第15話信長様からの使者と一人の客人

 

 永禄12年5月初旬 岐阜フロイス邸



「申し上げます。ただいま織田弾正忠様からの使者がまいられました。あと、先程から尭俊(ぎょうしゅん)と申す仏師が殿に面会を求めておられます」


 足音の正体は侍女長の里だった。



「仏師?仏師の知り合いはおらぬが…。まぁ、信長様の使者のほうから会おう。仏師殿にはお待ちいただいておいて」



「はい」


 俺は授業を中断して信長様の使者に会いに行った。



♠️

 使者の要件は、5月の初旬に信長様が京から美濃に帰還されるとの事。その途上で浅井家の所領に立ち寄って歓待を受けるとの事で、その日が5月10日と決まったので、地球儀やマントなどのみやげをもって5月9日までに信長様の一行に合流せよとの事である。


(ふむ。二条城完成の祝宴の返礼を受けることにしたわけか…。しかし…)


 あの祝宴には、浅井長政は参加しないはずだった。

足利義昭の上洛戦に参加したにも関わらずなんの恩賞も貰えぬことを不服とし、家臣たちが義昭に臣下の礼をとることを反対したためだ。


 この世界で祝宴に来たということは将軍家ひいては、それの黒幕たる織田信長に臣下の礼を取ったも同然。


 織田家の下に着くということは、大名としてはプライドが許さないことのはず。そう簡単には出来ぬことだろう。


 本来の歴史ではそれが出来なかったのに、この世界では出来る?何故だ?


 この世界が本来の世界と違う点・・・俺の存在か?ルイス・フロイスは信長様と親しくしていたようだが、軍師として仕えたわけではなかった。


 俺が仕えたことでなにか事情が変わったわけか?

それとも、返礼を受けさせておいて騙し討ちでも仕掛けるつもりか??


 いや…うーん…。


 考えをまとめるのには情報が少なすぎる。もっと生の情報がたくさん欲しい所だ。


〔考えていても仕方あるまい。わからんじゃろう?〕


 俺の意識に直接、声が聞こえてきた。

俺が転生するさいにとりついた2柱の神の1柱フツヌシノオオカミである。


(フツヌシノオオカミ様。なにか案があるのですか?)


 フツヌシノオオカミ様は軍神のような神。戦闘術や築城術、戦略や戦術だけでなく、陰陽術も司る神なのである。



〔我が陰陽術を司っていることを忘れたか。陰陽術を使えば館や城に忍び込んで情報をとって来ることなどいとも簡単なことよ。監視も出来れば、なんなら、暗殺や呪殺もできるぞ。人の命運を占うこともできるしな〕



(暗殺…それは卑怯では…?)


 考えてみると神がついているっていうのはチートだな。しかも知識と技術の神と軍神の2柱もついている。戦国時代でやろうと思えば、やりたい放題できるほどの力だ。


 だからといって暗殺などの卑怯な手で時代が開けるとは考えにくい。チート能力に溺れては自分の身を滅ぼしかねまい。例えば、明治維新で人斬りなどの暗殺に携わったものはろくな人生を送っていないのである。この力は、あくまで自分の使命を果たす為の補助として使うべきだろう。


 今回、この力を活用するとすれば…よし。



(陰陽術といえば、式神を小谷へ飛ばせますか?)



〔いとも容易きこと〕


(それにはなんのリスクもないのですか?あまり長く飛ばしていると俺の寿命が縮むとか)



〔普通の術者ならば使う時間に応じて生命力というか霊力や神通力といったものを消耗するだろうが、我が使う分には何も消耗はせぬ。使い放題じゃ。わっはは〕


 本当にチートだな。まったく…



(では、今すぐ式神を小谷へ飛ばして信長様を暗殺する計画がないか探ってください)



〔委細承知〕


(あと、人の命運を占なえるとおっしゃいましたね)


〔おう〕


(織田信長と浅井長政の命運を占ってもらえませんか?)


〔ふむ。むむむ…〕


 こうして小谷へ式神を放ってもらうと同時に信長様と長政殿の命運を占って貰いつつ、待って貰っている客人に会いに向かったのだった。

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