第5話無礼討ちされるのは嫌なので法的防御力を極振りしたいと思います2


 永禄12年(1569年)4月8日 二条城建設現場仮屋



 俺たち宣教師と信長様の謁見は二条城の建設現場に建てられた仮屋において行われた。


 宣教師の代表は、イタリア人宣教師グネッキ・ソルディ・オルガンティーノ師。のちに適応主義と呼ばれることになる当時としては珍しく原理主義にとらわれず、自分たちを現地の風習にあわせるような布教を行った人物である。


 まあ、この人も俺の目から見たらかなり偏見を持っており、原理主義的なのだが…他に比べればマシな部類だと言っておこう。

 それは、俺が入れ替わる前の本来のルイス・フロイスも同様であった。



 とにかく、俺たちは西洋の椅子やテーブル、地球儀や帽子、マントや時計などを献上した。

 献上品の中には黒人奴隷もあった。


 この時信長様が地球儀を見て、地球が丸いという話に興味を持ち理解を示した話は有名である。


 これらの献上品のうち、時計は信長様が受け取るのを遠慮した。「こんな精巧なものをもらっても壊れたら修理できない」と可愛いことを言って…。

 そのかわりに…。通訳を務めていた俺に興味を持った(風を装った)


 そして…俺を世界を知るものとして相談役的な立場の賓客として側に置きたいと申し入れた。



 俺を家臣にくれたら宣教師たちの望み通りのもの―京都に住む許可状と京都における布教許可状を朝廷に頼んでやると確約したのだった。


 こうして、俺は正式に織田信長様に仕えることになった。



 いや、この後茶室に呼ばれることになるので正式にはまだ、採用されていないのだが…



 ♠️

 軍師―軍司令官の賓客や相談役もしくは師匠として同等の立場で意見や策を述べる者。本当の意味での軍師は歴史上まれな存在であろう。


 項羽に亜父と呼ばれた范増や劉備に三顧の礼を持って迎えられた孔明あたりは軍師と呼べるだろうか?


 俺がそのような存在に並ぶなどおこがましいことなのかもしれない。だが、ただの家臣に成り下がっては本能寺の変を防げない。俺が軍師として遇されることは必要なことなのである。


 これから茶室での最終面接が行われる。軍師として認められるのか、ただの家臣に成り下がるのか…ここが第一の運命の分かれ目だ。



〈二条城建設現場特設茶室〉


 オルガンティーノ師らは帰り、俺だけが茶室に呼ばれた。織田信長は茶の湯を好んでおり、仮屋にも茶室をしつらえている。カフェインによる覚醒作用が好きなのだろう。


 とにかく、今は織田信長と俺の2人きりである。


 シャシャシャカシャカ


 狭く薄暗い茶室に茶筅の音が響きわたる。


 そして、コトンと茶碗が俺の前に置かれる。



 俺が飲むのを躊躇っていると…


「どうした? 飲め。」

 と信長様が俺にニヤリと笑いかけた。


(その笑顔も威圧感があって、なかなか怖いなー)


 信長様の年齢はたしか、35歳だったはずだ。容姿もどこかで見たことがあるような顔だが…。


 えーと…男優でたとえたら、緒方◯人かな?あの大河ドラマのナレーターがルイス・フロイスなんだよなぁ。



「では…。頂戴いたします」

 そう言ってホストである信長様に一礼する。



「うむ」


 茶碗は右手でとって左手のひらで持つだったな。しかし…落としたらどうしよう? この茶碗、絶対高いぞ?


(城一つの価値があると言われてもおかしくない。もし、落として壊しでもしたら…お手打ち…かな?かなー??)


 戦慄を覚えるが——



 たしか…茶碗は二手半まわし、…茶は三口半で飲むのが作法であったはず。その一口目だ。


「結構なお手前で」


 また、一礼。


 ふむ…抹茶は苦いとのイメージがあるが…立て方が絶妙なのか、クリーミーでにがさがあまり気にならない。温度も絶妙だ。これが最終面接だとわかっているためか緊張してガチガチになった心身にすっと染み込むような絶妙な温かさである。


 思えば、抹茶の濃さも薄め。今の俺にはこれしかないという絶妙な温度と暖かさ、濃さなのだ!


(うまい)


 三口半で飲みきったあとには、俺の緊張感はだいぶ和らいでいた。


 そして、飲み口を親指と人差し指で拭う。


 拭った指は懐紙で拭う。


 茶碗は最初に回したのと逆回しに二手半回して置く。


 


「ふむ、茶を飲んで落ち着いたようだな…。儂とお前は夢の中であった。アマテラスオオミカミを名乗るものの紹介で」



「はい」





「お前を軍師として迎えよ。そして、お前の言うことを聞かないと儂はいずれ破滅することになると申しておったが…」



 こう聞かれたので、俺は信長様の晩年が急峻な改革に反発した家臣たちに謀反を起こされて殺されることになると説明した。



「儂のやり方は家臣の反発を招くのか…」

 信長様の顔はショックで沈んでいる感じ。



「ご自分が生きている間に全てのことを片付けようとして焦られたようですね。これだけうまい茶を入れることのできるあなた様が…」



「焦り…のう。そうならないように神はお主を差し向けたというわけか?」



「御意」



「…よかろう。お前を俺の側に置いてやろう。…どう遇してやろうか? 何ができる? お前は何者だ?」


 これに対する答えは長くなる。


 まず、ポルトガルの貴族出身で宣教師として高度な教育をうけたルイス・フロイスとしては、ポルトガル語、ラテン語、中国語、サンスクリット語、日本語を話せ、読み書きも出来る。いろんな国を巡っているから世界の情勢も詳しい。西洋の兵器や戦法、建築や芸術に明るく、ヨーロッパの貴族や貿易商や船乗りたち、キリシタン大名にも顔が効く。


 それから、アマテラスオオミカミの使いの俺としては…実は2柱の神が俺に憑いている。


〝知恵と知識と技術の神オモイカネ〟と〝香取神道流の祖神フツヌシノオオカミ〟である。


 オモイカネは地球ができてから俺が死んだ時代までのありとあらゆる知識と技術を持つ。


 フツヌシノオオカミは香取神道流の祖神であり、日本の剣術、薙刀術、棒術、手裏剣術、柔術、築城術、兵法、陰陽術などがまさに神レベルの軍神。


 最後に現代人としての俺。学校を大学まででて、プログラミング一本で大手のチーフプログラマーとなった。 

 この時代で使えるのは、歴史知識、理系の大学出身の科学の知識、あとは、プログラミングを組む論理的思考能力やバグをみつけて潰す根気、企画書や仕様書からどのようなプログラムを組んだらよりゲームを面白くプレイできるようになるか考えるという応用力、他職種とのチームプレイで培ったコミュニケーションスキルくらいだろうか?


 どのスキルも戦国時代でどこまで通用するか分からないが、俺はこりだしたら徹底的にやる性格なのでこれまで培ってきた知識や技術はこの時代でも全く無駄というわけでもなかろう。


 戦国時代のゲームのシナリオ作りを代行するにあたって、一級資料から怪しげな創作物までありとあらゆる資料も読み込んだしね。



 …俺の身の上話をしていたら日が暮れてしまった。




「お主は未来から来て、アマテラスオオミカミの力でルイス・フロイスと入れ替わったのか。それで、西洋とこの国の知識と技術、人脈を合わせもち、未来の知識まであり…神の加護もあると…。で元の録はいかほどじゃ?」


 え?録?…年収か…。


「少々お待ちを…未来と今では貨幣が違うので現在の価値に換算いたします」


「うむ」


 俺の年収は1000万円。残業代を含めればもっとあるが…これをこの時代の価値に換算すると…。

 確か一文が50円だったな。

 そして、千文が一貫。


 10000000÷50÷1000=200(貫)


 200貫か…。石高制はまだ、導入されてないが検地が導入されて貫高制から石高制に移行した際は一貫が2石~10石と地域によってばらつきがあったんだよな…。つまり、石高にして400石~2000石。信長様の所領は中部地方で商業も農業も盛んであり、一貫が2石ってことはあるまい。年収1000万円が400石は悲しすぎる。

 1000石はあると考えたい…。



「年200貫ですね」



「なら、400貫やろう。働き次第では加増もする。軍師として迎えるし、そなたの意見は決して仇や疎かにしないと公言もしよう」


 お給料が倍になった!


「恐れながら…あと、もう一つだけ織田様に頼みたいことが…」


「なんじゃ?」


「軍師として私の意見を尊重するとともに、私を殴ったり無礼討ちには決してしないというアマテラス様との口約束を文にして残して欲しいのです。」


「…よかろう。儂が破滅しないよう、言いにくいことも包み隠さずに言うように。だからといって好き勝手に振る舞っても良い、というわけではないぞ?度が過ぎるほどの専横は許さぬゆえ左様、こころえよ」


 信長様は、ジロリ。いや…ギンッ!て感じで俺を睨む。


「は。心しておきます」


 これで、俺の織田家中での軍師としての地位が確定した。そして年収2000万円、ゲットだぜ。

 


 本能寺の変まで、あと13年と2ヶ月。

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