第14話美濃での日々


 永禄12年4月末・岐阜フロイス邸


 俺は、岐阜に家老格が住むような大きな屋敷を与えられた。


 今日は家具を買い揃えたり、屋敷の侍女達に掃除をさせたりした。


 今は、晩ご飯を食べ終わり、寝る前に屋敷の湯殿で体を洗おうとしている所なのだが…。


 家老級の屋敷の湯殿は、なかなか広い。しかし、洗い場の人口密度がおかしい。


 俺も含めて5人が洗い場に密集しているのだ。


 男女比もおかしい。男は俺1人で後の4人は女子大生くらいの妙齢の女(全員子持ち)ばかりなのである。まあ、裸なのは俺1人で後の4人は薄めの襦袢にたすきを巻いているという姿なのだが…。俺を洗うために裾も捲り上げていて、生足もばっちり見える。


(俺を洗うのに4人がかりだと?どうして、こうなった??)


 

 なんでも外国人の俺が珍しかったそうで、俺の体にみんな興味深々だったようだ。

本来のルイス・フロイスが書いた日本史にも、日本人は好奇心が非常に旺盛だと書いてあったっけ。


 とにかく俺の左腕は恭が。背中はさとが。右腕は澤が洗っている。


 綾はというと…。


「よっこいしょ」


 と、風呂椅子に座っている俺の前にかがんだ。


(前から洗うの??)



 俺の胸元には綾のとびっきりの美貌がある。その下には、たわわな果実も実っているわけで……。たわわな果実っていうのは、まぁ、胸だ。もっと詳しくいえば……釣鐘型の美巨乳である。


(綾の襦袢の胸が…少しはだけてる。…Gカップくらいかな?しかも生足も見えてる。距離も近いし。なんかいい匂いもするっ)


 綾の胸も生足もむっちりしてて魅惑的。なんていうか、もうっつつ。


(ダイナマイッツツツト!!!)って感じの破壊力?!



 俺は恥ずかしくなって、顔を背ける。男である俺を前からこの体勢で洗おうとか、綾は少し天然なのかもしれない。


「殿は恥ずかしがっておられるのですね。こんなに立派な体格をされているのに。なんか、かわいい」


 綾が無邪気にそう言った。




「そこは特等席ですね。綾」


 

 俺の左腕を抱えて優しく洗いながら、こう言ったのは最年長の恭。てか、恭の胸も俺の腕に当たってる。いや、あててる?綾から顔を背けても、そっちには恭がいるわけで。逆側には澤もいる。


(目のやりばに困るっ!!)


 この状況、俺にとっては天国であり地獄でもある。俺はキリスト教の宣教師であり、禁欲をつらぬかなければならないのに。


 俺はぎゅっと目を閉じた。そして、仕方ないから、煩悩退散の呪文でも唱えることにする。


(色即是空、空即色是〜)


 ま、生涯不犯の誓いをたてたのは本来のルイス・フロイスであって、俺ではないのだが。


 おれの右腕を洗っている澤の胸も当たっていて、ふにゅっとした柔らかさと心地良さを主張している。



(みんな、柔らかくて、むっちゃ暖かいんですけど…)


 真面目に洗ってくれてるのは、里だけか?


「わー、殿の背中は広いですね。それに毛深いですー」


 その里も俺の体に興味深々な様子。


「胸元もがっちりしてますっ」


 綾も同調する。


 綾さん、外国人に興味があるからといって、俺の胸筋を指でなぞるようにつつつっと触るのやめてくださいませんか?

 


(まー、美女に囲まれて悪い気はしないけどね)


 できれば俺の体を洗う係は、1人ずつローテーションでやってもらいたい。


 それなら、毎日の風呂が楽しくなりそうだ。侍女長たちとのコミュニケーションの場として良さそうでもある。石鹸やシャンプー、リンスなども作ろうかな?自分の体の前の方は、自分で洗うし。


「出来れば、明日からは俺を洗う係は1人ずつ交代でやってもらえないかな?美女に囲まれるのは嬉しいけど緊張もするので」


 

 それに信長様って信仰してる宗教の戒律--特に女性関係に厳しいんだよな。



「ま、美女ですって」


 これは澤。俺の右腕をぎゅとする。


「殿ったらお上手っ」


 こっちは恭。恭は恭で俺の左腕をぎゅっとした。


 俺の両腕に温かくて柔らかい双丘が押し潰されるように密着している。恭と澤の顔も近いっ。


 どうしたらいいの、これ?振り払うとか失礼なことは絶対にしない。むしろ、このままでいいのだけど…。



「なんなら、夜伽のお相手をつとめさせていただいても…」


 前からいたって真面目な顔と口調でさらっと発言したのは綾である。


 

 …。


(え?なんだって!?)


 綾の言葉は俺の耳に入ったけど、脳がバグって処理をミスった感じ。ラノベの主人公によくあることだ。



「夜伽…」

 恥ずかしそうに俺のうしろでひっそりとつぶやいたのは、里。


 夜伽やとぎ?いま、こいつら夜伽といった!?


 夜伽ってのはたしか…◯◯◯のことだ…よな?


 

 綾め。さらっと、とんでもない爆弾を投げつけて来やがった。


 え?風呂係の侍女にお手つきが多いのは知ってるが…、女性側からも誘うものなの??


 てか、俺たち、昨日、今日、出会ったばかりじゃん??



「夜伽って…。なんとも魅惑的なお誘いだけど…。ダメ…だろうな。俺は南蛮僧。君たちは南蛮風の尼になる予定。そういうのダメ」


「今どきのお坊様は戒律を破って、好き放題しておりますよ」

 そう言ったのは恭だ。


「少しくらい…良いではありませんか?ね❤️」

 と、悪魔的なことを俺の耳元で囁いたのは澤である。


 澤、君の美巨乳も俺の腕にあたってる。こっちはお椀型。サイズはFカップくらいかな?その上、耳元でいたずらっぽく魅惑的に囁かないでくれる?耳に息もふっと吹きかけただろ?少しくらいじゃ済まないから、それ!!


 …。


 ……。


 そういえば、この時代の僧侶たちは性風俗が乱れていたような…。乱れきっていたと言っても過言ではない。



(いいのか?しかも4人同時に??)


 今現在、俺に密着して俺を誘惑しているのは芸能人でもなかなかいないほどの美女達だ。

しかも、全員、グラマーというか恵体の持ち主。


 いや……。


 軽率なことは慎むべきだろう。下手をすれば信長様に焼き討ちされるとか…。比叡山の焼き討ち的な?


(比叡山の延暦寺は、もっと穏便に処置しないと…)


 が…今、考えるべきことはそんなことじゃない!


 しばしの逡巡ののち、


「くっ……。ならぬものは……ならぬものです」


 俺は会津藩の〝什の掟〟みたいなセリフを無念を噛み締めながら、血を吐く思いでなんとか絞り出す。 


(誰だ?生涯不犯なんて、余計な誓いをたてた奴は??)



「「「「あはは」」」」


「お前ら…必死の思いで断ったのに、笑うとか酷くない?!」


「いや…西洋風の尼とはいえ、殿方に生涯を捧げると誓ったのですから、それくらいの覚悟はして当然かと考えておりましたが…真面目な殿で安心いたしました。里が不安そうでしたので…。他の者達は殿なら、いつでも喜んでお相手いたしますが…。ねぇ里」

 そう、恭が里に呼びかける。



(喜んで?)



「ええ。安心しました」

 これは里。


 他の娘達はともかく…里はそういうの不安だったのか。安心したようでよかった。

しかし…風呂係って、そんな覚悟のいる仕事なのな!


 まぁ、俺が宣教師である限り、誰にも手を出さないけど!


 戒律を破って、信長様から火炙りの刑に処されるのはごめんだ。



 このシュチエーションすら、信長様が俺を試すために仕掛けた罠かもしれない…


 4人の侍女長達は、信長様が送り込んだ女忍者——くのいちだったり…


(まさか…ね)




♠️永禄12年5月初旬 フロイス屋敷



 新式銃の開発は軌道に乗りつつあり、硝石の生産にも乗り出している。


 美濃は鉱物資源も豊富で鉛や硫黄、赤鉄鉱も取れる。製鉄所を作って鋼鉄を大量につくり、銃や大砲を大量生産したい。

 なので製鉄所の設計を始めている。


 ただ、製鉄をするには炭化の進んだ良質な石炭が欲しい。石炭を高熱で処理したコークスがないと良質な鉄を量産するのは難しいのである。


 美濃の地は化石がよく出るので石炭などの化石燃料もあるのではないかと期待していたのだが、質がよくない。よい炭鉱を探さないと…。



 そんなことを考えつつ、俺は屋敷で授業をしている。

生徒は、俺の20人の侍女たちの中から選んだ塾頭4人と帰蝶様、そして帰蝶様と仲の良い家臣団の奥様方たちである。


 奥様方は主に、前田利家殿の妻・松殿、木下藤吉郎殿の妻・おね殿、佐々成政殿の妻・はる殿などである。家老格の奥様は参加していないが、皆、将来を有望視されている家臣達の妻君である。あとは美濃の豪族で賢いと評判の娘達。


 この人達の間では着物を縫って送り合うのが流行っているらしく、皆、競うように艶やかな自縫の着物を着ており目の保養だ。

 


 しかも、外国人が珍しいのだろう。みんな俺に興味深々の様子。


 これは……からかわれてるとか、何かの罠とかではなく……世にいう、モテ期って奴か!?(多分、違う)


 忙しい毎日の中でこの授業の時間は心躍る楽しみの時間。


 今はラテン語の授業中である。教材は聖書だ。


 ポルトガルの宣教師の姿をしていながら俺はキリスト教を日本に広めるつもりがほとんどない。ただ、ラテン語やポルトガル語、英語などは後々のために広めておきたいのである。


 そして、外交官を育てるために向うの風習や考え方も知っておいて欲しい。聖書はうってつけの教材であろう。


 侍女達の中から4人を選んで授業を受けさせているのは、侍女を4つのグループにわけて、それぞれのグループに4人の塾頭が教えるためだ。


 4つのグループはそれぞれ、家事・保育・医薬品づくり・買い出しなどをローテーションで担う。


 医薬品とは、主に傷薬や消毒に使う焼酎や清潔なサラシなどである。

これから戦が増えるのを見越して、それらを作り置いておく。いずれは、医薬品を売るつもりでもある。


 そして、塾頭4人には洗礼を与えてシスターになってもらった。他の侍女に関しては再婚を自由にしてもらっていいが、本気で育てる4人に関しては手元に置いておきたいからだ。塾頭達の子供も将来、登用する気でいる。この4人には交代で俺の身の回りの世話も頼んでいる。その世話には夜伽は含まれないが、…たまにむこうから誘ってくるから困る。


 ―――そういう事はダメなんだってば!!(血涙)


(神よ、誘惑を退けたまえ)


 …まあ、それはさておき今は楽しい授業中だ。



「「ほほほ」」

と愉快な笑いも絶えない。


 どたどたどたっ


 授業も終盤に差し掛かったころ、誰かが走ってくる音がした。


 この授業の他にも信長様の小性たちに兵法や戦闘術や城の縄張り術などを教えたり、鉄砲職人達の子供たちに将来、より進んだ鉄砲や弾丸をつくるための基礎として錬金術などを教えているが今日はその日ではない。



(廊下を走るような大きい子達は今日はいないはずだが…はて?)


 これが、授業をしたり製鉄所を設計したりと忙しいながらも平穏に暮らせていた日々と別れをつげる音であるとは、まだ知るよしもないのだった。

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