第266話 デイジーの決意
「そうだな……、どうせなら、デイジーのアゾットロッドにつけられるように加工しとこうか? で、その上でネックレスにもブローチにも出来るようにしておいてやるよ。そのほうが、そのときの状態によってあわせやすいだろう?」
「それもそうね」
リィンが提案してくれた案は魅力的だった。
よくあるのだ。
王冠や王錫、ティアラなどを飾る宝石って、普段は外してブローチやネックレスにも出来るように細工してあるものって。
そんな感じに加工してくれるのだという。
……これから、どうゲルズズに立ち向かうのかはわからないけれど……。
どんな形状でも身につけられるというのは、とても魅力的な提案なのだと思った。
私は、祈りの石と一緒にアゾットロッドも預け、一旦帰宅したのだった。
◆
「ねえねえ聞いた? デイジーちゃん」
ある日店番をしていると、常連の女冒険者のさんに雑談を持ちかけられた。
「どうかしたんですか?」
「それがね……戦争が始まるらしいのよ」
「え……」
どうやら、機密情報だった話題も、情勢故か、噂になってきているのだという。
もちろん、国の機密が漏れたというわけではない。
ただ、シュヴァルツブルグからの移民が増えたとか。
その彼らが、桑や煮炊きするための釜など、溶かして武器に出来るような金属を徴収されていて、生活もままならないとか。
そんな噂から、憶測が広まっているのだという。
「だからね、来るべき日のために、もっと強くなっておこうってみんなで言っていてね。みんなで訓練も兼ねて、冒険に行く頻度を上げようと思っているのよ。大丈夫、デイジーちゃんは後方支援をよろしくね! みんな、あなたのことは大好きだから、守ってあげるわ!」
そう言って、くしゃくしゃと私の頭を撫でてくれる。
「そういうわけで、デイジーちゃん特製のポーションをいくつか買っていくわ!」
「ありがとうございます」
私は、接客なので、ぎこちなくならないように気をつけながら笑顔を作ってお客さんを見送った。
チリン。
扉の呼び鈴が鳴って、お客さんが去って行く。
「……ありがとう、ございます……」
思わず、涙がこぼれてしまった。
『みんな、あなたのことは大好きだから、守ってあげるわ!』
その言葉が嬉しくて。
そして、そんなみんなが傷つくようなことは本当はして欲しくなくて。
そんな複雑な胸中から、涙がこみ上げてきたのだった。
◆
「デイジー! 出来たぞ!」
アゾットロッドに祈りの石を飾ってもらったものを持ってきてくれたリィン。
「リィン、ありがとう」
私はそれをありがたく受け取って、その工賃を支払った。
「じゃあ、アタシは今日は帰るけど、なんか一人でやるとか無茶するなよ? 何かするなら必ず相談すること!」
そう言い含めてから、リィンは帰途についた。
私は、アゾットロッドに飾られた祈りの石を撫でる。
「……私はどうしたらいいんだろう」
石に尋ねてみたものの、石の『声』は聞こえなかった。
……私は、戦争自体が起きて欲しくないの。
王都に魔獣が襲ってきたときに思ったの。
優秀なポーションがあれば、怪我をしても治る。
だけど、治るまでは痛みは感じるのよ。それまでなくしてあげることは出来ない。
……誰にも傷ついて欲しくない。
そう思い悩んでいると、ちょうどウーウェンがやってきた。
「あれ? デイジー様のロッド、ちょっと変わった?」
「うん、グエンリール様が作りたがっていた石が出来てね……それを飾ったのよ」
そう説明してから、その石を撫でて見せた。
「すごい! これがあれば戦争も争いもなくなるんだ!」
「……え?」
「グエンリール様が言ってた! あいつの心を改心させるために。あいつに心をむしばまれたものを癒やすためにこの石が必要なんだって!」
「……!」
ならば。
「……ねえ、ウーウェン。もし、もしよ? 私がウーウェンの背中に乗せてもらって、この石を使ったとしたら……」
「ひとっ飛びであの国に行って、その石を使えるんじゃないかな?」
「ウーウェン! お願い、私を連れて行って!」
「さっすが、グエンリール様のご子孫、ボクのご主人様だ! ……って、大体の敵はボクが排除できるとして、デイジー様の防御はどうするの?」
「私にはこの石があるから……」
そう言って、私は左手の中指につけた指輪に触れる。
……そう。きっと、緑の精霊王様が守ってくださるわ。
この指輪を装備していれば、魔法も武器攻撃も通じない障壁が出来るから。
だから、きっと大丈夫。
……私が。
……私が、一人……いえ、ウーウェンと一緒にあの国に行ってこの指輪を使えば。
この世を儚んで去ってしまったいにしえの神々の思いも、きっと、かなえて差し上げることが出来るはず。
……戦争なんて、絶対に起こさせないんだから!
私は心に決めるのだった。
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