第269話 突撃

 私達はウーウェンに乗ってシュヴァルツブルグ帝国内を進んで行く。

 やはり時折抵抗してくる勢力がいたけれど、祈りの石の力を使うと、みな我に返ったように戦意を失っていった。


「……これってどういうことなんだ。我に返るのはいい。それで皆が皆戦意喪失って……」

「……洗脳に近い状態なんだろう」

 マルクの疑問に、レティアが答えた。


「別に、国同士や他国の人同士でいざこざが元々あるのならいざ知らず、理由もなく突然皆戦争をする気になるなんておかしいだろ」

 リィンが我に返った人々を眼下に見ながら、分析していた。


「じいちゃんも言っていたよ。サルテンブルグ王国とシュヴァルツブルグ帝国の間に争いなんて元々ないんだ。強いて言えば、シュヴァルツブルグがこの大陸を制覇しようと、過去に何度か目論んだことがあるだけだって。じいちゃんもそれで収容されたことがある」

 そう言って、リィンは唇を噛んだ。


「……ちゃんと、考えを改めてもらわないとね」

 私は、祈りの石をぎゅっと握りしめる。


 彼らを倒そう、などとは考えてはいない。

 だって、それじゃあ、彼らのやり方と何ら変わりがない気がするから。

 力には力、それではダメ。


 彼らに。

 ゲルズズと、ゲルズズに操られているという皇帝にこの石を使えば、きっとすべてが上手くいくはず。

 過ちを認めてもらうんだ。

 そう願って、私はやがて小さく見えてきた帝国の王城を、目を細めて見るのだった。


 城の上は厚い暗雲に覆われていて、その雲間に時折稲光が見える。

 でも、その厚い雲がわずかに空いた隙間があって、そこから日の光が一筋私達のことを照らしていた。まるで、祈りの石、私達に与えられたただ一つの希望を表すかのように。


 ◆


 城内に入ると、祈りの石で心を取り戻してくれる人だけでは済まない。

 職務に忠実にという、ある意味の誠実さで私達に攻め込んでくる人兵士達がいた。


「せーの!」

 マルクがハルバードの柄を帝国兵の腹に打ち込み、気絶させる。

「せいっ!」

 レティアは剣のさやで打って相手を打ちのめす。

「せーのっ!」

 リィンでさえも、脳震盪で済む程度に軽く頭を打っていた。

 大勢でやってくれば、ウーウェンが人型に翼をはやし、その翼で煽るとみんな転んでしまう。そこをみんなで後追いするように、リーフやレオン、ティリオンも含めたみんなで気を失わせるのだった。


 ……一応、あとでポーション弾を撃ってあげた方がいいかな?


 少し心配になったけれど、ここは先に進ませてもらうためには仕方がない。

 戦意のある人達には、一人一人気絶してもらってから、私達は先へ先へと進むのだった。


 さらに私達は城への道をたどってとうとう城内へと続く壁の前にたどり着いた。

 それは、リーフ、レオン、ティリオンの跳躍と飛翔力の前には意味をなさない。彼らの力を使って、私達は易々と壁を超える。


 さらに、割りやすそうな窓を見つけて、それをリーフが体当たりして割って、そこから城内へ侵入した。

 私達は城内を奥へ奥へと進む。


 不思議なことに、城に入ってからは祈りの石がまるで「こちらだ」とでも言うように、ある一点を指し示す。

「多分、こっちへ行けってことだと思うの」

 私はみんなにそう伝えて、その案内に従って城内を進むことにした。


 城の外ももちろん長かったけれど、城内も長い道のりだった。けれど、こちらは本来Sランク級といわれるほどの腕前の冒険者のマルクとレティア、そして、規格外のリィンに、エルフの王女として卓越した腕前を持つアリエルがいる。

 今までの冒険に比べたら、兵士や騎士など相手にもならなかった。


「ごめんなさい。あとで怪我していたら治すから」

 そう言い残して、私達は城の奥へと進むのだった。


 やがて、一つの巨大で豪奢な装飾を施された扉の前にたどり着いた。

 祈りの石の光はその中をまっすぐに指し示している。

「……ここだと思う、多分」


 すでに、その扉を守っていた兵士には眠ってもらっている。

 私達は、その扉を開けた。


 そこにいたのは、玉座とおぼしき豪奢な椅子に座る老人。そして、彼のそばに侍る黒いローブを纏った老人が立っていた。

 ローブ姿の老人は、首からネックレスをさげていて、そこには赤く小さな石が留められている。

 また、その老人の立つ横には袖机が置いてあり、そこに一つのフラスコが置かれていた。


 そして私が持つ祈りの石は、その光でまっすぐに、その赤い石を指し示していたのだった。

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