第7話 対魔神戦 光
二つの蛇の頭をもつ異形。双頭の番人は現在魔力のチャージ期間に移っていた。
先程のような強力無比な攻撃こそ撃ち出せないものの、大型の魔人すら容易に凌駕する巨体を誇るソレにとっては、魔人を捻り潰すなど造作もないこと。
大気を震わせ、轟音めいた叫びをあげて、双頭の番人は武装を召喚した。
大剣――ビル一つ程の体長に匹敵する武装が、肉薄する少女二人を乱雑に切り捨てようとする。
目線だけを交わし合い、番人に迫っていた蛍子とソフィアは左右に別れた。
翼をはためかせ、空中での機敏な移動を可能にするソフィアは滑るように大剣を回避。
一方の蛍子は自慢の膂力を活かし、戦斧で大剣を弾き返すことに成功。
大きく分断された形に見受けられる二人ではあれど、むしろソフィアにとっては予想通りの流れであった。
「頼んだわよ……!」
空を自由自在に駆け回りながら、銃剣から閃光をありったけ吐き出していく。
しかし闇雲に攻撃をぶちまけているわけではない。
双頭の番人の弱点として考えられる可能性の高い場所に、僅かなズレもなく着弾させていたのだ。
狙撃の安定した成功は、勿論ソフィアの射撃能力の高さに裏打ちされている部分が大きい。
だが、明らかにソフィアへと向かう反撃の数が少ないことも、彼女が双頭の番人の弱点を探るには必要不可欠なピースなのだ。
「甘えてばかりでもいられないけどね」
ソフィアの役割は蛍子を囮に敵の弱点をあぶり出すこと。されどそれだけにはあらず。
彼女は俯瞰した目線で相方の危地を把握。蛍子に襲いかかる大剣を、生み出した光の壁で防いでみせた。
ひとまずの無事を確認し、ソフィアは再び自らの役割に没頭していく。
「助かりましたよ、ソフィア様」
弱点探しと掩護。とにかく頭を使うソフィアとは異なり、自分の役割は非常に単純明快であるのだと蛍子は考える。
双頭の番人の懐に潜り込み、何も考えず戦斧を振り回してさえいればいい。
しかし肉弾戦に秀でた蛍子であってもしのぎきれない攻撃というものは当然存在し、尚かつ、いつものように馬鹿正直に受けていてはすぐ様戦闘不能となってしまう。
そういった場合は全力での回避一択なのだが、先程のソフィアは実に的確なタイミングで援護を挟んでくれた。
心強い味方の存在に感謝しつつ、蛍子は戦斧を双頭の番人の首に突き立てた。
ある程度は刺さった。けれども致命的なダメージとまではいかない。
手応えのなさに顔をしかめつつ、引き抜いた戦斧を盾にする。
双頭の番人が振り回す大剣が迫り、魔導兵器と接触。
火花を散らす鍔迫り合いを繰り広げるも、
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
腹の底から蛍子は叫ぶ。
あらかじめ雑魚から受けておいた傷、及びダメージで底上げしておいた身体能力の強化がなければなし得ぬ力技。
けれども、蛍子は固有魔法【被虐願望】と持ち前の狂気じみた根性だけで、双頭の番人との力勝負に真っ向から競り勝ってみせた。
競り負けた双頭の番人が大きく体勢を崩す。
鎧が覆う箇所は装甲がぶ厚い。やはり蛍子は何度も果敢に攻撃を試みていた首へと、戦斧の刃をめり込ませる。
さらに後方から閃光が立て続けに飛来。魔人二人の決死の攻撃に、たまらず双頭の番人はおどろおどろしい悲鳴をあげた。
そこで、魔力の質が変じたことを感じ取り、蛍子が素早くその場から離脱。
彼女が安全圏へ何とか退避したと同時に、大規模な魔力爆発が巻き起こった。
閃光が晴れた次の瞬間には、巨人の身体を包んでいたはずの鎧が消し飛んでいた。
おそらくチャージ期間でありながら、敵対者を反射的に排除しようと試みた結果であろう。肉体を守る鎧の魔力を今の爆発に回した形のはずだ。
その隙を見逃すソフィアではなかった。
彼女は双頭の番人の弱点と思しき場所を探るべく、鎧の下に隠されていた箇所を集中的に狙う。
蛍子は双頭の巨人の懐へと舞い戻り、囮としての役割を果たすため、笑みすら浮かべて勇猛果敢に立ち向かうのだ。
「――見えた」
ついに突破口が現れる。
ソフィアが放った閃光に焼かれた肉体の奥で、闇の色をした宝玉が潜んでいた。
あれこそが弱点――直感的に理解したソフィアは、自らの魔力を銃剣に注ぎ込む。
だが――、
「っ、間に合わない!?」
魔力の充填が終了したと思しき双頭の番人が、二つの蛇の頭から炎と氷、二つのブレスを吐き出した。
二度目は守り切れない。
だからこそ、それまでに決着をつけなければならなかった。
赤と青。二つの光が全てを葬り去る光景をソフィアは予感した。
「――蛍子!?」
悲観的な予測は覆される。戦斧が炎と氷で形作られた死の吐息を真正面から打ち砕いたのだ。
しかし幾ら耐久力が高いといえども限度はある。攻撃の余波に巻き込まれて消滅することこそなかったが、蛍子はソフィアや他の魔人を守り切った確信を得たような表情を見せた直後、戦斧と共に墜落していった。
下にはグラーティア家や一ノ宮家が控えているはずだ。ソフィアは敢えて冷酷に眼前の現実を割り切った。
「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
魔を滅する光が、破裂寸前のところで魔導兵器の内に踏みとどまっていた。
されど枷は所有者の命により外され、後はただ暴走さながらに直進するのみ。
仲間の犠牲を断じて無駄にはしない。
ソフィアは魔導兵器を強く握り締め、未だ露出したままの弱点へとありったけの光を注ぎ込んだ。
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