第27話 対序列二位【魔聖女】戦 堕天使

 月都が放った魔の矢と、ソフィアが撃ち出した漆黒の閃光は空中にてすれ違い、交差。されどそれも一瞬のことで、それぞれが敵対者をほふろうと速度を上げて襲いかかるのだ。


 月都は固有魔法の一つ【這い寄る触手】、無色透明不可視のソレらをうごめかせる。圧倒的物量によって漆黒の閃光を押し返した。


 一方のソフィア。彼女は翼をはためかせさらに上空へと飛翔。機動力をもって攻撃を回避する。


 しかし彼らの本気はこんなものではない。今の攻撃は単なる挨拶代わり。


 ソフィアは攻撃を回避したのみならず、巧みな空中機動で瞬時に月都へと肉薄。鋭利な銃剣の刃を首元に突き立てんと、刺突の要領で突き出した。


 だが、刃が肉を裂くには至らない。


 月都は後ろに倒れる体勢でソフィアの剣撃を避けた後、無茶苦茶な姿勢から、それでも安定して弓を引くことでゼロ距離の射撃を浴びせた。


「……やるわね」


 衝撃を完全に殺し切ることはさしものソフィアにも難しかったようだ。それでも背中に展開された翼を防御壁となすことで、ある程度まで威力を削ぐことには成功させたらしい。


 ふっ、と。ソフィアの像がここに来て唐突に掻き消える。


 しかし気配は背後にあることを察知して、月都は振り返るには間に合わないと、【這い寄る触手】を先に後ろへ向かわせた。


「はぁっ!!」


 気勢と共に背後の触手のほとんどが、ソフィアの銃剣に取り付けられた刃によって斬り断たれるのだ。


 けれどそこまでは月都とて予想の内。


 あらかじめ魔力で強化させておいた脚をソフィアの顎を目掛けて蹴り上げた。


 今現在触手の対処へとソフィアの意識は僅かではあるが逸れており、月都の蹴り技への反応は必然、一拍程度ではあれど遅れざるを得なかった――が。


「爆ぜなさい」


 ソフィアの余裕は決して崩れず、体勢を銃剣を振りかぶった状態から立て直すよりも早く、命令の文言は用意されていたかのようにするりと口から漏れ出る。


 蹴り技を繰り出そうとしていた月都の軸足に漆黒の渦が絡み付く。


!!」


 このままでは自分の足を爆破によって持っていかれる――一瞬先の不都合な未来を察知した月都が保有する固有魔法の一つ、【支配者の言の葉】。口にした言葉通りに世界の事象を書き換える特大級のチートを、己がかかった罠に向けることで、爆発が起こる前に罠そのものを消し去った。


 けれど、ソフィアの隙を狙った蹴り技、本来は必中の一撃であったはずのソレは、彼女に回避するだけの猶予を与えてしまったために空を切り、不発に終わった。


「随分と意地の悪い攻撃で」


 先程月都の脚に絡み付いたのは、ソフィアがあらかじめ仕込んでおいた設置型の罠だ。


 蛍子のような受けたダメージ分だけ身体能力を底上げするようなシンプル極まりない固有魔法【被虐願望】とは異なり、ソフィアが保有するのは【聖邪併せ持つ裁きの鉄槌】と呼ばれるもの。


 基本的には閃光を操り、展開させた翼での空中機動を主体とするが、先程のように不可視にして忍ばせておいた閃光を、そこに対象が通ったことで地雷として発動させる罠を仕組むことも可能とさせる抜群の応用力を誇っていた。


 しかも現在は暴走状態であるがゆえに、威力は平常時よりも段違いである。


「つー君を相手にするのだもの、これくらいの用心は当然よ」


 一旦、空中の等間隔の位置にて距離を取った両者。


 殺るか殺られるかのせめぎ合い。一瞬の選択に命を賭けた、鬼気迫る近接戦の疲労が遅れて月都の肩にのしかかるが、魔力を体内に巡らせることで倦怠感を高揚で上書き。無理やりに吹き飛ばす。


「お互い慣れないことをするものじゃないわね」


 クスリ、と。間合いを大きく保ちながらも、ソフィアは口元に手を当てて優雅に微笑んだ。


「あずさやルコ程には、お互い届かないからな」


 苦々しげに月都が言った通り、そもそもの彼とソフィアの本分は、暗殺者として戦闘訓練を受けたあずさや、泥臭い持久戦を得手とする蛍子とはそれぞれ異なるのだから。


「それもそうね。さぁ、身体も温まったことだし、私達の舞踏ワルツを始めましょう?」


 宣言するや否や、ソフィアは銃剣を天高くに掲げた。


 彼女を中心に漆黒に染まった閃光の杭が並び立ち、満開の花々のごとく咲き誇る。


 漆黒の花に囲まれたその姿は、邪悪にして高貴。堕天使めいた威容で君臨する女は、掲げていた銃剣を指揮棒にも似た所作で振り下ろす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る