第16話天照女神像
永禄12年5月初旬 岐阜フロイス邸
占いの結果を聞いたあと、客間へと向かった。
障子を開けると僧形の青年がもの静かに座っていた。青年と言っても30代前半くらいか?
静かに座っているが、隙のようなものはない。気配が研ぎ澄まされているのである。かと言って殺気のようなものは感じない。何かの武道に通じているのだろうか?
そう思って堯俊と名乗る仏師の荷物を見る。長いものと風呂敷に包まれた何かが見える。
どうやら長いのは槍。それも十文字槍らしい。
僧形で十文字槍とくれば…宝蔵院流の槍の使い手か。
それも相当な手練れとみた。
軍神フツヌシノオオカミがついており信長様の小性たちに武術を教えている俺は一眼見ただけでなんとなくその人のもつ武量がわかるようになっている。
(この人、仏師といってるが織田家屈指の槍の使い手である槍の又左こと前田利家殿よりも強いぞ?)
仏師で宝蔵院流の槍の使い手が俺になんの用だろう?堯俊という仏師は聞いたことがない。
「お待たせいたしました。私がルイス・フロイスです。今日はどのようなご用件で訪ねてこられたのですか?」
俺がそう挨拶すると…
「お初にお目にかかります。私は奈良で槍と仏師の修行をしております堯俊と申すもの。今日は神託を受けてここに参りました」
…神託?神の啓示か?仏師が??
「はあ、神託ですか?」
まぁ、神になら俺も会ったことがある。日本の最高神でありながら、日本をギャンブルの担保にするクソ女神だけどな。
「ええ。アマテラスオオミカミと名乗る女神です。自分の姿を像にして、ルイス・フロイスと申す異国の宣教師に見せよと。そうすれば、お主の仏師としての道が開けると。仏像ではなく女神像ですが…こちらです」
そう言って、堯俊殿は風呂敷を解いて木彫りの女神像を俺の目の前に置いた。
(やっぱり、アマテラス様でしたか…仏師に自分の姿を模した像を作らせるって言っていたな)
「拝見いたします」
ふむ。世にも美しい女神があたたかな笑みを浮かべて両手を広げて立っており、世を照らしてますって感じの像だな。
アマテラス様は俺にはその姿を光で隠していたがそんなお姿をされていたのですね。本性を知らなければ、この像の出来栄えに圧倒され1日中拝み倒しているかもしれない。
言いたくないが、それだけの美しさとオーラを放っているのである。顔も美しければプロポーションも素晴らしい。
黄金比を完璧に体現した整いすぎた彫りの深い顔。つややかな髪。凹凸を極めた奇跡のプロポーション。日本人離れしたすらっと長い手足。容姿としては12頭身くらいか?服は巫女服。その容姿は、見下げすぎて見上げている海賊女帝に似ている気がする。
気が強くて大人びているようで、どこか儚げで幼いような。清楚にして妖艶。万色にして無色。矛盾しているようだが、この女神像はこの世の全てを内包しているごとくであり、大変、素晴らしい。
飽きることなく、いくらでも眺めていられる。
「ははは。それがしの作品を気にいってくださったようですね。」
「え?」
「お気づきになりませんか?あなた、その女神像を涙を流して一心に拝み倒しておりますよ。確かキリスト教の宣教師はキリスト以外の教えを邪教と断じ、それらの神を形どった偶像を崇拝してはならぬのでは?」
く、詳しい。それに拝み倒している自覚も全くなかった。拝み倒している事を自覚した今、それをすぐにでもやめて客人を応接しないといけないのだが…それがひどく億劫なのである。
(―――呪いでもかけられているのか?この像)
俺は、億劫な気持ちを振り払って客人の問いに答える。
「そうでスね。キリスト教は一神教であり、他の神を崇拝してはなりません。まぁ、私は日本の神にも仏にも敬意を抱いておりますシ、日本の神社や仏閣が大好きではありますガ」
「崇拝したら駄目なのに無意識に拝み倒してしまうのですね…我ながらとんでもないものを作ってしまったものです。まだまだ天照大神の美しさを表現しきれてないのですが。もっと光輝くような美しさだったような」
堯俊殿は得意気だ。顔が興奮でほんのりと赤くなってる。よほど嬉しいらしい。
まぁ、アマテラス様はたしかに光輝いていたな。顔が全くわからないほど。ていうか光が強すぎて、目をやられそうだった。
あれを直視して像にするとは、ただものではない。美しいものを見て、形にしたいという意欲が並外れているのだろう。俺は、その意欲が足りなかったのか?
「はぁ…確かにこの女神像は素晴らしいです。呪われてるのではないかというほど…。私はこれをどうしたらいいのでしょう??あなたの道を開くとは??」
神託って言っていたが
「はい。私はこの神の神託を受けて神がそのまま宿ったようなこの女神像をたくさん作って世界中の人に所有してもらいたいのです。そして、たくさんの人にこの像を拝んでもらいたい。私が受けた神託はそういうことだと思うのです。つまり、あなたにこれを世界に広めて欲しいとお願いすればそれがかなうということだと。あと、手紙につかう印鑑もお持ちしました。これも天照大神をかたどっています」
この像を世界に広める…それがアマテラス様の望みでもあるわけか…
これを世界制覇にどう使うか…。一度、冷静によく考えてみるべきだな。
「これを世界に広める…とても素晴らしいことだとおもいますが…私の立場もあります。少しだけ考えさせて下さい」
そう言って堯俊殿を客間で少し待っていてもらい、俺はこの像をもって自室でこの像のことを知識の神オモイカネ様と、軍神フツヌシノオオカミ様とともに調べてみることする。
そういえばまだ授業の途中だったな。今日の授業はこれで終わりにしよう。
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