第267話 みんなで行こう!
私は、書き置きをした。
『必ず戻るつもりだけれど。もしもの場合は、マーカスを中心にアトリエを守って』と。
どこに行くかはもちろん書けなかった。
そして、王都の西門を出て、ウーウェンとリーフと一緒に王都の外に出た。
私達は、ウーウェンが竜の姿になっても迷惑をかけなさそうな、広い平原を目指して走っていく。
「ウーウェン。ここなら大丈夫そう。竜の姿になって、私達をあの国に連れて行ってくれる?」
「勿論だよ!」
人型のウーウェンが頷いた。そして人型を解いて、竜の姿になったとき。
私達の背後から声がした。
「「「おーい!」」」
「デイジー様ぁ!」
「えっ?」
私はその声に驚いて振り返る。
その声は私が知っている人達の声。
リィン、マルク、レティア、アリエルだ。そして、レオンとティリオンもいる。
「みんな!」
私は瞳を瞬かせた。
「どうしてここに……」
「バァカ。お見通しなんだよ」
リィンが笑って、足を止めた私に追いついて、くしゃくしゃと頭を撫でる。
「ロッドをデイジーに預けたあと、ぜーったい勝手なことやりそうだからって、みんなを集めたんだ」
「……戦力がリーフとウーウェンだけでどうするんだ。ましてウーウェンじゃ相手を殺しかねないぞ。そうしたいのか?」
マルクが呆れたように指摘する。
「あ……」
そうだった、と。私は思い直す。
私は、『すべての人を』笑顔にしたいのだ。
戦争なんて起こらないようにしたいのだ。
「私達なら峰打ちとか、相手をあやめずに無力化する術を知っている。連れて行って損はないぞ? ……なにせ、相手は相応の相手なんだろう? ならば、ある程度の戦闘だって想定内のはずだ」
レティアが珍しく饒舌に説明してくれた。
「……そういえば……」
相手は、国王お抱えの錬金術師ゲルズズ。
ならば、国の城の奥にいると考えておかしくないだろう。
「あの、ね……」
もう、みんなには私のやろうとしていることをきちんと伝えようと思った。そして私は口を開いた。
「ゲルズズという錬金術師が、賢者の石を作りたがっているの。でも、その素材が……人の魂なのよ」
「……うん、それで?」
マルクが、穏やかな声で、先を促すように相づちを打ってくれる。
「本来は世界樹を枯らすことで、冥界に眠る魂を得て、それで作ろうとしていたみたい。でも、それを私は邪魔してしまった」
「……うん」
「それで思いついたのが、戦争を起こすことらしいの。最近、シュヴァルツブルグが戦争が起こすって噂聞いてない?」
「ああ、聞いたな、その噂」
ドラグさん経由であの国と関係のあるリィンが顔をしかめた。
「……彼が戦争を手段として思いついてしまったのには、私が世界樹を救ったことも一因なの」
「デイジー様、それは違います! そもそも世界樹が枯れていれば、世界が崩壊するのですから……」
里を救ってもらったエルフのアリエルが私の言葉を否定する。
「わかってる。わかっているけど……。でも、私に一因があること、それもまた事実なのよ」
「……だから、自分が行く、と」
マルクが盛大にため息をついた。
「……お前さんが考えそうなことだ」
そうして、仕方がないなあって顔をして笑って、頭をくしゃくしゃとされた。
「……お前さあ、一つ大事なこと忘れてない?」
「え?」
マルクに尋ねられた。
「最初に契約しただろう?」
レティアがぽつりと告げる。
「「……永久護衛権」」
二人が揃って告げて、指にはめた指輪を私にかざしてみせる。
「全く。まずは俺らに相談しろよ」
マルクが肩をすくめて笑う。
「アタシ達はパートナーじゃなかったのかよ」
そう言うのはリィン。
「……私は受けた義理は返す主義だ」
ぼそぼそと呟くのはレティア。
「私はまだ、里を救ってもらったご恩を返しきってません!」
そう握りこぶしをして宣言するのはアリエルだ。
「みんな……」
私は、視界がぼやけるのを自覚する。
湧き上がる涙が邪魔をしたのだ。
「じゃあ、ボクの背に乗って行くのは、ここにいる皆さん全員ってことでいいかな?」
「「「「オッケー!」」」」
「みんな……!」
そうして、みんなでシュヴァルツブルグに乗り込むことに決定したのだった。
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