございます。私はモリアナ公爵が妻アイーサと申します。貴方様に2度も助けられたのは我が娘セラスと申します。不在の主人に代わりお礼申し上げます」
「そりゃどーも」
お礼を言われても、黒い魔道士は恐縮とかしないようで、ワイバーンのお肉美味しいんですけど、どーしますか?とか聞いてくる。強いモンスターの肉は、美味しいのだけれど、今聞くことか?
「邸の料理人にやらせましょう」
アイーサがそう言うと、メイドの一人が本宅に向かって行った。それを見て、ようやく兵士たちの束縛をとくのであった。
「血抜きしないと不味くなるから」
それぐらいはお前らがやれ。と黒い魔道士に顎で指示される。が、文句を言いたくても奥様の前、しかも、どんなに頑張っても太刀打ち出来なさそうな実力者が相手では、兵士たちも従うしか無かったようである。
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