第7話 妹を守るのが兄の役目

 昼食後も様々な店舗を回った月都達。


 あっという間に楽しい時間は過ぎ去り、時計の針は夕刻を指し示す。


 小夜香は一足先に帰宅。月都とローレライは暫く辺りをぶらついていたものの、アイスを食べたいとローレライがねだったので、月都は列に並び、彼女はベンチに腰掛け彼を待ち、その後自宅に戻ろうという流れになった。


 コーンに入ったアイスクリームを慎重に抱えながらも、足を早めてベンチへと月都はたどり着いた。


「月都お兄ちゃん!!」


 本来そのベンチには月都の妹一人が待っているはずなのだ。


「何、お兄さんなの?」


「彼氏じゃないのならさ、ちょっとお兄さんからも、この娘に言ってくれない?」


「俺達暇だから、あんたの妹ちゃんと遊びたいだけなんだよねー」


 だがしかし、何やらガラの悪そうな若い男達が、一人怯えた様子を見せるローレライを取り囲んでいたのだ。


「生憎と、彼女はあまり男性慣れしていないので。はいそうですかと、差し出すわけにもいきません」


 一瞬にして敵性認定は済まされる。


 日頃は温厚と称される月都の瞳が、剣呑さと共に細まった。


「あんた、高校生? ちょっと口の利き方なってないんじゃない?」


「つーかゴチャゴチャうるさすぎるんだわ。大人しく彼女を渡してくれないと――」


「――渡してくれないと、どうなるんです?」


 男達の威圧にも、一切怯むことはない。


 むしろ月都の冷ややかな返答に、男達が気圧された側だ。


 最もそんな醜態を認めたくないとでも言わんばかりに、今度は月都を数に物を言わせて取り囲み始めるのだが。


「ローレライ、これ持ってて」


 両手に持っていたアイスクリームを、月都は微笑みながら、背後に庇うローレライに手渡した。


「お兄ちゃん……」


 妹の目は不安でいっぱいだ。


「大丈夫。兄は妹を守るものだよ」


 けれど、そんな心配は不要でしかないのだと、優しげな微笑から力強い笑みに切り替え、月都は拳を握り締めた。







 とはいえ月都は強がりでも何でもなく、事実を語ったのみ。


 結果は順当で、どこかあっけなくさえあった。


「流石、私の月都お兄ちゃんなんだよ」


 はむ、と。やや溶けかけているアイスクリームをローレライは口に運ぶ。


「これでも元運動部だし。あんな軟弱な奴らに喧嘩で負ける道理はないかな」


 月都も妹と同じく歩きながら、アイスクリームに舌鼓を打っていた。


 監視カメラの死角になっている上に、丁度人通りの少ない場所ではあったのだが、ローレライに言い寄る狼藉者を少々痛めつけたのは事実だ。


 二人はすかさずその場を離れ、何食わぬ顔でショッピングモール内の道を進む。


「月都お兄ちゃんが守ってくれると、幸せに気持ちになるの」


 あどけなくも可憐な面持ちで、月都を見上げつつ、ローレライがしみじみと語った。


「それはその……なんと言えばいいのか難しいけれど、光栄なことだね」


 嬉しくはある。しかし当然のごとく気恥ずかしさも付き纏うがゆえに、月都は思わず照れてしまった。


「だけど、私は。私が。月都お兄ちゃんを――守らないと」


「え? 何か言った?」


 ローレライがナニカを告げたタイミングと、月都達が店を出て、風にあおられたのは全くの同じ。


「えーっとね。明日もお兄ちゃんと幸せな日々を過ごしたいって、そう言ったんだよ」


 残ったコーンを一口で食べ終えたローレライは、勢い良く月都の腕にしがみついた。


 既にアイスクリームを食べ終えていた月都も、妹の甘えを拒絶することなく、愛しげな眼差しをローレライに注いだ。






「うわ、もうこんな時間か」


 ショッピングモールから自宅へと帰還。自室にて明日の予習をするべく机に向かっていた月都は、相当に集中していたらしい。


 おもむろに時計へと目をやると、とっくに平時の就寝時刻を軽く超えてしまっていた。


「早く寝ないと」


 手早く片付けを終え、明かりを消す。


 そのままベッドに潜り込む。日中に軽い運動を行ったからか、寝付きは思いのほかに良かった。


 布団に入って十分と経たず、月都は眠りに沈んでいく。








 ――そして、悪夢を見る。

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